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Global Perspective 2011
2011年11月21日掲載

幸福の国ブータンの携帯電話事情

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年11月15日から20日までブータンのジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王とジェツン・ペマ王妃が国賓として来日していた。
来日中は、国会での心打たれる演説、東日本大震災の福島県を訪問、またブータンとも縁ある京都を訪問(1957年、第3代ブータン国王王妃ケサン・チョデン・ワンチュク殿下が来日した際に京都を訪問)し、多くの日本人も注目を集めたことだろう。

 ブータンは1972年にジグミ・シンゲ・ワンチュク国王が提唱し、建国の理念に掲げている「国民総幸福量(Gross National Happiness:GNH)」でも有名である。「国民総幸福量(GNH)は国民総生産(GDP)よりも重要である」という理念で、2005年の国勢調査によるとブータン国民の約97%が「幸せ」と回答している。近年、GNHの概念は世界的にも注目されている。

 東日本大震災の翌日2011年3月12日にはブータンでは国王主催の「供養祭」が挙行され、3月18日には100万ドルの義損金を日本に贈ってくれた。ブータンの1人当たりの国民総所得は1,920米ドル(世界銀行2010年)であるから、相当な額を寄付してくれたことになる。
2011年9月にはジグミ・イェゼル・ティンレイ・ブータン王国首相が来日し、同様に東日本大震災の被災地である福島県を訪問するなど2011年は日本人にとってブータンという国が身近になった年ではないだろうか。

 ブータンはドゥクパの国(雷龍の国)と称され、国旗には「王家の権威の黄色」と「仏教の信仰のオレンジ色」で中央に龍が描かれている(図1)。

(図1)ブータンの国旗

ブータンの国旗

今回は、ブータンの携帯電話について見てみたい。

ブータン携帯電話事情

 ブータンの人口は、約70万人(東京都練馬区と同じくらい)、面積は38,400km²(九州と同じくらい)である。公用語は、ゾンカ語、英語、ネパール語である。今回の国宝来日中も英語で流暢なスピーチを行われていた。小学生から英語教育が行われている。また今回紹介する通信事業者のサイトも英語である。(但し、テレビ広告は現地のゾンカ語で放送されているものが多い)
放送・通信に関する当局はBhutan InfoComm and Media Authority(BICMA)が担当している。

携帯電話加入者:約42.8万加入。人口普及率約61%。(2011年9月)
ブータンの主要通信事業者としては下記2社。

1.B-Mobile
・シェア:約76.4%
・固定電話、ブロードバンドの提供を総合的に行うブータンテレコムグループ
・2003年から携帯電話サービス開始

2.TashiCell
・シェア:約23.6%
ブータンのTashiグループのTashi InfoCommが運営。
・2007年から携帯電話サービス開始

携帯電話は2003年から

 ブータンでは携帯電話は2003年11月から導入された。日本では1992年に現在のNTTドコモがNTTから分離し事業を開始したが、実際にはそれ以前から携帯電話の開発、製造、販売は行われていた。先進国を中心に1990年代半ばから携帯電話が急速に普及していくのを見ると、約10年を経てブータンでは携帯電話が導入された。

 しかし携帯電話が開始された2003年には、世界では携帯電話が普及していたから、端末はすぐに入手することは可能であった。また英語が公用語であるブータン人にとっては英語での携帯電話の利用が可能であることから、携帯電話メーカーの方もゾンカ語に対応した携帯電話の開発、製造をしなくてよいので、普及のスピードは物凄く早かった。

 2003年に携帯電話導入を開始した際に、ブータンテレコムのSangey Tenzing氏は、「世界中で携帯電話を利用しているのだから、ブータンでも開始するよ」と以下のようにコメントしている。ブータンでの携帯電話普及に意気込みを感じるコメントであった。

"If the world has adjusted itself why not Bhutan?  This is going to improve the quality of life, the way things are run, enable people to do their business much more effectively and efficiently."

 なお、固定電話の普及率は約4%であり、2005年をピークに現在も減少している。世界の多くの新興国に見られるようにブータンでも通信の主流は固定電話ではなく携帯電話である。今後も携帯電話の普及は拡大していくと見通される。

山国ブータンで重要なネットワークカバレッジ

 ブータンは、地理的にヒマラヤ山脈南麓に位置しており、利用者、携帯電話事業者にとっても全国で利用できる(繋がる)ことが重要である。B-Mobileは、全国で利用できることを「ウリ」にしており、カバレッジが広く利用できることをアピールする広告もしている。また、TashiCellも2010年8月に、2011年末までには全国にカバレッジを拡大することを発表している。

主流なサービスはSMS

 一番利用されているのは、SMS(ショートメッセージサービス)であり2010年の1年間でブータンにおいて約6,990万通のSMSが送信された。(内訳として、6,280万通がB-Mobileで、710万通がTashiCellから)
2010年の携帯電話加入者が約38万人であるから、1年間で1人平均約184通の送信だから2日に1通程度になる。世界的に見るとそれ程多い数字ではない。

 なお、B-Mobileでは、ブータン国王の結婚を祝して、2011年10月13日から15日までプリペイドユーザには50通までのSMSまたは通話を無料にし、ポストぺイドユーザには同期間の朝6時から昼12時までの通話を無料にするサービスを提供していた。

インターネット利用

 ブータンでインターネットが導入されたのは1999年である。インターネット普及率は、ITUの調査によると、2010年で13.6%(約9.5万人)である。ブータンでのFacebookの利用者は、約62,680人いる。人口普及率は約9%。利用者の73%が18歳〜34歳である。またTwitterも人気があり、SMSからの投稿もできるサービスがVAS(付加価値サービス)として提供されている。

 当局BICMAの2011年9月時点では、携帯電話の3G加入者が約6,100で、GPRS対応加入者が約102,800であるから、多くの携帯電話加入者がGSMでの利用だから携帯電話からのネット接続はまだ多くないだろう。今後の成長に期待したい。

テレビ広告から見るブータンの携帯電話事情

 ここからは、各社の提供しているテレビ広告を見ていきたい。
広告内で多くのブータン人が民族衣装(男性は「ゴ」女性は「キラ」)を着用しているのが印象的である。そしてゾンカ語の広告がほとんどである。映像からブータンの携帯電話事情と生活、風景を垣間見ることが出来て興味深い。

【参考動画:B-Mobile広告(2011年)】
民族衣装とNokia端末の着信音が印象的である。

【参考動画:B-Mobile広告(2010年)】
B-Mobileの3Gでのテレビ電話利用とカバレッジの広さを"Take advantage of B-Mobile"とアピールしている。
幸福の国ブータンの「比較広告」。ビジネスはビジネスなのだろう。

【参考動画:B-Mobile広告(2010年)】
データカードで外からでもラップトップ利用できることをアピール。

【参考動画:B-Mobile広告(2010年)】
「CharoCharo」というB-Mobileが提供する特定の通話先発信サービスの広告。

【参考動画:B-Mobile広告(2008年)】
企業広告で、B-Mobileの歌が流れている。

【参考動画:B-Mobile広告(2010年)】
100KBまでの写真や動画が送信できるMMS(Multimedia Messaging Service)はブータンの主流なVASである。

【参考動画:Tashicell広告(2009年)】
Tashicell社広告。"Keep in Touch"

【参考動画:Tashicell広告(2009年)】
Ring Back Tone(着信者に音楽を聞かせるサービス)もブータンでは主流なVASである。

 1986年に日本とブータンの国交を結んだ。国王が日本の国会演説でも述べたように2011年は25周年である。今回のブータン国王の来日を機に国民総幸福量(GNH)を掲げるブータンから日本人が改めて学ぶことが多いと痛感した人も多いのではないだろうか。今後もブータンと日本の親交が深まっていくことを期待している。

(参考)
ブータン王国政府オフィシャルサイト
ブータン王国名誉領事館

*本情報は2011年11月20日時点のものである。

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