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Global Perspective 2011
2011年12月16日掲載

通信事業者はNFCで何をしたいのか?改めて考える時

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年11月16日、モバイル業界団体GSM Association (GSMA)は、SIMカードを利用したNFC技術の標準化に向けて、世界の通信事業者45社が支持を表明したことを発表した。

 今回のGSMAの発表では、世界最大級の通信事業者で中国の「チャイナモバイル」と「チャイナユニコム」の2社が加盟したことを強調している。(この2社で約8億人のユーザがいる)合計45社がSIMカードを用いたNFCサービスの推進をしていくことを支持することになった(表1)。

 そもそもNFCとは、「Near Field Communication」の略称で、日本語では「近距離無線通信」と訳されることが多い。13.56MHzの電波で、10cm程度の距離で100〜400kbpsの双方向での通信が可能な規格である。SIMカードを用いたNFCサービスというのは、セキュアエレメント(NFC通信を行う際の暗号化機能・鍵管理機能などに対応するセキュアな領域)がSIMカード内にあるということだ。技術的な詳細については本稿では割愛する。

 NFCと携帯電話の組み合わせだと、すぐにモバイルペイメントを想起しがちである。しかしNFCはあらゆる非接触なやり取りに用いられることが可能である。SIMカードで対応することが可能ということで、携帯電話との相性は非常に良い。携帯電話との相性がよくSIMカードで対応できるから、ということで通信事業者が自社のサービスとして活用できるのではないか、と目をつけるのは当然のことであろう。

 NFCの対応が携帯電話端末側、microSD、スティッカーなど様々あるが、SIMカードで対応していることは通信事業者にとっては、ある程度有利ではあるだろう。SIMカードは基本的にその通信事業者に対応しているからだ。海外では携帯電話端末はSIMフリー(どの通信事業者のSIMカードでも利用可能)であることが多いため、携帯電話端末側でNFCを対応していても通信事業者はSIMを差し替えられてしまっては自社とユーザの結び付きはなくなる。また海外(特にプリペイド普及率が高い国)では、1人が複数のSIMカードを持っており、用途に応じて使い分ける利用方法が主流である。通信事業者としては自社のSIMカードを利用してもらいたいことから、多くの自社サービスを提供していきたいという思惑が働く。

 今回、ユーザ数が2社合計で8億人を超える中国の通信事業者が入ったことで、今後はSIMカード対応のNFC技術の実現という動きは加速していく可能性が高い。

 今までは「どのようにしてNFCを実現させるか?」という方法論が目立っていた。現在、「NFCを活用して何を実現させるか?」の段階にきているといえるだろう。

 2011年2月21日には、2012年までにNFC技術を活用して商用化をコミットした通信事業者が16社ある。2011年は欧州でのユーロ危機などがあり全ての通信事業者が2012年までにNFCの商用化は難しいであろう。(これは法的拘束力がないから、達成できなかったといって罰則はない)

 SIMカードは通信事業者にとって馴染みがあり自社でコントロールしやすい。ここ数年、通信事業者はNFCを活用したサービスに積極的な姿勢を見せている。しかし、なかなか商用化に結び付かないことが多い。

 NFCを活用したサービスの実用化に向けて、通信事業者は再度、以下の点について検討する必要があるだろう。

(1)「そもそも通信事業者はNFCを活用して何をしたいのか?」
 →通信トラヒックに代わる新たなサービス、差別化、付加価値として、どのようなサービスを通信事業者は創出したいのか?

(2)「どのようなNFCサービスはユーザが求めているのか?」
 →NFCを活用したサービスの提供が携帯電話である必要があるのか?(カードでも代用できるのではないか?) 
→利便性は本当に良いのか? お客様満足の向上に繋がるのか?
 →ユーザは、そのサービスを利用したいために通信事業者を選択してくれるのか?

(3)「それで通信事業者は儲かるのか?」
 →NFCでモバイルペイメントと世界中で喧伝されているが、本当に通信事業者は利益が出る(ビジネスになる)のか?
 →ユーザの囲い込みになるのか?

 世界45の通信事業者がSIMカードを利用したNFCへ支持を表明したが、提供するサービス、国、文化は各国バラバラである。
世界の通信事業者のNFCへの取組みについては、サービス開発の基本に立ち返って自社の強みと市場環境、費用対効果を見極める時期にあるといえる。オランダのT-MobileのようにNFCモバイルペイメントへの取組みは「一時的に様子見をする」という判断も重要である。

 通信事業者がNFCサービス化実現に向けて解決しなくてはならない問題は多々ある。GSMAが主催する「NFC & Mobile Money Summit 2012」が2012年10月に開催される。かなり先の話だが、世界の通信事業者はNFCへの取組みに対して、どのようなスタンスでこれから臨んでいくのか、各社の対応に注目していく必要がある。

(表1)今回SIMカードを利用したNFCの推進を支持した45社と、2012年までにNFC実用化をコミットした16社


通信事業者・団体名国(本社)2012年までに
NFCの実用化を
コミットした16社
1America Movilメキシコ
2AT&Tアメリカ
3AVEAトルコ
4Axiataマレーシア
5AXISインドネシア
6Bharti Airtelインド
7Bouygues Telecomフランス
8CSL香港
9China Mobile中国
10China Unicom中国
11Deutsche Telekomドイツ
12Elisa Corporationフィンランド
13 Emirates Integrated Telecommunications Company PJSC(du) UAE
14EtisalatUAE
15Everything Everywhereイギリス
16Globe Telecomフィリピン
17ISIS(米国通信事業者による
NFC推進に向けたジョイント
ベンチャー)
アメリカ
18KPNオランダ
19KT Corporation韓国
20Maxisマレーシア
21Mobilyサウジアラビア
22MTSロシア
23Orangeフランス
24Proximusベルギー
25Qtel Groupカタール
26Rogers Communicationsカナダ
27Saudi Telecom Company (STC)サウジアラビア
28SFRフランス
29SK Telecom韓国
30Smartフィリピン
31SOFTBANK MOBILE日本
32Telecom Italiaイタリア
33Telecom New Zealandニュージーランド
34Telekom Slovenijeスロベニア
35 Telefonicaスペイン
36Telekom Austria Groupオーストリア
37Telenorノルウェー
38TeliaSoneraスウェーデン
39Telusカナダ
40TMNポルトガル
41Turkcellトルコ
42Verizonアメリカ
43VimpelComロシア
44VIVA Bahrainバーレーン
45Vodafone Groupイギリス

(GSMA発表資料を元に筆者作成)

*本情報は2011年12月14日時点のものである。

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