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ICR View
2013年1月8日掲載

2012〜2015年度実質経済成長率予想を公表−「ICT投資の影響」分析モデルの確立を目指して−

(株)情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之
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新年、おめでとうございます。2013年、本年もこのICR Viewが皆様の御参考となるよう努めて参りますので、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

さて、当社情報通信総合研究所では以前から、情報通信(ICT)産業が日本経済に与える影響を把握する一環として、経済予測と経済政策効果の検証のため、小型のマクロ計量モデルを構築し分析してきました。このモデルでは、ICT投資の増減が経済成長に与える影響を分析できるようになっておりますが、さらにモデルの精緻化に努め、ICTに関する諸変数を明示する形でモデルの拡張を図っていく予定にしております。その前段として、昨年12月14日に2012〜2015年度の実質経済成長率予想を公表したところです。即ち、2012年度1.1%、2013年度1.6%、2014年度▲0.3%、2015年度1.6%と予想しています(2012年12月14日プレスリリース「2012〜2015年度経済見通し」)。

公表したのは12月16日の総選挙投票日の直前であり、今回の予想には、民主党から自民党への政権交代による経済政策の変更などの政治的な要因は取り込んでおらず、また、予測期間のICT投資比率の変化については、2011年度の実績値と等しい値を置いて中立的なベース予測としています。これは今後、ICT投資比率の増加が予想されるものの、その増加が日本経済に与える影響のシミュレーションを行って公表するつもりからです。さらに、消費税率の引き上げの影響については、2014年4月に税率5%から8%へ引き上げられた際の効果は反映させていますが、2015年10月に予定されている第2段目の8%から10%への引き上げは政策方向を見定めた上で判断することとして、今回の予測には織り込んでいません。併せて、予測の前提となる海外経済については、2012年10月に公表された国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しとしているので、海外経済は2012年3.3%、2013年3.6%、2014年4.1%、2015年4.4%と緩やかな回復が続くと見ています。

今回の経済見通しの特徴としては、世界経済の緩やかな回復をベースに輸出の回復を見込み、一方で公的投資は震災復旧・復興投資後の減少を織り込んでいます。また、民間住宅投資は最近の増加傾向を取り込んだものとなっています。私達が注目しているICT投資の影響については、企業の設備投資に対するICT投資の割合が高まることにより情報資本ストックが蓄積されることで、業務の効率化が進み利益率を向上させるという経路を本モデル中に織り込んでいます。

過去これまでのICT投資と労働生産性の変化との関係については、2012年7月発表の総務省の白書「情報通信に関する現状報告」の中で、“ICTが成長に与える効果に関する調査研究”として詳しく取り上げられています。なかでも注目される点は、労働生産性変化率の要因分解として、総資本ストックから導き出される一般資本装備率に加えて、資本設備中の情報資本設備の割合=資本設備の情報化要因が、労働生産性の上昇に対して大きなプラス効果を発揮していることです。1980年代後半以降では、資本の情報化要因は一般資本装備率要因に匹敵する効果となっています(2012年7月、総務省「平成24年 情報通信に関する現状報告」78頁参照)。

今回の政権の自民党への再交代の結果、安倍内閣が誕生しましたが、政策の目玉として選挙期間中から、金融緩和政策とともに、国土強靭化計画が盛んに提唱されてきました。曰く、10年で200兆円の公共事業が提起され、今年度の補正予算案及び来年度予算案策定の中核的施策として位置づけられています。ただ、この国土強靭化計画が直ちに従来型の公共事業の復活であっては、再び“コンクリート化”の道となってしまいますので、ここは要注意です。注目点は、公共事業としてICT戦略をどのように取り入れるのか、ICT政策こそ新しい公共投資と位置づけるのかどうか、ということです。例えば、昨年12月に起こった中央高速道路笹子トンネル天井板崩壊事故で明らかになった、道路、橋、トンネル、堤防などの公共構造物の点検と保全の必要性を単純に人手の投入と注意力の問題にしては今後の方向を誤まることになります。本質は、これから一層進んでいく公共構造物の劣化を判別し予防保全を具体化していくことにあります。センサーネットワークの全国的な構築とクラウドサービスを通じたビッグデータ処理による分析とシミュレーションの精度向上など、ICTの出番です。この際、公共事業の一部にICT領域をしっかり根付かせる時ではないかと思います。

また、緊急の課題として、介護、福祉、医療、健康診断など高齢化社会の中核となる新サービスでのICTの利活用促進策を公共事業の分野に取り込むことがまた重要です。ICTの利活用は新しい産業分野として期待は高いものの思うようには進んでいません。それは、国民・利用者各自のID化が進まず(例えば、共通番号=マイナンバー法案は廃案)、その一方で各種の情報連携基盤が十分に整備されておらず、個々に存在するデータ構造が異なっていてデータベースの流通が図られていないのが実情なのです。ここにこそ新しい公共事業が存在すると私は感じています。これからの日本社会、日本経済が暮らし易く、安全・安心であると当時に、国際的な競争力を持ち強靭なものであるためには、安全かつ強力なID管理体制とともに各種の情報連携基盤とデータベースの共通的な構造化が公共投資として是非必要とされます。

加えて、これまで政府の産業育成策では、ともすれば製造業中心となりがちでしたが、産業別就業者数で見る限り、既に第3次産業が70.8%を占めていて、第1次産業の5.1%や第2次産業の24.1%を大きく上回っています。従って、今後の経済政策として、サービス産業における支援策及び業界秩序や既得権益に基づく規制等を改革・緩和して新しい雇用を創出することが当面何より大切な取り組みです。サービス産業は基本的には国内需要をベースにしており、そこでもICT装備比率を上げて生産性を高めることは新しい産業と雇用の創出に繋がっていきます。

日本経済の復活、即ちデフレからの脱却には、短期的には、金融緩和、円安誘導、輸出増加、企業業績回復、消費拡大の道筋が有効ですが、本来の日本経済の“強靭化”のためには、イノベーションを産み出し活力に繋がる規制改革・緩和方策と、生産性向上と雇用を並行的に実現するICT領域の新産業・新分野への政策な支援が望まれます。それが、これからの新しい公共政策・公共事業となります。ICT投資の増減による実質GDP成長率への影響のシミュレーション結果については、ICTに関する諸変数を明示する形で、今回発表したモデルを拡張し近々に発表する予定です。是非、御注目下さい。

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