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Global Perspective 2012
2012年1月19日掲載

新興国農村における携帯電話の活用とウガンダの事例

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 農業問題は食糧問題でもあり、食糧は人間の生活の営みと直結している。アフリカを中心とした新興国にとって農業は今日、明日を生きていかなくてはならない喫緊の課題である。また、最近のアフリカで急成長しているのが携帯電話である。携帯電話という最先端のツールを入手することによって、アフリカの農民たちも様々な情報にアクセスできるようになり日々の生活は大きく変わり、今後も影響を与えると考える。ウガンダの事例をあげて農業・農村開発に携帯電話が果たす役割を考察していきたい。

新興国の農業・農村開発分野における携帯電話の役割

 2011年9月、英国の通信事業者Vodafoneとコンサルティング会社アクセンチュアが新興国での携帯電話の活用による農業活動の向上に関するレポート「Connected Africa」を発表した。大きく4つのカテゴリーで12のテーマについて事例を取り上げて携帯電話が新興国の農村地域開発で果たす役割について述べている。同レポートはダウンロードも可能である。以下に各カテゴリーのポイントを抽出する。

【カテゴリー1】モバイルを活用した金融・決済サービスへのアクセス

  • 農業発展のために、農民たちに携帯電話を活用した金融サービスを提供する。

モバイルペイメント

銀行口座を持たない人でも携帯電話での支払いが可能になる。アフリカではモバイル送金が一般的で生活のライフラインになっている。

モバイル小額保険システム

携帯電話を通じて小額保険に加入する。農民たちは悪天候などにより不作だった時にも品質のよい種を購入可能にすることができる。

モバイル小額借り入れ

携帯電話を通じて、農民たちに必要に応じてお金を貸すことができるプラットフォームを構築する。

 

【カテゴリー2】モバイルを活用した農業情報サービス

  • 農業に従事している農民たちが天気、日用品の値段、農業技術に関する情報に携帯電話を通じてアクセス可能とする。

携帯電話を活用した情報
プラットフォーム

農民たちはSMSを通じて、天気、日常生活に必要なこと、農業技術など様々な情報にアクセスして農業生産性と収入の向上につながることが期待できる。政府や農業支援団体が情報プラットフォームを活用した様々な情報を配信していくことが可能となる。

ヘルプライン

農民たちは農業専門のヘルプラインに電話して専門家に様々な指導をしてもらうことや、質問することが可能となる。

【カテゴリー3】モバイルを活用したデータベースとサプライチェーンの効率化

  • サプライチェーンマネジメントの向上と交通ロジスティックの改善、効率化に向けた携帯電話の活用。

スマートロジスティック

携帯電話を活用して効率よいロジスティック(農作物、肥料の運搬)が可能となり、燃料や稼働、コストの無駄が減る。また精確なロジスティックの確保によって食糧不足の解消にもつながる。

トラッキングシステムによる
追跡

携帯電話を活用して個々の農産物を売り手から買い手に届くまでのトラッキングを行うことが可能となる。

サプライヤー・ネットワーク

農産物の売り手や輸出業者が携帯電話を活用した現地の情報収集が可能となる。

ディストリビューション・ネットワーク

種や肥料の販売人やファシリティターが携帯電話を活用して販売価格や在庫情報の収集を可能にする。

【カテゴリー4】モバイルを活用したマーケットへのアクセス

  • 携帯電話を活用して農作物や日用品の売買取引情報へのアクセスを可能とする。

10

農業取引プラットフォーム

携帯電話を活用して農民たちが農産物を少量からでも適正な価格で販売できるようになる取引プラットフォームの構築。

11

農作物入札プラットフォーム

農作物売買の入札プラットフォームを構築し、携帯電話を活用して入札に参加することによって、農業サプライチェーンの競争力向上と効率化につなげる。

12

物々交換プラットフォーム

携帯電話を活用して地方に住む農民たちが商品(農作物・日用品など)、サービスをコミュニティ内で物々交換を実施し生活向上につなげる。

(出所:「Connected Agriculture」を元に筆者作成)

 携帯電話は今までの農村での生活を一変させる大きな潜在能力を持っている。様々な情報や知識にアクセスすることが可能となり人々の生活は向上する。そしてリテラシー向上に伴って、人々は今までのように無計画な森林伐採をしなくなり、農作物生産性向上のために最善の土地利用方法を検討するなど、自然環境との調和を図っていく機会も与えるだろう。
 一方で、携帯電話を持てない人々と持てる人々の情報格差の解消や携帯電話から様々な情報を得られるが、その情報が本当に正しいかどうかの判断力の養成も求められるだろう。また携帯電話は情報も得られるが電池や通話料金など費用もかかる。生活改善を目的とした携帯電話の活用がかえって負担にならないよう政府やNPOによる取組みも今後重要になるだろう。
 新興国の農村地域での情報収集や生活ツールとして携帯電話が活用され、それに伴って農民たちのリテラシーが向上し、生活と社会が発展することに期待したい。

ウガンダでの携帯電話を活用した事例

 アフリカでは急速に携帯電話が普及している。アフリカの農村地域で人々の生活および仕事の向上にどのように活用されているかウガンダの事例を紹介していきたい。

 2009年6月、ウガンダにおいてNPOグラミーン財団が運営する「AppLab Uganda」がGoogleとウガンダの現地通信事業者MTNと提携してSMSによる新たなサービスを提供開始したと、ITUが報じている。
 以下の4つのサービスを携帯電話のSMSを活用して提供している。

  1. 天気予報
  2. 「Farmer Friend」:農業アドバイス
  3. 近隣の病院がわかる「病院検索」と健康・病気に関する情報配信
  4. 「Google Trader」:利用者がSMSで農産物や中古品などの売り手と買い手の情報をマッチングさせる。また農村部での職探しも可能。他に疫病情報や市場での農産物の価格、マラリア予防に向けた情報を得ることができる。パソコンからの閲覧も可能である。

 「AppLab」はグラミーン財団が2006年に創設し、ウガンダでは2007年からGoogle、MTNらと準備が進められてきた。「AppLab Uganda」はウガンダの首都カンパラにある。またコンテンツの提供もウガンダの様々なところと提携している。天気予報については、ウガンダの気象局から、農業情報はカンパラにあるICTを活用してウガンダの農村部における生産性向上と知識・情報共有を目的としている財団「Busoga Rural Open Source Development Initiative」(BROSDI)が提供している。インターネットに接続できない環境でも情報の受信と検索が可能であることが特徴である。
ウガンダをはじめアフリカ諸国の農村地域では情報は近所の商店や知人・親戚などからしか得られない人が多く情報不足により適正価格で取引ができないことも多い。「Google Trader」によって、人々はより多くの商品にアクセスできるようになり適正価格で売買できるようになる。

 どのような携帯電話であれ、ほとんどがSMSは利用できる。そのSMSを活用して今までアクセスできなかった情報や知識を得ることによって、農民たちの生活とリテラシーが向上することが期待される。BROSDIが提供する農業情報は多岐に渡っており、情報が受信できる農民にとっては非常に有益である。

 一方で、上述のような「携帯電話を持てる人」と「持てない人」の情報格差(デジタル・デバイド)が生じてくる。さらには、識字率の向上も必要である。それらの解消に向けた対策が今後はますます重要になってくるだろう。(ウガンダの識字率はUNESCOの2008年の情報によると、成人67%)また携帯電話を持っていても、本サービスを利用しない人々への啓蒙活動も必要になるだろう。今後、NPOや民間企業、通信事業者、政府らの積極的な取組みに期待したい。

ウガンダ携帯電話事情

 最後にウガンダの携帯電話事情を見てみよう。
携帯電話加入者:約1,611万加入。人口普及率約47%。成長率約4%(2011年9月現在)

 2011年3月にGoogleはウガンダでのGmailを通じたSMSサービス「Gmail SMS」を発表した。MTN、Orange、UTLで提供されており、Gmailアカウントを持つ人は、50通までの無料でSMSを送信することができる。

主要通信事業者としては下記5社。

 

通信事業者

市場シェア

備考

MTN Uganda

約46.6%

南アフリカMTNグループ

Airtel Uganda

約20.8%

インドAirtelグループ

Warid Telecom Uganda

約13.8%

UAE Waridグループ

UTL

約12.4%

ウガンダテレコムグループ

Orange Uganda

約5.8%

フランスOrangeグループ

【参考動画】
ウガンダの農村における携帯電話を活用した情報提供サービスの紹介(2009年)

*本情報は2012年1月12日時点のものである。

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