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InfoComアイ
1996年7月掲載

インターネットとインフラ整備

 インターネットの爆発的普及が始まり、専用線接続サービスを利用する法人ユーザ数は約3000(96年5月末)、ISP(接続事業者)数は687(96年4月末)に達したと言う。その拡大が急激で、また従来公衆網と別に展開されてきたため、情報通信ネットワークにおける位置付けや将来展望についてコンセンサスがないばかりか、多くの誤解も生まれていよう。情報通信インフラの視点から、インターネットの特質と主な論点をあげてみたい。

1.インターネットはインフラか

 インフラストラクチャーは、社会資本、社会共通資本、公共財などとほぼ同義である。通信の場合、俗に、企業内で専用線のことをインフラと呼ぶこともある。制度上は「物理的な電気通信ネットワークと、それによる通信サービス」を指すのが伝統であった。
 ところが、米国で、クリントン・ゴア組の選挙公約“情報ハイウエイ”を、当選後、通信網・コンピュータ・情報・人間を含むNIIに発展させ5原則を立てたのたのを見て、日本の通信インフラ概念も「情報・知識の自由な創造、流通、共有を可能とする情報通信サービス基盤」と、ネットワークインフラにプラットフォーム(情報環境)、コンテンツ(情報内容)まで含むものに拡大された。
 インフラ概念が広く曖昧なものになったため、多様な使い方がありそうなインターネットをインフラと誤解する向きも出て来る。

2.インターネットの技術的・法的性格

 しかし、インターネットはインフラではない。技術的性格を整理して見ると、
  1. ハードウェアとしてコンピュータ・ネットワークの集合体。
  2. ソフトウェアとしてTCP/IPプロトコルを使用する。
  3. 機能としてパケットの転送に専念し、データを加工しない。
 OSI基本参照モデルに照らすと、TCP/IPはレイヤ4と3のプロトコルであり、物理媒体から離れている。TCP/IPには厳密な階層分けがなく、だからレイヤ1と2を通じてほとんどすべての通信媒体に対応できる。また処理機能はLANやネットワークのホストが受け持つので、サービス機能についても間接的である。

 次に、インターネットには下記のような法的性格がある。

  1. 全体管理者不在で個別網の自己責任制に基づく。性善説前提でセキュリティ保護が弱いネットワークである。
  2. 個別網を接続する各ルーターが最善をつくす前提の“ベストエフォート型で、品質保証がない。相互接続協定も通信事業のような厳格性を欠く。
  3. 標準化の手続きは公開主義で、オープンな討議で決めてきている。
  4. 通信主権を前提にしたITU憲章・条約に基づく公衆通信網と違って、生まれながらに国境概念のないネットワークである。

3.GIIやAPIIとの関連

 米国は東西冷戦終結後の世界の第一人者であり、国内で成功した政策を世界に広げたい国柄を持つ。94年3月の世界電気通信開発会議に、NII5原則そのままのGII構想を提案し、95年2月のG7情報社会関係閣僚会議でGII基本8原則・6課題・11プロジェクトの同意を取り付けた。8-5=3原則は、市場原理むき出しの米国案に欧州案の情報格差是正・コンテンツ多様性・対途上国協力が加ったものである。
 日本がAPT対象に地域版Information Infrastructureの話し合いを始めたのに対し、米国は韓国に働きかけてAPEC版を提案させ、95年5月のAPEC電気通信・情報産業大臣会合でAPII政策理念10原則の合意を得た。GIIとの異同は、格差是正が「市民の機会均等」から「基盤格差の縮小」に変わり、課題から「知的財産権・プライバシー・データ安全性」と「自由化・円滑化」を加えている。
 こうして、かつてのネットワークインフラ整備は、世界共通に情報化を戦略的要素として位置付け、活用する方向になっている。
>>GIIとAPIIの比較

4.インフラ整備の選択肢

 ネットワークインフラの整備については、光ファイバ系・地上無線系・衛星通信系とも莫大な投資と長い回収期間がかかる。当然、技術進歩の展望、アプリケーション開発の見通し、社会構造変化の見極め等の未来予測/シュミレーション/戦略決定が必要である。  インターネットの通信媒体の選択肢は、長期の未来からみると、技術的には光ファイバ系中心・無線系補完となるが、問題はインフラの提供主体で、通信事業者、ケーブルテレビ会社、アクセス系ISP大手のうち、誰がリスキイな戦略決定と事業遂行能力で優れているかである。
 グローバル情報化時代に備えるインフラ整備は、GIIの枠組みを考慮する必要がある。インターネットについては、前提として(1)現在のインターネットの追加変更でGIIになる、(2)現在のインターネットとは別個に、GIIの新ネットワークが構築される、(3)独立の新ネットワークが構築されてGIIになり、現在のインターネットと接続される、の三通りが考えられる。
 (1)は、現在すでに、映像対応の帯域管理プロトコルRSVP採用、IPアドレスの128ビット化、基幹網の大容量高速化等が進められているが、セキュリティ機能など強化を続けるとインターネットが重たくなり、発展が自己阻害されよう。
 (2)と(3)はともに別網構築で実行しやすく、ユニバーサルサービス、情報格差是正などを考えると、接続機能は面倒でも落ち着くところは(3)ではないか。

5.主要な論点

  上記前提では、ビジネスユーザ向けに外資を含む大資本による新インフラ構 築が進められる一方で、一般家庭で衛星系の映像情報ダウンロードとケーブル テレビ利用、インターネット利用情報検索が行われることになる。そこで2000年頃に、
  1. ディジタル衛星放送の普及率はどの位か。
  2. 都市型ケーブルテレビは離陸し成長期に入っているか?
  3. 家庭のインターネット(またはパソコン通信)アクセスについて、一般電話回線・移動無線回線・N-ISDN・ケーブルテレビの四者の構成比は?
  4. セキュリティ対策の自己解決はどこまで進んでいるか?
  5. アクセス回線の料金は定額化されているか?
  6. ユーザ発信情報のコンテンツはどのように規制されているか?
 といった論点が考えられる。それについてはかばかしい見通しがたたないと、インターネットの将来は大したことがない。活発化には“革命”が必至である。
関西大学 情報総合学部
教授 高橋 洋文
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