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Global Perspective 2012
2012年4月6日掲載

新たな国際関係の問題としてのサイバーセキュリティ

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2012年3月、オーストラリア政府は、オーストラリア国家ブロードバンド網(National Broadband Network:NBN) への設備導入プロジェクトに対する380億オーストラリアドル(約3兆3,000億円)への入札に中国の華為技術有限公司(ファーウェイ)の参加を禁止すると報じられた。多くのメディアで取り上げられているので日本でも御存知の方も多いだろう。サイバーセキュリティをめぐって、国際関係は新たなフェーズを迎えている。

オーストラリアNBNへのファーウェイの入札禁止の理由としてのサイバーセキュリティ

 オーストラリア政府がファーウェイの入札参加を禁止した理由として、以下が主な理由であると報じている。

  1. ファーウェイのCEO、任正非氏が人民解放軍出身であること
  2. 中国からのサイバーセキュリティの脅威があること(ファーウェイが中国軍との深い関係があるのではないか、とオーストラリア政府は懸念している)

 オーストラリア保安情報機構(Australian Security Intelligence Organisation:ASIOが政府に対して提言したと伝えられている。

 今回、オーストラリア政府が世界的な通信設備企業であるファーウェイへの応札禁止の対応については、オーストラリアだけでなくアメリカや欧州のメディアでも様々な議論を呼んでいる。

 ファーウェイ側も今回のオーストラリア政府の対応に対してメディア等を通して反論をしている。
一方で、オーストラリアのギラード首相もファーウェイはNBNの入札参加には禁止されたが、中国との経済的、外交的関係はこれからも強化されていく、と以下のように述べている。

"We have a strong, robust relationship with China - we are deeply engaged at every level, we have a strong economic relationship with China, we have increased ties at every level -- diplomatic ties, multilateral ties, people-to-people links and you will continue to see our relationship with China strengthen and grow."

 中国の代表的企業がオーストラリアの国家事業への入札参加を禁止されたにもかかわらず、今後も経済的、外交的協力関係は継続していくというギラード首相のコメントを中国政府、ファーウェイをはじめとする中国企業(中国には人民解放軍出身者が設立した企業は多い)、中国人およびオーストラリア人はどのような思いで聞いているだろうか。

新たな国際関係のファクター: サイバーセキュリティ

 国際関係におけるサイバーセキュリティをめぐる問題はここ数年大きくクローズアップされてきている。あまりにも多いが最近の2つの事例をあげておく。

 2011年11月には、アメリカで事業展開している中国通信インフラ企業によるサイバーセキュリティの調査を開始し、ファーウェイとZTEの名前が挙がったことは記憶に新しい。米国下院諜報問題委員会は、アメリカの安全保障および重要インフラに対する脅威に焦点をあてて調査を行うと語っていた。

 2012年3月29日には、中国の男性が日本やインドの企業、チベットの人権団体にサイバー攻撃を仕掛けていたとトレンドマイクロの報告書を元に判明したことをNew York Timesが報じている。本人は関与を否定しているが、ここまで個人を特定しているのは珍しいケースだ。

 サイバーセキュリティの問題は、確実に国際社会における新たな政治経済問題の重要なファクターの1つになってきている。

 サイバーセキュリティの懸念があるから、国家プロジェクトから中国企業の入札禁止を行ったオーストラリア政府の対応は、今後の国際社会にどのような影響を与えるか注目に値する。今回のオーストラリア政府の対応は、昨今の止まらないサイバー攻撃に対する抑止力の1つとなるのではないだろうか。冷戦が終結し約20年が経過し中国は経済力をつけ多くの中国企業が世界各地で事業展開を行っている。サイバーセキュリティに対する中国政府の今後の動向にも注目が集まっている。さらに、国際関係フレームワークにおけるサイバーセキュリティの位置付けがどのようになっていくか各国が注視している。

 インターネット登場後、サイバー攻撃が国際問題になってきている。サイバー攻撃は攻撃元を特定することが難しい。また攻撃できたとしてもその国家が本当に関与しているのか判断することは更に難しい。

 サイバー空間の安全確保は国家のインフラ整備においても重要な課題であり、国家にとっても命題となってきており、サイバーセキュリティは無視できない存在になってきている。単なる技術的な問題だけでなく、国際関係における政治、外交、経済、社会問題とも密接にかかわってきている。

 今後の国際社会でのサイバーセキュリティへの対応をどのように行っていくのか、国際政治と経済の両方の観点から解明していく必要がある。国際関係は新たなフェーズに突入している。

【参考動画】
ファーウェイの入札参加禁止を報じるオーストラリアのニュース(2012年)

アメリカで中国通信インフラ企業のサイバーセキュリティ調査開始を伝えるニュース(2011年)

*本情報は2012年4月2日時点のものである。

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