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InfoComアイ
2006年7月掲載

AT&Tが新テレビ・サービスを開始

 AT&Tは去る6月26日に、サン・アントニオ(テキサス州、AT&Tの本社の所在地)で試行中の同社の次世代テレビジョンと高速インターネットのバンドル・サービス、U-verseの最初のサービス拡張を行なって、ライバルのケーブル・テレビに対する追撃を本格化させた。このサービスが注目されているのは、同社が「ファイバー・リッチ・ネットワーク」と呼んでいるFTTN(Fiber To The Node;顧客の近隣のノードまで光接続を延長し、それから先は既存のメタリック回線を使うVDSLで接続する)を利用していること、及びIPTVのソフトにマイクロソフト社の製品を採用したことだ。この方式はベライゾンが展開しているFTTP(Fiber To The Premises:premisesは構内、FTTHに近い)に比べて投資額が大幅に節約できるので、成功するかどうか内外から強い関心を集めている。

■AT&T、U-verse でケーブル・テレビ陣営に反撃

 サン・アントニオにおけるサービス拡張後の「AT&T U-verse TV」のサービス概要は以下の通りである(注)。なお、7月末までに申し込んだ顧客は、3ヶ月間の無料サービスを受けられる。

  • テレビ・パッケージの魅力的なバライエティ――デジタル音楽、地域番組、プレミアム映画及びスポーツ番組を含む200超のチャンネル。
  • プレミアム・スペイン語パッケージ――中短編小説、映画、ニュース、スポーツ、子供向け番組、トーク・ショーなどを呼び物にしている。最初の3ヶ月間は月額5ドル(通常料金は月額10ドル)の追加料金。
  • 拡張中のビデオ・オン・デマンド・ライブラリ――数百時間もの多様なコンテント。
  • 革新的で利用し易い番組ガイド
  • 素早いチャンネル切り替え――他のデジタル放送サービスで経験する「遅れ」を解消。
  • 番組のタイトルや主演者の名前で番組検索ができる。
  • ピクチャー・イン・ピクチャー機能――視聴者が現在視ている番組を変えずにチャンネル・サーフィングができる。
  • 3台のセット・トップボックス――うち1台にはDVR(Digital Video Recorder)の機能があり、ライブ・テレビの一時停止、巻き戻し、リプレーおよび録画ができる。(4台目からは1台につき月額5ドルの追加料金が必要)。
  • 高速インターネット接続と無線ホーム・ネットワーキングの機能もバンドル。

 3ヶ月の無料TV試行サービスが終了した時点で、顧客は自らの「娯楽経験」をカスタマイズするために、4つのTVパッケージ及び3つのインターネット・パッケージの組み合わせからプランを選ぶことができる。選んだTV番組及びインターネット・パッケージによって、料金は月額69〜124ドルの範囲となる。

 U-verse TVの顧客にはAT&T Yahoo!High Speed Internet、U-verse Enabledが既定料金の中で提供される。3つのパッケージは次の通り(数値は最大)である。Elite(下り6Mbps 上り1Mbps) Pro(下り 3Mbps 上り1Mbps)Express(下り1.5Mbps 上り1Mbps)。顧客は、オンライン・フォト、ストリーミング・ビデオ、ゲーム及びその他の情報に、無線対応のラップトップPCなどのデバイスを利用して、自由にアクセスできる。また顧客は、事実上無制限の電子メールのストレージや強力なアンチ・ヴィールス、アンチ・スパムのソフトが利用できる。なお、U-verse EnabledはAT&T U-verse TVを契約した顧客にのみ提供されるサービスであり、単独の提供は行なわない。

 上記のパッケージのほか、AT&Tはユニークで家族向けの番組パッケージであるU-familyを提供する。このパッケージは、ベストな家族向けTVチャンネルのほかビデオ・オン・デマンド、3台のセット・トップ・ボックスおよび1台のDVRが含まれる。U-familyには高速インターネット接続がバンドルされており、料金は月額54ドルである。

 AT&Tは今年末までに、提供チャンネル数の増加、高精細(HD)番組の提供、ビデオ・オン・デマンドのタイトル数の追加、すべてのセット・トップ・ボックスにDVR機能の搭載及び双方向アプリケーションの充実などを計画している。また、現在サン・アントニオに限られているU-verse TVサービスの提供地域を、今年末までに他地域に拡大するよう計画している。

(注)AT&T expands U-verse services in San Antonio(AT&T news release;June 26,2006)

  AT&TはU-verse TVの販売促進のために、ユニークな手法を展開して話題になっている。テレビ広告を流す代わりに、AT&Tの担当者がパンフレットを持って戸別訪問をしたり、特別仕立ての宣伝用アイスクリーム・トラックをサービス提供地域で運転したり、実際にU-verse TVとTime Warner Cableの画面を地域のオピニオン・リーダー達に視て貰って比較できるよう、顧客が自宅を開放してホーム・パーティを行ったりして、「口コミ」を重視している。ホーム・パーティは1950年代に米国で成功したタッパーウエア(食品などを入れるプラスチック製の密閉容器)のやりかたを連想させるとして話題になっている。

 AT&TのTV事業責任者は、U-verse TVによって「AT&Tは通信と娯楽の世界を本当に再発明した。」と強調している。ケーブル・テレビを主要な競争相手と見据えて、通信事業者としての経験を生かした差別化戦略を基本に、本格的な反撃を開始するという意気込みが感じられる。

■AT&TのTVサービス、U-verseの評価

 サン・アントニオにおけるAT&TのTVサービスの試行は、これまではその対象が僅か数百世帯だった。ニューヨーク・タイムズ(注)によると、今後AT&Tは同地域における展開を促進して、年末までに同サービスの提供地域を全米の15〜20市場(ヒューストンを含む)に拡大し、2008年末までには1,900万の世帯(AT&Tが現在地域電話サービスを提供している13州の約半数の世帯数)で利用できるようにする計画である。順調に推移すれば、その30%の570万世帯(総世帯の15%)がU-verseと契約することをAT&Tは期待しているという。

(注)AT&T is calling to ask about TV services.Will anyone answer?(The New York Times / July 3,2006)

 ウォール・ストリート・ジャーナル(注)によると、AT&TのU-verseサービスの料金は、競争相手のケーブル・テレビ会社(サン・アントニオではTime Warner Cable)が提供するサービスと、ほぼ同等とみられている。しかし、素早いチャンネル・サーフィング、3台のセット・トップ・ボックス、インタラクティブ番組ガイドと1台のDVRなど他社にないサービスを提供している、とAT&Tは強調しているという。

(注)AT&T launches its cable foray with TV services(The Wall Street Journal / 27 June 2006)

 前掲のウォール・ストリート・ジャーナルによると、Time Warner CableはAT&Tのテレビ・サービスに対抗するため、料金を変更する計画は当面ないといっているが、AT&Tが顧客を奪うことがはっきりすれば、料金引き下げに踏切るだろうとアナリスト達は予測しているという。一方、AT&Tのテレビ・サービスは初期の段階では顧客数が少なく番組コストが高くつくため、AT&Tはケーブル・テレビ会社よりも、常に若干高めに料金を設定するだろうとみる専門家達もいる。

 伝統的なケーブル・テレビや電話サービスは、別々の回線で信号を運んでいるが、U-verseはビデオ、データそれに早晩音声通話も、高速ブロードバンドの1回線に詰め込んで伝送する。このサービスは、利用者が複数のチャンネルを同時に視ることができ、番組に関する情報を即座に得られ、やがてはテレビ受像機からインターネットのコンテントにアクセスできるようになるだろう、と前掲のニューヨーク・タイムズは期待を寄せている。

 投資家もU-verseが何百万もの電話の顧客を盗むライバル達(ケーブル・テレビ会社など)を阻止するために、AT&Tが必要としている何百万もの新しい顧客を惹きつけるのに十分役立つかどうかについて注視している。ケーブル・テレビ会社が販売攻勢をかけるバンドル・サービスに対抗するため、AT&TもU-verseでテレビ、ブロードバンドおよび電話サービスを、ようやくパッケージ化することができたからだ。しかし、AT&Tが成功すれば、サン・アントニオ地域の約半分の世帯にサービスを提供しているTime Warner Cableは巻き返しにでるだろう。顧客離れを防ぐため、彼らはテレビと電話の料金を引き下げ、プレミアム映画のチャンネルと、より高速のインターネット接続を投入するだろうという。かつてアラモの砦があったサン・アントニオは、電話会社とケーブル・テレビ会社間の対決の場になりつつある。ここで起きることは、これからAT&Tが年末までにU-verseの導入を予定している15〜20市場(ヒューストンを含む)でも、またベライゾン・コミュニケーションズが現在販売中の55市場でも、同様に繰り返されるだろうと前掲のニューヨーク・タイムズは書いている。

 すでにニューヨーク、フロリダおよびその他の5州でテレビ・サービス、FiOSの販売を行っているベライゾン・コミュニケーションズは、FTTP(Fiber To The Premises;premisesは構内という意味)方式を採用している。アクセスは原則としてオール光ファイバーであり、より高速の通信が可能であり、保守コストが低いというメリットがある。しかし、当然投資は高額になり180億ドルを計画している。この投資額でカバーされる世帯数は1,900万〜2,000万世帯とみられており、1世帯当たりの投資額は950〜900ドルである。(前掲ニューヨーク・タイムズなどの数値による)これでは投資額の回収が困難なため、ベライゾンは当面FiOSをアパートやコンドミニアムなどの集合住宅にターゲットを絞り始めているという。

 一方、AT&TのU-verseはFTTN(Fiber To The Node)方式を採用しており、ノード(顧客の近隣に設置)までは光ファイバーで接続し、それから顧客宅内までは既存のメタリック回線を利用しVDSL方式で配信する。投資額は46億ドルで、カバーするのは1,900万世帯であるから、1世帯当たりの投資額は240ドルと、ベライゾンの4分の1程度である。

事業の早い展開と投資額の早期回収が可能というメリットもあるが、後刻ネットワークのアップグレードが必要で、そのためにAT&Tは10億ドルの追加投資が必要としている。しかし、アナリスト達はAT&Tの期待通りに需要が増加すれば、追加投資の増額が必要になるだろうと指摘している。(前掲ニューヨーク・タイムズなど)

 AT&TのU-verse TVのもう一つの特徴は、マイクロソフトのIPTVソフトを使っていることである。ケーブル・テレビ会社やベライゾンなどの方式では、すべてのチャンネルをすべてのテレビ受像機もしくはセット・トップ・ボックスに伝送するが、AT&Tの方式では選択されたチャンネル(複数)だけを、顧客宅内のセット・トップ・ボックスに伝送するので、大きな帯域を使わなくて済む。そのため、ノードと顧客宅内間に既存のメタリック回線を活用できる。また、電話の通話、インターネット接続およびテレビの信号はブレンドされて同じパイプで伝送されるので、例えば、着信通話やメールがテレビの画面上に表示され、PCからのデジタル写真はテレビの画面に表示するためDVRでコピーされる。しかし、マイクロソフトのIPTVソフトは、完全な製品ではなく(unproven)、現時点では高精細テレビを扱えないし、テレビ受像機からインターネット・サーフィングもできない。それでも当初の予定より、導入が6ヶ月も遅れた(注)

(注)Selling TV like Tupperware(The Wall Street Journal / June 29,2006)

 しかし、AT&Tのアプローチには有利な点が多くあるという。AT&Tが採用したマイクロソフトのIPTV技術は、ウェブ・ページがPCに配信される場合と同様に、一度に1つのストリームしか配信しない。この結果、技術的には提供できるチャンネルを無制限に追加できる。また、オン・デマンドのストリームもより速く伝送できる。このことは、例えばAT&Tは地元の高校と提携して、フットボール試合のライブ中継を簡単に実現できるということである。

■AT&T、バンドル戦略を強化

 光アクセス網に対する相互接続規制の撤廃を受けて、米国でもようやく2大電話会社がアクセス網の光ファイバー化に踏みだした。光アクセス網の展開は、競争相手のケーブル・テレビ会社に対抗するためテレビ・サービスを提供することが目的であり、単なるインターネット接続の高速化のためではない。だから、当面の目標を対象世帯の半分をカバーすることにおいている。IPネットワーク上でテレビ信号を配信するために、解決すべき課題も多かった。AT&Tが採用したマイクロソフトのIPTVソフトも、HDTVに対応できないなど未解決の問題を残している。それでもベライゾンなどの電話会社やケーブル・テレビ会社は、AT&TのU-verse TVの成否に重大な関心を抱いている。

 わが国は世界に先駆けて光アクセス網の本格的展開に踏切った。NTTは中期経営計画が終了する2010年には、アクセス網の半分にあたる3,000万回線を光アクセスに移行させ、それに対応するコア・ネットワークをオールIPの次世代通信網(NGN)に移行する計画である。しかし、光アクセス網の能力をフルに発揮させ、光アクセス網事業を採算が取れるようにしていくためには、高速インターネット接続やビデオ・オン・デマンドだけでなく、ストリーミング・テレビを取り込むことが不可欠ではないだろうか。そうしなければ宝の持ち腐れになる恐れがある。AT&TのU-verse TVも、成功すれば従来の放送(地上波、衛星、ケーブル・テレビ)にはない新機軸が実現することになる。

 通信サービスのトレンドは、融合(放送/通信、固定/移動、有線/無線など)、バンドル化、ワンストップ化に向いている。AT&Tは去る7月5日にも、All Distance landline、AT&T Yahoo!High Speed Internet ExpressおよびCingular Wireless servicesをバンドル(トリプル・パック)して月額100ドルで提供すると発表した。しかも、このサービスを契約した顧客は、ワイヤレスおよび有線によるボイス・メール、eメールおよびファックスのすべてを、固定電話、ワイヤレス端末およびPCのいずれからでも管理できる。このサービスの申し込みは、AT&T Unified Messagingがワンストップで対応する。ただし、この割引サービスの申し込み受付は8月末で終了する。

(注)All Distance planは国内無制限のローカルおよび長距離通話、Caller IDのほか2種類の付加機能サービスを選択できる。AT&T Yahoo!High Speed Internet Expressは最大上り1.5Mbps、下り384kbps。Cingular planは450anytime minutesおよび5,000 night and weekend minutesプラス携帯電話相互は無制限。これとは別に、AT&Tの住宅用加入者で、他社からCingularに携帯電話の契約を切替えた顧客には120ドルのVisaギフト・カードを進呈する、ただし年内限り。AT&Tは近く、EchoStarの衛星テレビとインターネット経由のビデオと映画を組み合わせたサービス、Homezoneを開始する。現在、AT&Tの住宅用顧客の65%以上は2〜3のサービスをバンドルしているという。

特別研究員 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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