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2007年12月掲載

広帯域および携帯電話サービスの地方への普及促進と、遠隔医療の大規模なパイロット・プログラムの立ち上げを目指すFCC
−ユニバーサル・サービス制度を前向き積極活用−

 FCCがユニバーサル・サービス制度を大改革して、二つの野心的な政策目標の実現を目指す構想を発表した。

 一つは、広帯域サービス携帯電話サービスについて、いまだサービスが十分ではない地域でのインフラ整備と運営にユニバーサル・サービス制度の助成金を拠出するもので、もう一つは、遠隔医療(Telehealth)の雛型のパイロット・プログラムにも450億円をユニバーサル・サービス制度から助成金を充てるというものである。

 米国では、競争の導入とともに競争事業者が参入したがらない僻地等の不採算地域でのサービス提供を既存事業者だけが義務付けられることに対して、1996年電気通信法制定当時からユニバーサル・サービス制度を確立し、赤字サービスに対する助成が確実に実行されてきた。その基金の規模も一時5,000億円にも達している。我が国でもこれに倣い、ユニバーサル・サービス制度は導入されたものの、その実行は大変遅れ、ようやく最近になって赤字に見合う補填が実現したものの、たちまち、制度制定時に比して事情が変化したとして制度の抜本的な見直しを行うとして、先行きが流動的になり雲行きが怪しくなりつつあるのとは対照的といえよう。

■米国のユニバーサル・サービス制度

 米国のユニバーサル・サービス制度では、州以下が、低所得者への電話架設費用補助と毎月の電話料金の補助を行なっている例が多いが、これとは別に連邦としてもFCCがユニバーサル・サービス制度を設けている。

連邦のユニバーサル・サービス制度は、

  1. 高コスト地域への事業者に対する補助
  2. 低所得地域への事業者に対する補助
  3. 地方医療機関への遠隔診断システム等での補助
  4. 学校/図書館へのインターネット等の高度通信システム導入への補助

の4種類から成り立っている。

 このうち4.の学校/図書館関係の補助は、先の民主党政権当時、副大統領のGore氏の提唱により、いわゆるデジタル・デバイドの防止のため、貧しい子弟にもインターネット等の高度通信になじませることを目的として創設された。3.とともに、特別な政策のための助成であるため、1.および2.の「事業者の赤字補てん」という典型的なユニバーサル・サービス補助とは異なり、ユニバーサル・サービスの枠には入らないとして批判もあった。
4.は、インターネット等の学校や図書館への導入費用の助成と、設置後の通信料金等の割引がその内容となっているが、2-3年前の実績では、ユニバーサル・サービス助成金総額が5,000億円程度のうち半分以上を占めていた。加えて、件数が多く、不正や虚偽の補助申請も多く、FCCの管理監督のずさんさが議会等でも度々批判されてきた。

 ユニバーサル・サービス制度では、FCCの委託を受けたユニバーサル・サービス基金管理運営の特殊法人が、毎四半期に助成所要額を算定し、全電気通信事業者にその売上高に応じて定率で拠出金を割り当て、徴収して配布する仕組みとなっている。補助総額が多額に上るようになったため、事業者の多くはその負担分を料金請求書に別項目を立てて顧客に転嫁、請求することとしたため、改めて?の助成が果たしてユニバーサル・サービスの範疇にはいるのかどうかの議論を蒸し返した経緯もある。

 ユニバーサル・サービスについては、最低の通信手段である音声電話だけを対象とし、インターネット等のいわゆる高度サービスについては「ぜいたく品」として除外すべきであるという考え方が伝統的にある。しかし近時、米国での広帯域サービス等の高度サービスの普及の遅れ(ITU調査では米国の広帯域サービス普及率は21番目)に対する危機感が真剣に取り上げられ、FCC委員の中でも特に民主党系委員が議会で訴えている。Copps委員は、「欧州やアジアでは高速インターネット・アクセスが目覚ましく普及しているのに、米国ではまだダイアルアップ方式のきわめて遅いインターネット・アクセスが大半を占めている。これでは米国の子弟たちは情報取得で大きく立ち遅れることとなり、将来に大きなハンデとなる。」と議会に直訴したり、ワシントン・ポスト紙に投稿したりしている。

■今回のFCCの措置

(1) 広帯域および携帯電話サービスの普及促進策

 今回FCCが発表したユニバーサル・サービス制度の大改革の第一は、FCCと州の公益事業委員会メンバーとの合同委員会がおこなった勧告である。 今年9月に「ユニバーサル・サービス助成に関する連邦/州合同委員会」は、「高コスト・ユニバーサル・サービスの長期的視野での抜本的改革について」の声明を出し、あらたに「広帯域サービス」のインフラ整備等も助成の対象とする方針を示していたが、このほど11月にその詳細の勧告が発表された。

 今回の勧告本文で明らかとなったのは、これまでは人口密度が低いルーラル地域などでの電話事業の赤字の補てんを主目的とした「高コスト地域への助成」を三分割し、次の三つの別個の基金を創設することとしている点である。

  1. 「広帯域基金」(The Broadband Fund)
  2. 「移動通信基金」(The Mobility Fund)
  3. 「サービス提供の最終責任事業者基金」(a Provider of Last Resort (POLR) Fund)

 従来型の助成は、3.として存続する一方、広帯域サービスの普及促進のため1.「広帯域基金」を設け、第一義的には、未だサービスが提供されていない地域で新しい広帯域サービスむけの設備の建設を促進する助成とし、さらに、第二義的に、既にサービスは提供されているもののその質が十分ではない地域でのサービス改良のための助成と、多額の設備建設助成を受領した後であっても顧客の密度が低いことから広帯域設備の運営の採算が厳しい事業者に対する継続的な運営助成の二つを対象とする。
2.「移動通信基金」(The Mobility Fund)は、未だサービスが提供されていない地域に携帯電話等の無線方式の音声サービスを普及することをその使命とするとしている

 前述のように、米国のユニバーサル・サービスは、これまでも、単なる赤字補てんという消極的な性格を超えて、「地方医療機関への遠隔診断システム等での補助」や「学校/図書館へのインターネット等の高度通信システム導入への補助」といった政策的な施策にも拡大されてきたが、今回さらにこれと軌を一にして、「広帯域サービス」と「移動通信」の普及促進のためにもユニバーサル・サービスを活用するというポジティブな姿勢をとったことは、大きな前進とみるべきであろう。

 このほど、ユニバーサル・サービスに関する連邦と州の合同委員会が、単なる「ベーシックな最低限必要なサービス」を超えて「広帯域サービス」までを、音声や携帯電話と並んで助成の対象として明確化したことは、FCCのCopps委員(民主党系)の言葉を借りれば、「まさに、歴史的な一歩前進だ」ということになろう。Copps委員は最近、上院の中小企業振興委員会での証言でも、この問題に触れている。 インターネットがユニバーサル・サービスの対象となるのはもちろん、それを超えて、高速・広帯域サービスまでをユニバーサル・サービス制度の助成対象とした今回の合同委員会の勧告は、大きな意義を持つものといえよう。

 ただし、近時、従来型の「高コスト助成」が急増し、問題となっているうえに、今回の改革で広帯域や携帯電話対策が新たに加えられるため、この基金の規模が大幅に膨らむことが予測されるので、基金の給源が結局は顧客の支払う料金値上げという形になって跳ね返るのを避けるため、今回の勧告は、「広帯域の普及のために十分な基金を提供することに合同委員会は強い関心を持ってはいるものの、これらの消費者に大幅な増加負担をかけることは避けたいと考えている。したがって、現行の制度から新しい基金制度への移行する方法でもほぼ現行の基金規模を維持するよう勧告するものである。さらに、高コスト・ユニバーサル・サービス助成制度により支給される金額の総額について限度額(cap)を設定するよう勧告するとともに、既存の基金をより一層効率的に利用する施策を勧告する」としている。

 今回の合同委員会の報告は、今後の具体的な施策やメカニズムの細部についても一応の目安や基準案をも示してはいるものの、今後の具体的な施策の策定にはまだ時間がかかろう。また、広帯域サービスへの助成の具体的な範囲等もこれからの論議となる。

(2) 遠隔医療(Telehealth)のパイロット・プログラム

 前述のごとく、連邦のユニバーサル・サービス制度には従来から「地方医療機関への助成」があったが、今回FCCは、とくにルーラル地域の医療のTelehealthによる近代化をはかるための具体的なパイロット・プログラムを打ち出した。

 42州と3準州で州域または一部地域の広帯域医療telehealthネットワークのために417百万ドルを拠出するとしており、参加資格のある医療機関や大学、研究所、クリニックも全国の6,000以上がすでにリストアップされている。参加者はネットワークの設計と建設の費用の85%までが補助される。

■ユニバーサル・サービス制度を積極的な政策の実現の足がかりとして活用

 ユニバーサル・サービス制度を単なる「事業者への赤字補てん」という後ろ向きな施策に留めず、それを土台にして全員が納得する積極的な情報通信政策目標の達成を目指すFCCの姿勢は、やはり高く評価されてよいのではないか。

寄稿 木村 寛治
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