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Enterprise Evolution
2009年4月掲載

ICT政策と企業のBCP(1):中小企業のIT化とJ-SaaS

 本連載では「ICT政策と企業のBCP」と題して、企業のIT化について、企業そのものの活動だけでなく、それを促進する政策、ならびに、企業のBCPの観点からもご紹介します。

 今回は、企業のIT化の現状、特に中小企業のIT化の動向と普及に向けた課題。それを進めるための経済産業省のJ-SaaSについて説明します。

中小企業のIT化の現状

 日本の企業数の約99.7%を中小企業が、中でも従業員20名以下の小規模企業は約87%を占め、企業のIT化を考えるには、中小企業のIT化が重要である事は、ご理解頂けると思います。

 2008年版中小企業白書では、ITの活用が企業の業績にどれぐらい影響を及ぼすのかを調べたところ「ITの活用を経営の最重要課題と位置づけている企業」のうち約46%に増収傾向が見られました。また「IT投資やITの活用における課題」設問では、回答の上位に「IT人材の不足」「初期導入コストが負担」が続きます。つまり、ITの導入で増収効果が期待できるが、人材と初期費用などコスト負担が導入の障壁になっている事が伺えます。

政府におけるSaaSに関する動き

 平成19年4月、経済財政諮問会議の「成長力加速プログラム」で、中小企業のIT化支援や経営指導拡充のために、使いやすい新たな共通基盤の環境整備として、ASPやSaaSを挙げて以降、SaaSに関して多くの施策が政府の中で動き始めました。

 経済産業省は平成20年1月に「SaaS向けSLAガイドライン」を公表。同月総務省でも「ASP・SaaSにおける情報セキュリティ対策ガイドライン」を公表。これらガイドラインを受け(財)マルチメディア振興センターでは、「ASP・SaaS安全・信頼性に係る 情報開示認定制度」を設立。本制度は、無数のSaaSサービスを、各種ガイドラインを用いながら、安全性・信頼性にかかる実施水準や状態を客観的に利用者に対して、見える化する事で、利用者のサービス選択の一助とするものです。

 このように、政府としても様々な形でSaaSの普及に努めていますが、総務省でも霞ヶ関のシステム自体をクラウド化させ効率性、利便性を高めるための、平成21年度の補正予算で約300億円の予算をつけるなど、政府レベルでのクラウド利用も進みそうです。

J-SaaSとは

 経済産業省では、「人材面」「費用面」の解決策の一つとして、SaaSを活用する事を決め、平成20年度から3カ年計画で、J-SaaS(https://www.ec.j-saas.jp/shop/main)を推進しています。今年度も約20億円の予算が計上されています。
J-SaaSとは、財務会計などバックオフィス系から電子申告に至るまでの流れを一貫して行える、ワンストップサービスです。J-SaaSの構成は、大別して「ポータル」と「個別アプリケーション」になります。共通ポータルでは、シングルサインオンを実現する認証系や、ユーザ管理、面倒な支払いも、一括請求が出来る決裁系など、ユーザの利便性も考慮された共通機能を持ちます。

 それ以外にも、アプリケーション間のデータ連係機能や、SLAについても最低限の共通内容(図)を定められており、IT人材の不足にも考慮していると考えられ、非常に魅力的であると言えます。

図:J-SaaS共通のサービスレベル指標(SLA)
図:J-SaaS共通のサービスレベル指標(SLA)
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出所:https://www.ec.j-saas.jp/shop/main

J-SaaS浸透による波及効果

 J-SaaSの導入が進めば、中小企業のIT化が進むだけではありません。日々の経理情報を税理士などが閲覧する事で、タイムリーな経営指導も受ける事が出来ます。また、売掛債権がほぼリアルタイムに見えるため、金融機関から融資を受ける際の有力な担保の一つとしての効果も期待できるのではないでしょうか?

 平成21年度は、史上初の規模の補正予算が組まれ、その中でもICT分野の投資も数多くあります。これらを踏まえつつ、企業ITにおいて注目すべき点をこれからも追っていきたい。

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