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1996年12月掲載

「NTT分離・分割」決着の問題点

 第2次臨時行政調査会以来、14年間も議論が続いて来た「NTT分離・分割問題」 が、郵政省とNTTの合意という形で、去る12月6 日に事実上決着した。伝えられる合意 内容によれば、純粋持株会社のもとに、東西2社の地域会社と長距離会社に再編し、長距 離会社には国際通信進出を認めるというものである。

 通信市場をとりまく環境が劇変し、世界的大競争の時代を迎えようとしている時に、遅 まきながらNTTの国際進出が認められ、長年にわたる不毛の論議に一応の終止符が打たれ たことは歓迎すべきだろう。しかし、今回のNTT再編案が、このようなトレンドのなか でどのように位置づけられているのか、見えない部分も少なくない。いずれ、郵政省とN TTの「同床異夢」が明らかになるのではないか。

1.何のための「再編」なのか

 電気通信審議会の答申は、公正な競争を実現するためには、市内ボトルネックを持つN TTの「構造分離」が不可欠であるというものであった。しかし、今回の純粋持株会社 による再編成案は、資本関係が100 %維持されるものであり、「構造分離」とは異質のも のである。したがって、郵政省は何故「持株会社方式による再編」案を選択したのか説 明する義務がある(注)。にもかかわらず、発表文書を読む限り、その点はどこにも触れ られていない。これでは、理念なき妥協の産物とみられても仕方がない。

 今回の「再編」の意味は、NTTの地域部門に「分離子会社」要件を課した上で、長距離会社に国際 事業進出を認めたということではないか。例えば、米国の新通信法では、ベル電話会社が 長距離通信市場に参入する場合、3年間は分離子会社によってサ−ビスを提供することを 義務づけている。資本的には一体であっても独立組織とし、会計上の透明性を高め、内部 相互補助などが発生する余地を少なくしようというものである。

 仮に、今回の「再編案」が、規制上の「分離子会社」要件にあたるとした場合、以下の 2点が重要である。第1は、分離子会社の組織や運営については親会社の自主的な判断に 委ねられるべきであり、第2は、規制上「分離子会社」要件を課す理由を明確にし、その理 由がなくなれば、原則として子会社も解消することを前提にすべきである。

(注)NTTが合意した理由は、「株主権利保護の問題が克服でき、かつ国際事業への進 出が可能となること」(NTT報道資料 96.12.6)と明確になっている。

2.新NTT法で持株会社を設立する案は疑問

 郵政省は、新たに制定するNTT法のなかに、独占禁止法で設立が禁止されている純粋 持株会社を、NTTに限って認める条文を盛り込み、同法の適用除外の対象とする検討を 始めたという(朝日新聞 96.12.7 )。政府が進めている独禁法第9条の改正の行方と は関係なく、持株会社による分離・分割を進めることができるというのがその理由であ る。

 現在は、NTT法に規定がない部分は商法などの一般法が適用される。しかし、今回 のような会社制度の根幹にかかわるところで、独禁法の一般原則と別にNTTだけを対象 とする法律を制定することは行うべきではない。NTTはできる限り一般の会社の運営 ル−ルに則って経営を行うことが必要で、基本的な部分で特別な仕組みを持ちこむことは 避けるべきだ。 持株会社の解禁について、政府は来年(97年)の通常国会に独禁法改正 案を提出すべく準備を進めている。また、規制緩和の一環として、個別法による独禁法の 適用除外は廃止方針が示されている。NTTについても、独禁法の改正を待って、一般原 則のもとでの導入を目指すべきである。

3.NTTの国際通信進出は制約なしで

 郵政省とNTTの合意文書によれば、NTTは「海外における通信事業への参入及び出 資、並びに多国籍企業等のグロ−バルな情報流通ニ−ズへの対応などに積極的に取り組む 」ことになる。読みようによっては、ここで例示した以外の分野(電話、専用線、イン タ−ネットなど)には進出しないことを示唆しているともとれるのである。

 顧客が望むあらゆる情報の形態でシ−ムレスな情報流通のニ−ズに応えるのがグロ− バル・キャリアの条件であり、それに制約を加えるようなことはすべきでない。何故この ような「合意」が必要なのか、理解に苦しむところだ。

4.NTTの自主的判断の尊重を

 今回の「再編」の狙いがNTTに「分離子会社」要件を課すことにあるとすれば、それ 以外の部分については、極力NTTの自主的判断に委ねられるべきだ。地域会社を何社に するか、子会社の運営にどれだけの自主性を与えるか、地域別料金か全国一律か、研究開発やマルチメディア事業の運営体制をどうするか、などはNTTが決めればよいことである。また、親会社で ある純粋持株会社を特殊会社とするのはともかく、その100 %子会社まで特殊会社として 縛る必要はあるのだろうか。

5.規制緩和が見えてこない<

 NTTに「分離子会社」要件を課したのだから、規制緩和の促進を期待するのは当然だ が、合意のなかには全く見当たらない。規制緩和の促進にはNTTの経営形態問題の解決 が不可欠と主張しながら、その点に言及がないのは、非構造的措置である「分離子会社」 では、規制緩和の余地がないとでもいうのだろうか。情報通信市場の急激な変化とグロ− バルな規模での競争激化というトレンドのなかで、今一番大事なことは、規制緩和と競争 力の強化を同時に達成する道筋をどう描くかである。今回のNTT再編を契機に規制 緩和が一気に加速するという流れは残念ながら見えてこない。

 日本の通信事業に対する規制が現状のままであれば、日本の通信事業者が海外市場(特 に米国)で施設ベ−スで通信事業に参入するとか、当該国の通信事業者に出資するといっ たことは、かなり困難ではないかと思う。相手国の通信事業者に、日本市場で同等の競争 機会を与えているかが問題にされるからである。NTTが国際進出を認められても、国内 の規制如何では、グロ−バル・キャリアとして活躍できるとは限らないのである。 規制緩和の促進に期待したい。

弊社社長 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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