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みんなのためのIT経済メモ2005
2006年3月掲載
「みんなのためのIT経済メモ」は、「IT分野の景気は今どうなっているのか?」「IT経済の今後の見通しは?」というようなマクロの視点からIT経済に関する概況をみなさんにお知らせしていくメモです。

IT関連消費の“これまで”と“いま”

 景気回復の勢いが増しています。企業の生産や輸出が増加している上、個人消費にも明るい動きが見られるからです。
 GDPの6割を占める個人消費は、これまでどのような状況だったのでしょうか。
今回は、ITを切り口に個人消費のこれまでの状況と現状を取り上げます。

日銀、内閣府の景気判断

 日銀が2006年2月9日に公表した「金融経済月報 」は、「わが国の景気は、着実に回復を続けている。輸出や生産は増加を続けており、企業収益が高水準で推移するもとで、設備投資も引き続き増加している。雇用者所得も、雇用と賃金の改善を反映して、緩やかな増加を続けており、個人消費は底堅く推移している。住宅投資も、強含みの動きとなっている」と、景気回復が続いているとの判断を示しました。
 また、内閣府も2月22日の「月例経済報告 」で「景気は回復している」として基調判断を引き上げました。上方修正は景気の踊り場脱却を宣言した2005年8月以来、半年ぶりです。これは、企業の生産や輸出が堅調に推移しているうえ、個人消費も緩やかに増加しているためです。

 消費動向を経済統計からさらに詳細にみてみると、総務省「家計調査」では、2005年10―12月期の実質消費支出が前年同期比1.0%増で、5四半期ぶりに増加しています。2005年12月の内閣府「消費総合指数」(注)でも前年比4.6%増の120.4と、両調査からも消費の堅調ぶりが読み取れます。企業部門の好調が、家計部門に波及し、さらに個人消費を押し上げている様子が分かります。
今回はGDPの6割を占める、個人消費に焦点をあて、ITを切り口にその動向を紹介していきます。

(注)需要側統計(家計調査)と供給側統計(鉱工業出荷指数等)を合成した指標。

家計消費とIT関連消費の動向

◇家計消費とIT関連消費の動向

 図表1は、2000年以降の消費支出総額の前年比と、消費支出総額のうちIT関連にどの程度支出されているかを示したものです。
家計の消費支出総額は、2000年以降2004年を除いて前年比で減少傾向にありました。一方、IT関連消費は増加しており、消費支出総額を引き上げている要因となってきました。

図表1:家計消費支出の前年比とIT関連消費の寄与度

 2004年までIT関連消費が好調であった要因は、移動電話通信料、インターネット接続料が好調であったことによります。これは、携帯電話やインターネット接続サービスの契約者数が増加してきたことが背景にあります。

 その結果、世帯支出総額に占めるIT関連消費は、99年第1四半期の3.1%から、2005年第4四半期には4.4%に上昇しています(図表2)。

図表2:消費支出に占めるIT関連消費の割合

 次に、IT関連消費が2000年以降どのように推移してきたのか、具体的に明らかにしていきましょう。

2000年以降のIT関連消費の動向

 図表3は、IT関連消費の品目別寄与度(IT関連消費支出の増減に貢献しているIT関連品目と、その貢献度合い)を示しています。

図表3:家計消費支出に占めるIT関連消費の寄与度(暦年)

*移動電話通信料は2000年から、インターネット接続料は2002年から総務省「家計調査」の収録消費項目に追加。

 固定電話利用料への支出の減少を携帯電話利用料への支出が相殺した上、さらに増加したきたことが読み取れます。固定電話に関しては、2005年に直収電話(注)が登場したことによって、月額基本料金と通話料金の価格低下が影響しています。

(注)KDDI「メタルプラス」、日本テレコム「おとくライン」など。

 また、インターネット接続料も、2002年に総務省「家計調査」に新項目として追加されて以来、インターネットの普及率上昇を背景にIT関連消費の牽引役でした。
ただし、2005年に入り、携帯電話通信料ならびにインターネット接続料への消費支出の伸び率は低迷し、その消費牽引力は弱まっています。

 それは、市場が成熟期に入ってきたことが要因として挙げられます。
携帯電話の普及率は2005年3月時点で91.1%(注1) 、インターネット接続の世帯普及率は2004年末に86.8%(注2)となっており、飽和状態に近づいており、加入者の伸び率が鈍化しているのです。
加えて、携帯電話に関しては、データ通信の定額制導入(注3)をはじめオプション料金体系が導入され、料金が引き下げられてきました。インターネット接続に関しても、競争激化に対応してADSLやFTTHの料金が低下していることが影響しています。

ダブル定額ライト」(月額利用料金1,050円)開始し、サービス価格を低額化してきた。

 ただし、直近の2005年第4四半期の動向に関しては、携帯電話利用料の支出金額は増加しており、持ち直してきています。
この背景には、第3世代携帯電話への移行(注4)やモバイルコンテンツ利用の増加によって、1人当りの支出金額が上昇していることが挙げられます。

(注1)内閣府「消費動向調査」単身世帯を含む。

(注2)総務省「通信利用動向調査」

(注3)KDDIは2003年12月に定額料金制のデータ通信サービスを導入。2004年8月「ダブル定額」、2005年5月「

(注4)KDDIの全契約件数に占める第3世代携帯電話の割合は83%に達した(2006年2月2日株式新聞)

図表4:家計消費支出に占めるIT関連消費の寄与度(四半期)

今後のIT関連消費

 消費水準は、どのような要因によって決定されるのでしょうか?

 消費は、「現在の所得水準に依存して決まる」もしくは「個人が一生の間に稼ぐことの出来る可処分所得の総額、つまり生涯所得によって決定される」と言われています。

 最近の経済指標でも明らかなように、雇用環境は改善し、資産価格は上昇しています。所得水準や生涯所得が増加してきているので、消費が上向く環境は整ってきたと言えるでしょう。

 今後のIT関連消費はどのようになるのでしょうか。
それを検討するには、携帯電話市場の動向が注目されます。
番号ポータビリティの導入や新規参入事業者の登場により、市場環境が変化します。競争が激化するので、通信利用料が低下することが想定されます。
同時に、競争が激しくなれば、通信事業者は価格以外の差異化を図るようになり、モバイルコンテンツの内容が充実し、モバイルコンテンツへの支出が増える可能性もあります。ただし、携帯電話の普及期のようにマクロ経済全体として、携帯電話関連支出が飛躍的に伸びる状況にはありません。

 今後、ITが消費全体を引き上げるか否かは、個人消費を新たに喚起できる、IT技術を活用した新しいサービスの動向が注目されます。

 最近の動きで例を上げると、音楽配信ビジネスが挙げられます。

 シード・プランニングの調べによると、携帯音楽プレーヤーの国内出荷台数は2004年の280万台から2005年は460万台へ拡大した模様です(注1)。携帯音楽プレーヤーの圧倒的シェアを持つ「iPod」を担当するアップルコンピュータのプロダクトマネージャーの小西達矢課長はその魅力を「iPodと音楽ソフト「iチューンズ」を組み合わせた使い勝手の良さ」と説明しています (注2)

(注1)日経産業新聞2006年1月23日

(注2)日経産業新聞2006年2月1日

 デジタル機器、通信サービス、コンテンツ(音楽)をつなげて、「使い勝手の良さ」という新しい価値を提供した新サービスにより、市場が創出されたと言えるでしょう。

 今後のIT関連消費の動向は、これまでの帯電話やインターネット接続料などの通信サービス単体の動向に加えて、音楽などのコンテンツサービスなど他分野のサービスと組み合わせた新サービスが、消費者に新しい価値を提供し、需要を喚起できるか否かに注目していくべきでしょう。

手嶋 彩子
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