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Global Perspective 2012
2012年4月23日掲載

オーストリアA1:「paybox NFC」の取組み

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2012年4月17日、オーストリアの通信事業者A1がNFCを活用したモバイルペイメントのトライアルを開始することを発表した。

 A1は子会社のPaybox銀行と提携しNFCを活用したモバイルペイメント「paybox NFC」のトライアルを実施する。Paybox銀行は100万人の顧客を抱えている。通信事業者が子会社に銀行を保有しているのは非常に珍しい。A1グループ一体としての提供を予定している。

 トライアルは2012年5月から500人の利用者をターゲットにして、オーストリアのマクドナルド19店舗とスーパーマーケット「Merkur」38店舗で2012年夏まで実施する予定。1回の決済で25ユーロまで支払いが可能で、1日の利用は50ユーロまで。トライアル時はPaybox銀行だけでなく、オーストリアの銀行口座を持っていれば利用できる。6月からはトライアルを5,000人まで拡大する予定。具体的な商用開始時期については述べていない。

 モバイルペイメントによる迅速な支払いはマクドナルド(オーストリア)のモットーである「good food fast」のコンセプトに合致していると同社は今回の取組みを歓迎している。なお日本のマクドナルドでは、ほぼ全国の店舗で「おサイフケータイ」を利用してiD、Edy、WAONなどでの支払いが可能である。また「おサイフケータイ」を活用したマクドナルド(日本)が提供する「かざすクーポン」も人気がある。

 A1とPaybox銀行はNFC対応の携帯電話またはNFCスティッカーを装着することによってペイメントを実現する。2012年4月現在、A1ではNFC対応のスマートフォンとしてHTC One X、Sony Xperia S、BlackBerry Curve 9360、9380、BlackBerry Bold 9900の5機種を販売している。CCO(A1)のAlexander Sperl氏は2012年末までにオーストリアでのNFC対応携帯電話は20万台になる予定だとコメントしている。

グループ一体でのモバイルペイメントの提供

 A1(テレコムオーストリア)の2011年通期の決算は接続料やローミング料金の値下げが影響して減収減益であった。
オーストリアは携帯電話普及率も150%を超える飽和市場だが、昨年も年間約6%成長している。そのため各社の競争も非常に激しい。今後の各社において新たな収入源として新サービス創出は必須である。オーストリアの人口は約840万人(大阪府より若干少ない規模)。またA1の加入者は約530万(プリペイド含)である。モバイルペイメントの市場規模としては決して大きいとは言えない。

 通信事業者が傘下に銀行を保有していることは珍しい。A1の子会社Paybox銀行が抱える100万人の顧客に対するリーチがある。他国ではモバイルペイメントを実施する時には利害関係の少ない銀行やカード会社と連携して提供することが多い。そのためオーストリアでは他国よりも商用化導入は早いことを期待している。両社の目標が合致している「グループ一体でのモバイルペイメントの提供」は通信事業者が提供するモバイルペイメントの事例として、日本においてNTTドコモが三井住友フィナンシャルグループと業務・資本提携を行い事業展開したケースと比して考察していくと興味深い。
また、次のステップとして、オーストリアにおいてA1が他事業者ユーザへの展開を視野に入れたビジネスモデルを構築していくのか注視していく必要がある。

オーストリア携帯電話事情

 オーストリアの携帯電話事情を簡単に見ていきたい。

 携帯電話加入者は約1,300万人。携帯電話加入率は、約154%(2011年12月)
3Gの普及率は38%。
2012年2月には、フランステレコム・OrangeとMid Europa Partners が、Orange Austriaの株式をFTオレンジが35%、MEPが65%をハチソン・ワンポア傘下Hutchison 3G Austriaに2012年半ばまでに売却すること発表している。

  企業 シェア
1 A1 約41%
2 T-Mobile Austria 約32%
3 Orange Austria 約17%
4 Hutchison 3G Austria 約10%

(参考) 佐藤 仁 「通信事業者が取組むNFCを活用したモバイルペイメント:動向と課題」, InfoCom REVIEW 56号(2012年3月)pp13-pp26

【参考動画】
A1のトライアルを実施する「paybox NFC」

*本情報は2012年4月19日時点のものである。

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