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ICR View
2012年8月7日掲載

ICTを巡る基本論議
−制度と運用のグローバル対応が必要−

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先月本欄において、ICT関連で国益に直結する基本的な法制に関して、企業法制、通信法規制、個人情報保護の3点を取り上げました(こちら)。さらに直近でも、(1)ヤフーが8月から始めると発表した「興味関心連動型(インタレストマッチング)広告」が通信の秘密の侵害に該当するのかどうかについての総務省当局の判断が注目されています。また、(2)最近普及が進んでいるクラウドサービスの利用の際の外為法上の許可の要否の問題、などこれまで既存の法体系の下で起こっている事象に対して課題解決を明確に行ってこなかった、むしろ問題先送りで今日まで手つかずできた事象に対し、いよいよ基本論議が求められ、方向性が問われる状況となっています。これらは日本の法制のあり方、政府当局の取り組み姿勢の問題と言えます。

ICTに係るネットワークインフラに関しても、言葉の上だけの融合論議ではなく、(1)現実のユーザー向けサービスの携帯通信と固定通信の融合のあり方(実際、利用者が求める両事業の合い乗りに対して制約が存在)と支配的事業者に約款や接続を義務づける規制をさらに続けるのかどうか、加えて(2)Wi−Fi/無線LANの普及と共同によるインフラ効用の発揮、など新しい課題が世界的にみて突きつけられています。これらネットワークインフラ・サービスにおいても、我が国では、国際的な競争やユーザーからの要望に対して取り組みが遅れて、既存の法秩序や業界利害の中での処理と調整が優先されるきらいがあります。

最近での事例でも著作権法の改正が行われましたが、改正論議当初の公正使用(フェアユース)を認めて著作物利用の制限を緩和し、前向きに利活用を進めようとする意図とは反対に、今回成立した条文では逆に著作物利用についての実務面の解釈幅が狭められ、むしろ制約が強くなったとの印象となっています(改正著作権法30条の2、30条の3、30条の4、47条の9)。これもまた主に日本国内に眼を向けていて、グローバルなサービス競争が避けられないばかりか、海外からサービスが展開される場合が多くなり、その際の内外規制格差が日本のICT新サービスの芽を出にくくさせていることをもっと多くの人達が認識する必要があると思います。

冒頭のヤフーによる興味関心連動型(イントレストマッチング)広告では、グーグル社が提供するGmail上では日本でも2005年から同種のサービスが実施されているものの、同社のサーバーが日本になく電気通信事業法上の電気通信事業者の届出がなされていないので、同法第4条の通信の秘密保持規定は対象外となり今日までグーグル社のGmail上のインタレストマッチング広告が法的に問題とされることはありませんでした。ところが、ヤフーは日本で届出をした電気通信事業者なので同社が行うと通信の秘密の侵害となりうるというのが法の建前となります。まさに一国二制度がまかり通るおかしな事態ですし、外国にサーバーを設置すれば日本国内のユーザー保護は行われないというのもおかしなことです。ここはしっかり、たとえサーバーが外国にあっても日本国内にユーザーが存在する以上、サービス事業者に日本国内に代理人を置く義務を課し、制度適用の統一を図る必要があります。もちろん、外国の上位レイヤサービス事業者に対し法的強制力が直ちに有効に働くかどうかは疑問ですが、少なくとも法的措置としては内外無差別の基本に則るべきでしょう。

このことはクラウドサービスの利用にあたって、外為法(輸出管理規制)上、経済産業大臣の事前許可を受ける原則となっていることについても同様なことがいえます。今日的状況では現実的な取り扱いとして、原則どおりの適用とはとても思えませんが、問題が国家の安全保障政策に係るだけに、逆に無関係と単純に割り切ることも危険です。問題は、今日までこの種の問題が日本国内の実務家の間では悩ましく語られているものの、外国のクラウド事業者の場合にはほとんどトピックにならず事実関係が先行してしまっていることです。ここにも基本的論議がなされないが故の内外規制格差が生じているのではないかと危惧しています。

以上、最近、気に懸っている基本的制度の整備と運用についての問題を取り上げてみましたが、これらに共通して言えることはひとつで、関心事や規制の方向がもっぱら国内に向いていて、外国からの事業者の参入の際、特にICT産業で強力な米国の上位レイヤサービス事業者との競争で規制格差が生じたり、ユーザー保護においても格差が現実化するおそれがあるということです。

前段の事業者規制の格差是正については、グローバル化を睨んだそれぞれの所管省庁での法制の見直しが求められるところですが、一方、後段のユーザー、広く消費者の保護においては規制格差を生じさせないよう政府部内を統一した新たな取り組みが必要です。現在の消費者庁には執行権限がなく、結局、省庁ばらばらな主務官庁主義に陥っている現状から抜け出せてはいません。共通番号(マイナンバー)制度法案で予定されている「個人番号情報保護委員会」を契機に、消費者保護のための機関(三条委員会)を設けることが日本の国際的信頼度を一層高め、経済面でも外交面でも国際競争力と存在感を強くする途であると考えます。

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