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1996年10月掲載

期待できる電気通信市場の変化

 わが国の電気通信産業の本当の問題点は、利用料金の高止まり、サ−ビスの多様化の遅 れ、使い勝手の悪いサ−ビスなどにある。基本的には競争の進展が十分でなかったからで ある。しかし、最近における通信市場では、従来はタブ−であったような画期的な料金や 利用制度が実現して成果をあげている。事実上の独占だから規制を強化するという考え方 よりは、競争を導入する工夫を積極的に行い(例えば相互接続ル−ルの明確化など)、NTTの独占を打破し競争市場を実現する方が、はるかにメリットが大きい。最近の電気通 信市場での変化の例をあげ、その意味するところを考えてみたい。

1.移動体通信市場の急成長

 移動体通信市場の急成長と料金の低下は目をみはるものがある。8月末の契約数は、携帯電話1440万、PHSは360 万に達している。毎月の純増数は携帯電話が80万、PHSが30万で、この勢いは当分続きそうだ。今年度中に携帯電話だけで2000万を超えのは間違いなさそうだ。今年度の新規投資も1 兆6000億円を超える見込みで、成長レ−スのトップを走っている。
 携帯電話の需要が急増したのは、94年4月に端末機の売切りとデジタル2社の新規参入が認められる規制緩和が実現し、競争が激しくなったことによる。95年7月から開始されたPHSとの競争も市場の活性化に役立っている。大都市では携帯4社、PHS3社がしのぎを削っており、価格の低下と需要の増加の好循環が実現した。
 まず、新規加入料が引き下げられ、加入電話の10分の1の7〜8千円程度になった。基本料、通話とも3割り程度の引き下げを行った。しかし、市場の急拡大には端末機の値引きが果たした役割がもっと大きかった。量販店の店頭には「PHS1円から、携帯電話3700円から」といった類いのポスタ−を見かける。最近ではPHSの端末機は販促の景品になり、携帯電話機もそれにつられて安くなっている。

2.端末機価格実質ゼロの歪み

 しかし、安ければよいとも言い切れない。最近の携帯電話やPHSの端末機市場は「あまりに荒れている」ため、メ−カ−は携帯電話とPHSの一体型端末の開発を見送ることにしたという(日経産業新聞 96.9.16)。大量生産による価格低下を超える値下がりが起きていて、その損失を販売代理店は販売促進費(PHSの場合平均1加入2万円と言われている)で埋め合わせている。移動体事業者はその分料金を高く設定し、何年かで回収することになる。確かに、日本の携帯電話の料金は高い。経済企画庁が最近まとめた「公共料金ハンドブック」によれば、標準的携帯電話の基本料の日米格差は4倍だという。
 一方、PHSは今年2月以降、携帯電話との競争から端末価格の実質ゼロに踏み切ったが、もともと低料金でスタ−トしたうえ、NTTの市内設備に多くを依存する仕組みになっていて、このままでは料金で回収できる余裕はないようだ。特に、規模の小さい地方のPHS会社では深刻な問題だ。果てしない消耗戦に踏み込んだのではないか。一刻も早い携帯電話機市場の正常化を期待したい。

3.本格化するリセ−ル事業

 昨年,NTTが販売した大口割引きサ−ビス、ス−パ−・テレワイズが注目を集めた。月額60万円の基本料を払えば通話料の25%を割引くというものだ。これに対してDDIなどは基本料50万円で25%割引きというサ−ビスで対抗した。しかもDDIとTWJは月額100 万円以上の利用者には基本料なしで20%割引く新プランを10月から開始する。
 大型の大口割引きは差別料金にあたる可能性があり、基本料なしの割引プランの認可は無理だろう、というのが今までの事業者側の見方だった。郵政省が考え方を変えたのか、事業者側が思い込みで「民民規制」をしていただけなのか判然としないが、ともあれ歓迎すべきことである。
 さらに、懸案であった公衆回線と専用線の接続の自由化が、10月末に繰り上げられるという。公−専−公接続の解禁と本格的な通話の大口割引きによって、従来VAN事業に限られていたリセ−ル市場が、通話の「単純再販」にも拡大し、市場規模が大きく伸びる可能性がある。また、第一種事業者と第二種事業者間の競争によって、長距離の通信料金の大幅値下がりが期待できる。最遠距離の料金(3分、平日、昼間)は早晩100 円を切ることになるだろう。再販事業者の資格も特別2種に限らず広く開放すべきだ。

4.廉価版専用線などの登場

 NTTはこの10月から、15km未満の64kbps128kbpsの専用線に限ってではあるが、従来の2〜3分の1の料金で、保守サ−ビスを営業時間内に限る、廉価版専用線を提供する。インタ−ネットの足回り回線として利用されるだろう。NTTは97年早々に開始を予定しているOCNサ−ビスで、インタ−ネットのバックボ−ンとアクセスを画期的な料金で提供する計画だ。既存のインタ−ネット・プロバイダ−との公正競争は勿論必要だが、両者間の競争が促進され料金の低下が期待できることは歓迎したい。
 インタ−ネット・プロバイダ−は遠近格差のない定額料金でサ−ビスを提供した点で画期的であった。回線を共用するので、混んで来ると接続時間が長くなることを承知のうえで利用して貰う「ベスト・エフォ−ト」型サ−ビスで低料金を実現した。しかし、日本における通信インフラの高コストや利用が一部に限られていたことで、競争が本格化しなかったことなどを反映して、米国に比べればかなり高い料金になっていた。
 最近のインタ−ネット・ブ−ムで需要が急増し、利用の裾野が広がったことにより、より安くという要望が一層強まった。他方、企業などが社内通信用にインタ−ネットを積極的に利用しようというイントラネットの動きが高まってくるにつれて、料金が多少高くても確実で安全なサ−ビスを求めるニ−ズも強くなっている。これまでも、どのプロバイダ−と契約するかにによって品質に応じた料金を選択できたが、インタ−ネットもこれからはサ−ビスによって料金の選択が可能になり、その中には従量制料金が含まれるかもしれない。

5.変化は本物か

 最近与党3党は、大蔵省の金融監督・検査部門を公正取引委員会型の独立組織として分離することに合意した。総選挙後もこの考え方に変化はないか多少の不安はあるものの、実現すれば日本にとって極めて大きな変革となる可能性がある。
 規制緩和の推進には先ず市場のル−ルの明確化が前提になる。そのル−ルにもとずき、中立的機関が市場の監視と規制を行う仕組みが必要である。日本の行政当局が一体不可分として温存してきた政策機能と規制機能を分離し、状況対応型指導・裁量行政からル−ルを重視する行政に転換しなければ、護送船団方式からの脱却、市場の活性化は望むべくもない。また、わが国の市場のル−ルの不透明感は消えず、国際的不信感も解消しない。
 この大蔵省改革案は、わが国の行政システムの基本を大きく変えるだけのインパクトを持っているし、行政改革の突破口でもある。この改革が成功すれば、「規制大国」から「原則自由、規制例外」の基本理念に立ち戻ることができる。通信市場における変化も、このような改革の動きを反映していると見ることができる。変化は本物であると期待してもよいのではなかろうか。
弊社社長 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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