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Global Perspective 2011
2011年10月11日掲載

ジョブズ氏とオバマ大統領〜”iPresident” はまたアメリカに希望を与えられるか

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年10月5日、Appleの共同創業者スティーブ・ジョブズ氏が56歳で逝去された。

 ジョブズ氏の偉業は言うまでもなく、彼とAppleの歴史、人生、追悼に関する記事やレポート、コラムは英語、日本語だけでなく全世界で数多見かける。

 世界の多くの人々と同じように、オバマ大統領も2011年10月5日、追悼の意を表明している。
その中で、ジョブズ氏を以下のように讃えている。

"Steve was among the greatest of American innovators - brave enough to think differently, bold enough to believe he could change the world, and talented enough to do it."
(アメリカで最も偉大なイノベーターだった。固定概念に囚われない考え方を持ち、勇気にあふれ、世界を変えることができるという大胆な信念を持っていた。そしてそれを実行する才能も十分に持ちあわせていた。)

 オバマ大統領というと「Blackberry」のイメージが強いが、大のAppleファンで有名で、アメリカの政治サイトPOLITICOでは「The iPresident」と称された記事もある程だ。

 本稿ではオバマ大統領とジョブズ氏、Appleについて取り上げてみたい。

2008年:民主党キャンペーン

 まずオバマ大統領とAppleで思い出すのは、2008年の民主党選挙でのヒラリー・クリントンとのキャンペーンである。この時、1984年にマッキントッシュ・コンピュータが出てきた時のテレビ広告になぞらえてAppleの標語とも言われた「Think different」にかけて「Vote different」とキャンペーンをしていた。ヒラリー・クリントンを旧来の象徴に準えて、自らはそれを打破するイノベーターであることを強調している。

【参考動画:1984年のマッキントッシュ・コンピュータ広告(1984年)】

【参考動画:2008年のオバマの民主党でのキャンペーン(2008年)】

2008年:トーク番組でのジョーク公約

 2008年1月24日に放送されたCBSの人気トーク番組「The Late Show With David Letterman」では、オバマ大統領候補は、10の公約を発表した。もちろんジョークの公約だが、最後から4番目の公約では、"I won’t let Apple release the new and improved iPod the day after you bought the previous model."(Appleに最新のiPodを購入直後には、最新の進化したiPodを発売させないようにする)と鋭いジョークを語って笑いをとっている。

【参考動画:トーク番組でiPodに関するジョークの公約をするオバマ候補(2008年)】

 2008年の大統領選挙時には、iPhoneアプリもリリースして選挙活動を行っていた。

2009年:エリザベス女王へiPodプレゼント?

 大統領に就任して2009年4月にイギリスを訪問した際には、エリザベス女王に、女王が2007年にアメリカ訪問した際のビデオを入れた専用iPodをプレゼントしたというニュースもある。

【参考動画:エリザベス女王にiPodをプレゼントしたニュースクリッピング(2009年)】

2010年:中間選挙でのiPhone・iPad向けアプリ配布による活動

 2010年の中間選挙時には、オバマ大統領の支持組織「Organizing for America」と民主党は2010年6月24日、iPhoneとiPad向けの選挙活動アプリの無償配布を実施した。選挙キャンペーンに参加してもらうのが目的で民主党議員と直接通話ができるアプリや、最新の写真、動画、ニュースや全米の民主党集会の開催場所などを知ることができるアプリが提供された。

【参考動画:2010年中間選挙の際に民主党が作成したiPhone向けアプリ】

2010年:iPadにサインした初めての大統領

 2010年10月には、iPadにサインをした初めての大統領としてもニュースになっている。iPad登場のインパクトを感じさせられる。

【参考動画:iPadにサインするオバマ大統領を伝えるニュース(2010年)】

2010年:ジョブズ氏との会談

 2010年10月21日には、オバマ大統領はジョブズ氏と会って、経済、教育、テクノロジー等について語ったとの報じられている。これはオバマ大統領の強い希望だった。オバマ大統領は2010年12月22日の声明で「アメリカン・ドリーム」の体現者としてジョブズ氏を例に挙げて、以下のように語っている。

  And something that's always been the greatest strength of America is a thriving, booming middle class, where everybody has got a shot at the American Dream.  And that should be our goal.  That should be what we’re focused on.  How are we creating opportunity for everybody?  So that we celebrate wealth.  We celebrate somebody like a Steve Jobs, who has created two or three different revolutionary products.  We expect that person to be rich, and that's a good thing.  We want that incentive.  That's part of the free market.  

2011年:IT業界の有名人らと

2011年2月には、Facebookのマーク・ザッカバーグ氏やGoogleのシュミット氏、Appleのジョブズ氏らとともに会談をした際、オバマ大統領の隣がジョブズ氏だった。
 Economistの記事によると、” Americans' entrepreneurial self-esteem is now embodied by Apple, Google, Facebook and Amazon.” とのことである。IT業界でもCisco、HPなどの業績が悪化する中、アメリカン・ドリームの体現である起業としての成功や、今後のアメリカ経済の牽引役としてオバマ大統領としてもAppleらに期待したいところだろう。

2011年:ジョブズが大統領に?

 2011年8月には、Appleの時価総額は3372億ドル(約26兆円)で、エクソンを抜いて世界一を達成した。同月には、Scoopertionoがジョブズ氏を大統領にすべきだというコラムを書いている。そして、「Jobs for President」というサイトも立ちあげられていた。非常に興味深い政策のアイディアも紹介されている。「Jobs 2012 Campaign Video」まで作成されており、非常にリアリティがある。

 今となっては敵わぬことであるが、もしかしたら、ジョブズ氏が大統領になっていたかもしれないと考えると、どのような国家運営をするのか想像をめぐらしてしまう。

【参考動画:「Jobs 2012 Campaign Video」】

”iPresident”に期待できるか

 オバマ大統領は2008年の大統領選挙の時には、"Yes, we can"のキャッチフレーズで人気を博した。アメリカ国民も何かを変えてくれると期待していた。

 Apple社の繁栄はアメリカ経済が好調であることの証として、2012年の選挙時にもオバマ大統領はAppleの勢いに肖って戦いたいだろう。
アメリカの失業率は約9%で回復の兆しが見えない。さらに2011年10月、ウォール街でのデモは全米に拡大している。

 Appleのジョブズ氏は、偉大なるイノベーターとして世界から愛されてきた。アメリカン・ドリームを体現した人物の一人である。2008年オバマが大統領に就任した時には、アメリカはオバマ大統領なら、経済や生活を向上させてくれるイノベーターだろうと期待していた。オバマ大統領もアフリカン・アメリカ人初の大統領としてアメリカン・ドリームを体現した人物の一人とされていた。

 現在、アメリカでは2012年の選挙に向けて共和党の候補者選びが話題になっている。次回の大統領選挙では誰が選出されるかについてはここでは論じないが、国家の指導者にはジョブズ氏のように、夢や希望、「わくわく感」を与えてもらいたいものだ。

 もちろん起業家と政治家では職種も違うから同じように比較することはできない。しかしジョブズ氏が愛されたのは、人々に夢や将来への期待と「わくわく感」を抱かしてくれたからだろう。ジョブズ氏とオバマ大統領は人を引き付けるスピーチの天才だ。最近のオバマ大統領のスピーチには2008年の時のような鋭い切れ味や熱狂、期待感を感じられない。

 世界経済が低迷し多極化する中、今でも世界で唯一の覇権国家であるアメリカの大統領選挙には世界が注目している。

 今後のジョブズ氏がいなくなったAppleと同時に国際社会は今後のアメリカ経済と政治、大統領選挙の行方にも重ねて注目する必要があるだろう。

 ジョブズ氏のご冥福を改めてお祈り申し上げます。

最後に。余談。

 2011年10月7日、東京銀座のアップルストアに行ったところ、店頭前にはリンゴや花束、メッセージがたくさん捧げられていた。

Appleストア銀座店 スティーブ・ジョブズを偲んで
(筆者撮影)

 余談だが、1985年2月1日の「Playboy」でのインタビューにおいて、ジョブズは、以下のように述べている。

「多くの人々が家庭でコンピューターを購入する最も重要な理由は、国中でコミュニケーションネットワークに接続するためだ。多くの人々にとって、本当のブレークスルーの初期の段階に達した」と、まさにインターネット登場への先見の明があったのかもしれない。

“The most compelling reason for most people to buy a computer for the home will be to link it into a nationwide communications network. We're just in the beginning stages of what will be a truly remarkable breakthrough for most people.”

 1985年2月「Playboy」でのインタビュー記事は、若きジョブズ氏のビジョンや思想について語られており、非常に興味深い。

 オバマ大統領の今回のジョブズ氏への追悼の中で、以下のようなコメントがある。

By making computers personal and putting the internet in our pockets, he made the information revolution not only accessible, but intuitive and fun.

 確かにAppleのiPhoneが世界中に普及することによって携帯電話(ポケット)からインターネットに簡単にアクセスできるようになったことは事実だ。しかし、日本ではiPhone登場より遥か前から携帯電話から簡単にネットにアクセスしたり、メールをしていたのだ。

*本情報は、2011年10月8日時点のものである。
本稿はオバマ大統領(アメリカ民主党)を支援するものではない。
また、Apple社を宣伝するものでもない。

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