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1997年11月掲載 |
急速に立ち上がるイントラネットの本質と課題1.急速に立ち上がるイントラネット イントラネットの普及率は、97年2月の日本経済新聞社の調査によると、概ね大手企業と中堅企業クラスでは15%程度の企業で稼動中である。それが一年後には約60%で導入の予定となっている。このことから見ても、わが国のイントラネットは、かなりの勢いで立ち上がりつつあることがわかる。 2.イントラネットの本質米国では96年6月時点で既に主要企業の55%が導入済みである(米ビジネス・リサーチ・グループ社の調査結果)。情報化投資の基本スタンスとして、この米国では、経営マインドの方がIT指向に優先していると言われている。それと反対に、日本では逆にIT指向が経営マインドに優先しているのではないかとの危惧が強い。わが国のIT指向は、今回のイントラネットブームにおいても例外ではない。 かって国際競争力を失った米国では、1980年代から90年代にかけて、日本のTQCやJITを学ぶとともに、リストラクチャリングさらにはリエンジニアリングを行い、経営体質の強化に努めた。事業部長に大幅な権限の委譲を行い、機動的な経営、経営のダウンサイジングを実行した。その際、あわせてITを積極的に導入した。情報システム部門主導の硬直的な中央集中型システムから離れ(アウトソーシングも視野に入れながら)、事業部長の判断で(エンドユーザー部門が主体となって)柔軟で小回りがきく部門システムを分散型C/Sシステムによって構築した。ただし、きちんとBPR(Business Process Reengineering 業務プロセスの抜本的な見直しと再構築)を実施した上で、ITを導入した。この点が、日本の場合では、分散型C/Sシステムを導入するにあたっても、大きく抜けていた点である。 90年代、日米逆転を成し遂げた米国は、さらに国際競争力を高めていく過程で、引き続き日本的経営の長所を積極的に取り入れていった。幅広い情報の共有をベースとしたコンセンサスの形成、高いロイヤリティーと自主的に創意工夫を凝らす従業員といった全員参加型の仕事の仕方である。つまり情報の共有化とコミュニケーションの円滑化の必要性を強く感じた米国では、個々人の情報をデータベース化し、グループ皆んなでそれを共有化し、協働作業を行う、これを技術的に支援するITとしてグループウェアの導入を指向してき た。 そうした過程で、米国は「インターネット」さらには「イントラネット」のメリットに着目した訳である。情報の共有化とコミュニケーションの円滑化、すなわちインターネットのメリットを社内の分散型C/Sシステムに応用し、全社横断的な情報の共有化を実現しようとした。米国では、このようにITを企業に導入する際、明確な経営革新の戦略があることを、我々は認識しておく必要がある。 3.課題、企業文化づくり、ナレッジマネジメント イントラネットの導入は、ネットワーク・コンピューティング関連の技術革新や通信自由化第2フェーズの追い風を受けて、この数年さらに拍車がかかりそうである。 顧客と接する現場の営業マンやSEに、泥のついた新鮮な生の情報、失敗や成功の経験談やノウハウ等を自主的に提出(登録)させるにはかなりの苦労がいる。優れた現場のノウハウや知恵が蓄積され、広く全社的に交換されるレベルにまでなるには、情報リテラシー(コンピュータ・リテラシーとビジネス・リテラシーとから形成される)の涵養やネットワーク文化の形成などが、着実に積み重ねられて組織にしっかりと根付いていることが必要となる。貴重な情報や知識を収集し、電子化し、WWWサーバーに登録する体制とそれを活用する体制との両方の輪を、地道に回わしていくことが必要となる。この着実な情報基盤づくりは、かって社内パソコン通信を普及させるために、先駆者達が苦労して歩んできた道に極めてよく似ている。 そのため、組織的に情報プロデューサーとか、あるいはナレッジマネジャーとか呼ばれる専担の推進役を配置して、これに取り組む企業もある。彼らはエンドユーザーの意識向上を図り、貴重な情報を持つ人材を支援して、情報を掘り起こし、利用される情報として編集するなど、地道に情報収集活動を継続する。最近では、こうした戦略的な情報の収集、蓄積、交換をトータルに体系的に取り組む「ナレッジマネジメント(Knowledge Management)」が注目されている。組織のメンバー全員がそれぞれの立場で情報を発信し活用する、組織全体が情報をギブテクする風土や文化にまで作り上げる強い決意と執着心が経営者には要求される。企業革新への経営マインドの強靭さ、志の高さ如何によって、IT(イントラネット)の質的レベルの利用格差は大きく開いていく。 |
産業システム研究部長 中村 貞雄 e-mail:nakamura-s@icr.co.jp |
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