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Global Perspective 2011
2011年12月27日掲載

ルーブル美術館:「ニンテンドー3DS」によるガイダンス〜「リアルな作品」鑑賞との併用に向けて

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 パリのルーブル美術館と任天堂が提携して、「ニンテンドー3DS」で来館者向けの館内デジタルガイドの開発を行っていることをAFP通信が2011年12月15日に報じている。美術館におけるデジタルガイダンスツールについて考えてみたい。

(図1)年間850万人訪れるルーブル美術館
(図1)年間850万人訪れるルーブル美術館

ルーブル美術館の新たな取組みとしての「ニンテンドー3DS」

 現在は、音声ガイダンスを6ユーロ(18歳未満は2ユーロ)で貸してくれる。日本語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、韓国語の7か国対応の音声ガイダンスがある。
この音声ガイダンスは、年間約850万人の来館者のうち4%程度の人にしか利用されていない。つまり年間利用者は約34万人ということになる。単純に計算すると、1言語につき約5万人が利用しており、1日平均すると1言語につき約140人程度の利用者だから世界最大級の美術館であるルーブル美術館としては決して大きな数字とは言えないだろう。しかし添乗員ガイドがついているツアー客や修学旅行生などは音声ガイダンスを利用しながらじっくり鑑賞することが少ないだろうから妥当な数字かもしれない。

 「ニンテンドー3DS」によるルーブル美術館ガイドは、2012年の3月から提供開始を予定しているそうだ。「ニンテンドー3DS」による美術館ガイダンスは、世界初となるとのことだ。まずは5,000台から開始する。
 ルーブル美術館マルチメディア部門のAgnes Alfandari氏によると、ガイドアプリには「ニンテンドー3DS」の3Dビジョン技術を利用した館内ガイドや、7ヶ国語に対応した数百以上の展示物解説が提供されるほか、子供向けテーマ別コースなども準備されているとのこと。ガイドアプリはルーブル美術館が監修を行い、任天堂が開発を実施しているとのことだ。

 音声ガイダンスに代わる新たなガイダンスツールとして以下のように語っている。

"Digital development has become a strategic issue for museums,People's habits have changed. But that offers us a huge opportunity to extend the museum's territory, and build a lasting relationship with our visitors"

 生まれた時からインターネットや携帯電話が当たり前のデジタルネィティブの子供たちも来館する時代である。もはやこの時代の流れには逆行できないのだろう。新たなデジタルツールとしてルーブル美術館の付加価値サービスを提供していこう、という意気込みはよく感じられる。
 なお、ルーブル美術館ではiPadやスマートフォン向けアプリの開発も推進しており、数か月以内に有料アプリとしてダウンロード可能になる予定だ。

ルーブル美術館のデジタル化された情報

 ルーブル美術館の公式サイトは日本語にも対応しており、内容は非常に充実している。
ルーブル美術館マルチメディアツアーでは、インターネット上に多くの作品が紹介されており、高画質で楽しむことができる。またルーブル美術館の公式サイトでは様々な作品の詳細説明も明記されており、ネット経由で多くのことを学ぶことができる。同サイトは日本語版もあるのでフランス語、英語がわからなくとも理解できる。事前学習や芸術に興味のある人にはうってつけのサイトである。日本にいながらにして、多くの情報がネットを通じて得ることが可能である。世界中のどこからでもアクセスして情報を収集することができるのがインターネットの特徴であることは、もはや言うまでもない。
また世界最大級の美術館であるルーブル美術館を特集したテレビ番組やDVDなどに収録された視聴覚教材も世界中で多くある。これらを通して得た情報を基に実際に美術館へ足を運んでくる人や、鑑賞後に改めて内容の確認を行ったりする人も多いだろう。

美術館の「リアルな作品」に触れる醍醐味

 パリまで行き、ルーブル美術館に足を運ぶのであれば、そこに展示されている「リアルな絵画、作品」をじっくりと鑑賞すべきではないだろうか。ルーブル美術館は世界最大級であり、「モナリザ」「ミロのヴィーナス」「ナポレオンの戴冠」など数多くの歴史的名作が展示されている。

 デジタルツールでのガイダンスを否定することはしない。時代の流れであるし、美術館の新たな付加価値サービスとしてICTが活用されており非常に興味深い。またルーブル美術館の積極的なIT化を取り入れて情報発信を行う姿勢には敬意を表する。

 おそらく「ニンテンドー3DS」でのルーブル美術館ガイダンスは立派なコンテンツで世界中の人々を魅了することだろう。美術館の中でデジタルツールに目を奪われ、「小さな端末の画面の中」に夢中になってしまって「リアルな作品」の醍醐味を味わえないのでは、本末転倒になりかねない。利用者としては注意しておきたいところだ。
多くの情報はインターネットで既に配信されているから事前学習として、それらを活用することもできる。当たり前のことだが、実際にパリのルーブル美術館まで足を運んだら「リアルな作品」に触れることを忘れてはいけない。そして美術館には、インターネット上やデジタルツールガイダンスだけではわからない建物の細部の彫刻、芸術作品があるものだ(図2)。美術館を巡ることは、そこに展示されている作品、芸術家たちとの時空を超えた対話ともいえる。

 これからはデジタルツールによるガイダンスやインターネットによる事前学習、情報収集と実際に美術館に行った際の「リアルな作品を味わう醍醐味」を上手に併用できるようなスキルが求められてくるのかもしれない。
今後、世界の多くの美術館がこのようなデジタルツールによる顧客向けサービスを導入してくることが考えられる。しかし、くれぐれも「小さな画面」だけに夢中になってしまい、実際の作品をほとんど見てないということがないよう、使い分けに気をつけたいものだ。
 当たり前のことだがICTの発展した現代において、改めて芸術鑑賞の基本に立ち返ってみる必要があるだろう。

(図2)ルーブル美術館の天井の彫刻や絵画
(図2)ルーブル美術館の天井の彫刻や絵画

*本情報は2011年12月26日現在のものである。

【参考動画】ルーブル美術館での「ニンテンドー3DS」導入を伝えるニュース。

(参考)
ルーブル美術館公式サイト
国際博物館会議(インターネットミュージアム)

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