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InfoComアイ
1996年6月掲載

今、情報通信市場に何が起きているのか

インタ−ネットの爆発的成長、通信ネットワ−クのデジタル化と広帯域化、マルチメディア技術の進歩などによって、情報通信が新時代を迎えようとしている。今、情報通信市場に何が起きているのか。そしてわが国は、NTT分割を中心課題に据えた国内指向の情報通信改革案で、国際競争力の強化を本当に実現できるのだろうか。

1.音声中心からデ−タ中心のシステムへ

 電話が発明されてから120年、電気通信システムは音声中心に進歩してきた。だから、インタ−ネットの出現にも電話会社は距離を置いて見ていたふしがある。研究者か一部のマニアが利用する間に合わせシステムのインタ−ネットが、よもやこんなに普及するとは予想していなかった。AT&Tもようやく本年2月にWorldNetでインタ−ネットのアクセス市場に参入し、僅か9週間で全米第2位のアクセス・プロバイダ−になった。欧米と日本の電話事業者もここ一年以内に相次いで参入する計画だ。NTTは電話網とは別に、コンピュ−タ通信のネットワ−ク(OCN)を構築し、インタ−ネットのアクセスとバックボ−ンの両方を提供する構想だ。一方、ネットワ−ク・コンピュ−タ(NC)のように、端末に分散してきた機能をネットワ−ク側に戻し、最適化を図ろうという動きもある。

2.無線通信のネットワ−クが急激に拡大

 今年の3月末現在でわが国の携帯電話とPHSの合計は1170万台になり、人口10人当たり1台の普及率となった。170%の増加だが、この傾向は96年度に入っても続いている。端末の小型軽量化と価格の低下、料金の低下と多様化、新規参入による競争の激化などが寄与した。しかもデジタル化率は60%に近い。2000年には3000万台を超え、固定網の電話の半分の規模になる。現在は音声による通信がほとんどだが、いずれモバイル・コンピュ−ティングの時代を迎えるだろう。携帯電話以外でも、無線LAN、デジタル・コ−ドレス端末、ワイヤレス・ロ−カル・ル−プ、衛星を利用したデジタルTVや情報の配信、ワイヤレスCATVなど有望市場が多い。いずれ無線だからコストが安いという時代がくるのではないか。因に、現在東京、大阪間の一番安い電話はNTTドコモの1.5Gの携帯電話間の通信である(平日、昼間、3分間120円)。

3.デジタル・メディア産業の本格化

 GMヒュ−ズ・エレクトロニクスのデジタル衛星放送、ディレクTVが契約数を伸ばし、今年中には採算ラインの300万に達すると見られている。AT&Tはこの会社に30%まで出資する権利を取得した。MCIもニュ−ズ・コ−ポレ−ションと組んで周波数を7億ドルで落札し、準備中である。わが国でも、9月にパ−フェクTV、来年にはディレクTVが通信衛星を利用して参入し、本格的多チャンネルTV時代の幕開けを迎える。パ−フェクTVは21chの基本サ−ビスが2990円/月で、CATVより割安だ。
 インタ−ネットの普及で衰退すると見られていた米国のパソコン通信会社のうち,アメリカ・オンライン(AOL)が元気だ。システムは限り無くインタ−ネットに近くなったが、提供する情報の内容に工夫を凝らし、定額性料金で顧客を集めている。さらに、ウオ−ル・ストリ−ト・ジャ−ナルは49$/年の購読料でインタ−ネットのうえで読めるようになる。米国のディレクPCのような、衛星経由の情報配信サ−ビスも期待できる。

4.エレクトロニック・コマ−ス(EC)の実用化

 Visaとマスタ−カ−ドが共同でセキュリティ−の技術標準を決めたことで、インタ−ネットでクレジット・カ−ドでの支払いが可能になる。電子決済が可能になれば、ECは実用化への一歩を踏み出すのではないか。残る課題は制度的隘路の打開である。
 インタ−ネットを企業内の通信・情報処理の効率化のために活用しよう、というイントラネットの動きが大勢になりつつある。例えば、デ−タ・ベ−ス検索やグル−プ・ウエアの機能をインタ−ネットのうえで(ブラウザ−とWWWにより)実現しようというものだ 。インタ−ネットとイントラネットのシ−ムレスな接続が可能となれば、その延長上にEDIやCALSを実現することができる。
 このような状況では、ネットワ−クの中のサ−バ−の役割が高まり「システム全体を制御する大型サ−バ−、デ−タを蓄積する小型サ−バ−、それに各自手元のクライアントと、3層型へ転換が進む」(IBMガスナ−会長)のではないか。

5.情報通信産業の再編の動き

 第一に通信、放送、出版、コンピュータ−、ソフトウエア産業などの提携強化の動きである。夫々の持つ技術、情報、顧客ベ−スなどの経営資源を利用しあうことで競争優位に立とうというものだ。AT&T、IBM、ネットスケ−プ、DirecTV の連合とMCI、DEC、マイクロ・ソフト、News Corp.の連合ができて激しい競争を展開している。
 第二に96年通信法制定を契機としたベル電話会社を中心とする合併の動きである。既に、SBCコミュニケ−ションズとパクテル、ベル・アトランティックとナイネックスの合併、USウエストによる全米第3位のコンチネンタル・ケ−ブルビジョンの買収が明らかになった。この他、ベル電話会社による中規模長距離会社の買収など、動きは始まったばかりである。狙いは市場の統合、サ−ビスのパッケ−ジ化の実現にある。
 第三はグロ−バル市場をめぐるビッグ・キャリアの提携の強化である。緩やかな連携が売り物のAT&Tワ−ルド・パ−トナ−ズはヨーロッパで合弁会社AT&Tユニソ−ス・サ−ビシ−ズを設立して本格的に事業を展開する。フランス・テレコム、ドイツ・テレコムとスプリント連合は世界各地にグロ−バル・ワン会社を設立して攻勢に出ている。BTとMCI連合はコンサ−ト・ブランドでサ−ビスを開始し、実績をあげている。C&Wはテレコム・イタリアの親会社STETと提携し、第四の勢力を目指している。合併後のベル電話会社も早晩グローバル市場に進出するだろう。競争は既に、グローバル企業の国際通信市場から国内通信市場にまで及んでいる。

6.メガ・コンペティションの時代

 米国は7月に開催されるWTOの場で、日本の通信事業に対する外資規制の完全撤廃を求める動きにある。今、情報通信市場で起きている変化から何を読み取るべきか。
 第一は、メガ・コンペティション時代の到来である。情報通信技術の進歩でグロ−バル市場はボ−ダレス化しつつある。世界の情報通信の巨大企業が相互に提携し、情報通信のグロ−バル市場で熾烈な主導権争いをしている。ここでは、技術やサ−ビスの開発力、顧客ベ−ス、資金力など規模が重要な評価要素となっている。情報通信基盤の形成で競争力を維持できなければ、国の持続的成長の確保はおぼつかない。
 第二は、益々激しくなる市場の変化に、如何にスピ−ディ−に対応できるかである。マルチメディア時代のキラ−・アプリケ−ションは、競争と試行錯誤の積み重ねからしか生まれない。また、技術の進歩や新サ−ビスが既得権益や制度的制約で阻まれることがあってはならない。そのためには規制を極力小さくするとともに残る規制についても透明かつ予測可能な仕組みにしていくべきだ。
弊社社長 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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