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みんなのためのIT経済メモ2005
2005年9月掲載

みんなのためのIT経済メモ No.1 2005年9月号

「みんなのためのIT経済メモ」は、「IT分野の景気は今どうなっているのか?」「IT経済の今後の見通しは?」というようなマクロの視点からIT経済に関する概況をみなさんにお知らせしていくレポートです。
  1. 景気の現状
  2. IT経済の見方
  3. IT経済個別動向
  4. 今後のポイント

1. 景気の現状

内閣府、日本銀行、民間シンクタンクの現状のマクロ経済、及び景気判断の見方のポイントを簡潔に紹介します。

政府の踊り場脱却宣言

 政府は2005年8月9日の「月例経済報告」で、景気の踊り場からの脱却を宣言した。その根拠として、輸出の持ち直し、IT関連の在庫調整が終了間近にあること、個人消費が緩やかに増加していることを挙げている。翌月の「月例経済報告」(9月22日公表)でも、8月の基調判断を据え置き、前向きな景気認識を示した。日本銀行「金融経済月報」(9月9日公表)も、景気は回復を続けているとの基本的見解を示した。輸出が緩やかな増加を続け、生産も増減の変動を伴いつつ増加傾向にあり、設備投資は高水準の企業収益を背景に引き続き増加し、雇用・所得環境の改善により、個人消費が底堅く推移していると判断しているからである。

踊り場脱却時期の見解の違い

 ただし、各シンクタンクによる景気の踊り場の脱却時期に関しての見解は異なる。既に踊り場を脱却していると捉えている見方の根拠は、設備投資・個人消費が堅調であることと、輸出の増勢、電子デバイス分野の在庫圧力の後退をあげており、内閣府や日銀の見方に近い。一方、踊り場脱却時期が、夏場から秋口にかけてとの見方もある。その時期がIT関連在庫の調整に目途が立つ時期ととらえている。さらに、2006年度以降との見方があり、その根拠にはIT関連財の在庫調整が2005年度後半まで続くということと、リスク要因として原油価格の高騰がある。その他の懸念材料としては、米国の不動産バブルの崩壊と経常収支の赤字拡大、中国の高水準な固定資本投資と不動産バブルの崩壊がある。

2. IT経済の見方

情報通信総合研究所によるIT経済概況を掲載します。

 情報通信総合研究所作成のIT関連経済指標によると、2005年第2四半期のIT関連消費 IT関連設備投資は金額ベースでは低迷している。世界的なIT関連の在庫調整をうけて、IT関連輸出 は減少し、IT関連生産は、2004年後半からIT関連の在庫調整局面に入り2四半期連続で低迷している。一方、IT関連サービスは堅調に推移している。なお太字の、IT関連経済指標に関する用語の説明は、下記のコラムを参照のこと。

表1:IT関連経済星取表
表1:IT関連経済星取表
 表1は、当該期が前年同期比と比べて増加しているか、減少しているかによって、“+”、“−”を示しており、プラスの数を★の数で示している。2005年第2四半期は“★”の数が1つとなっており、IT関連経済はマクロ経済の足を引っ張るほどではないものの、踊り場の状況にあることが分かる。
 内閣府「機械受注統計」はデータの振れの大きい統計1であり 、2005年第2四半期のIT関連設備投資は前年同期比マイナスとなっている。ただし、日本政策投資銀行の「設備投資動向調査」では、IT分野の設備投資に関しては、通信・情報分野は前年度比9.4%増、電気機械分野は同12.7%と大幅増加の見通しである。通信・情報分野の投資内容は、第3世代携帯電話サービス、光ファイバー網整備、地上波デジタル化対応のための投資である。電気機械分野は、300mmウェハー対応ライン(デジタル家電向けシステムLSIなど)、薄型ディスプレイ関連投資であり、通信・情報分野、電気機械分野ともに新製品対応のための投資となっている。設備投資は生産の動向に影響を受けることを考えると、今後IT関連生産がいつ頃伸びていくのか、注目される。生産動向は出荷、つまり消費の状況に左右されるものであり、今後のIT関連消費、特にデジタル家電2の需要が持続的に上向くのか否かがポイントとなる。
  1. 機械の受注は、生産能力による上限があるわけではなく、集中しても差し障りのあるものではないので、増加と減少の幅が大きい。
  2. 液晶テレビ、DVDプレーヤー等

3. IT経済個別動向

特徴的なIT経済の個別動向を紹介します。

図1:在庫循環図(総合、IT関連在庫)
図1:在庫循環図(総合、IT関連在庫)
 景気の踊り場脱却の判断材料となる、IT関連財の在庫調整の状況をとりあげる。図1はIT関連生産指数と鉱工業総合生産指数の在庫循環図である。2005年第2四半期の鉱工業生産在庫指数総合は前年同期比+2.1%となっており、在庫が増加している。一方、IT関連在庫は+0.5%と微増となっており、いまだ在庫調整期を抜けきってはいないものの、進展している。特に、電線・ケーブルや半導体素子、集積回路等で在庫調整の進展が見られ、IT関連財の在庫調整は終了間近となっていると判断できる。

【在庫循環図とは】
生産指数の伸び率と在庫指数の伸び率とを利用して、在庫循環の4段階を示したもの。時計回りと逆回りに動いていく。
第1象限(右上)は意図せざる在庫積み上げ(生産は増加基調で、生産の増加率を上回って在庫が増加していく状態)。
2象限(左上)は在庫調整(生産が減少に転じ、在庫水準を下げていく状態。企業の予測を上回って出荷が伸びることはないので、生産の縮小度合いが在庫の縮小度合いよりも大きい状態)。
3象限(左下)は意図せざる在庫減少(生産、在庫ともに縮小し、生産よりも在庫の方が縮小している状態)。
第4象限(右下)は在庫積み増し局面(生産を増加させて在庫を積み増している状態。在庫の伸びは生産の伸びを上回ることがない状態)である。


4. 今後のポイント

今後のIT経済を見通す上でのポイントを提示します。

 今後のIT経済を見通す上でのポイントは、IT関連財の在庫調整が終了した後に、在庫調整局面から本格的な増産に転じる時期がいつになるのかという点である。国内の需要の動向に加えて、海外のIT関連の在庫調整圧力の緩和状況が、生産の回復時期に影響する。足元では、中国での在庫調整が進展している模様ではあるが、本格的な回復時期が今後の注目点となる。世界のパソコン出荷台数の伸びは2005年4-6月期に加速し、価格低下が需要を喚起している面もあり、最終需要持ち直しの兆しが見られる。今後の国内外のIT需要の動向が注目される。

作成:情報通信総合研究所
IT関連経済指標に関する用語の説明
IT関連消費
総務省「家計調査」より、IT関連と定義できる11品目のデータ(例えば電話通信料、移動電話通信料、他の教養娯楽用耐久財、インターネット接続料等)を選定し、指標化したIT関連消費指数の動向。
IT関連設備投資
内閣府「機械受注統計」より、民需(除く船舶・電力)のIT関連と定義できる3品目のデータ(電子計算機、通信機、半導体製造装置)を選定し、指標化したIT関連設備投資指数の動向。
IT関連輸出
財務省「貿易統計」より、IT関連と定義できる4品目のデータ(一般機械の「事務用機器」、電気機器の「通信機」・「半導体等電子部品」、精密機器類の「科学光学機器」)を選定し、指標化したIT関連輸出指数の動向。
IT関連生産
経済産業省「鉱工業生産指数」より、IT関連と定義できる10品目のデータ(非鉄金属工業の「電線・ケーブル」、一般機械工業の「特殊産業機械」、電子部品・デバイス工業の「電子部品」「半導体素子」「集積回路」等)を選定し、「鉱工業生産」の付加価値額ウェイトに基づいて指標化したIT関連生産指数の動向。
IT関連サービス
経済産業省「第三次産業活動指数」より、IT関連と定義できる9業種のデータ(例えば、通信業の「固定電気通信業」「移動電気通信業」、ソフトウェア業の「受注ソフトウェア」、情報処理・提供サービス業の「システム等管理運営委託」。物品賃貸業・リース業の「情報関連機器リース」等)を選定し、「第三次産業活動指数」のウェイトに基づいて指標化したIT関連サービス指数の動向。
*文章中には記載されていないが、IT関連経済星取表に掲載されている用語
IT関連官公需設備投資
内閣府「機械受注統計」より、官公需のIT関連と定義できる3品目のデータ(電子計算機、通信機、半導体製造装置)を選定し、指標化したIT関連官公需設備投資指数の動向。
IT関連輸入
財務省「貿易統計」より、IT関連と定義できる4品目のデータ(一般機械の「事務用機器」、電気機器の「通信機」・「半導体等電子部品」、精密機器類の「科学光学機器」)を選定し、指標化したIT関連輸入指数の動向。

*本稿では概況を提示しています。IT経済の個別動向をお知りになりたい方は、お問い合わせください。

手嶋 彩子
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