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Global Perspective 2012
2012年5月21日掲載

百花繚乱の中国スマートフォンOS

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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2012年5月15日、中国検索大手のBaidu(百度)はクラウドベースのモバイルプラットフォーム「Baidu Cloud Smart Terminal」を搭載した低価格スマートフォン「Changhong H5018」を発表した。発売時期はまだ公表していないが、近日中に販売する予定である。販売価格は1,000元(約1万2000円)以下の予定である。Baiduは2011年12月にAndroid OSをベースに開発した独自OS「易(Yi)」を搭載したスマートフォン「Streak Pro D43」をDellから販売開始したばかりである。

世界のスマートフォン市場ではiPhoneやAndroid OS、Windows Phoneが隆盛を極めている。もちろん中国でもiPhoneは大人気で販売時には大行列ができる。世界的に人気あるスマートフォンは中国でも人気がある。さらに、中国では通信事業者やインターネット企業がスマートフォンOSを開発し市場に参入している。
本稿では中国独自OSのスマートフォンを俯瞰的に考察していきたい。報道や記事によっては、OSまたは「モバイルプラットフォーム」と称しているところがあり全体としての統一感はない。本稿では「OS」と定義する。

中国携帯電話市場概略

まずは世界一のユーザ数を抱える中国の携帯電話市場を見てみよう。中国MIIT(中国工信部)の統計によると、2012年2月末で中国の携帯電話ユーザ数は前月比991万増の10億70万、と10億を突破した。

以下の3社が主要通信事業者である。

(表1)中国通信事業者のシェアと3G加入者の比率および同方式

会社 市場シェア 3G 比率 方式
1 China Mobile 約67% 約8% TD-SCDMA
2 China Unicom 約20% 約21% WCDMA
3 China Telecom 約13% 約31% CDMA
(公表資料より筆者作成 2012年2月現在)

中国でもスマートフォンは大人気である。 Android OSの端末は世界の潮流と並行して2008年後半から中国市場に流通していた。iPhoneがChina Unicomから販売されたのが2009年10月からだ。2011年第3四半期には中国のスマートフォン出荷台数は2,390万台でアメリカ(2,330万台)を抜いて世界1位になった(Strategy Analytics 2011)。なお中国では依然として端末メーカ「Nokia」のブランド力があり人気は根強い。China Mobileの提供するTD-SCDMA方式に対応した端末を提供していることも起因していると考えられる。

中国独自OSのあゆみ

簡略な中国におけるスマートフォン独自OSのあゆみを見ていきたい。冒頭でも述べたが、報道や記事によって、「OS」と定義したり「モバイルプラットフォーム」と定義したり統一はない(Android OSをベースにしているものが多いからだろう)。また各OSのユーザ数については公表していない。以下、リリース順に時系列で紹介していく。

【Ophon(China Mobile)】
中国でのiPhone販売の1か月前、2009年9月に中国の通信事業者China MobileがAndroidOSをベースに開発した「OPhone」をリリースした。iPhoneは想定通り、中国で大人気だった(今でも人気はある)。China MobileとしてはiPhoneへユーザ流出を回避するために独自OS「OPhone」をリリースしたのだろうが、決してiPhoneへの強力な対抗馬にはならなかったが、2011年7月までにOphone対応端末は40機種リリースされている。

(図1)OPhoneOS搭載の Motorola「MT810」(左)と
Ophoneを発表するChina Mobile

(図1)OPhoneOS搭載の Motorola「MT810」(左)とOphoneを発表するChina Mobile
【LePhone(Lenovo)】
2010年4月にはラップトップで日本でも御馴染のLenovoからAndroid OSをベースに開発した「LePhone」が登場する。最近では同名のブランドだけ継承しているAndroid OS端末がLenovoからは多く出荷されている。端末ベンダーのOSであるために同OSを搭載した端末はLenovoからのみの出荷であった。

(参考動画)LePhone紹介動画(2010年)

【WoPhone(China Unicom)】
2011年7月には、中国の通信事業者China Unicomが「WoPhone」をリリースした。同社はiPhoneを扱っていた為、自社独自のスマートフォンOSには少々出遅れた。

(図2)WoPhone OS端末Motorola 「EX303 」(左)と、
ZTE「V887」(右) 筺体に「Wo」のロゴ記載されている。

(図2)WoPhone OS端末Motorola 「EX303 」(左)と、ZTE「V887」(右) <br>筺体に「Wo」のロゴ記載されている。
【Yi (百度)】
2011年12月、中国インターネット検索大手の「百度(Baidu)」がAndroid OSをベースに開発した独自OS「易(Yi)」を搭載したスマートフォン「Streak Pro D43」がDellから中国市場でリリースされた。

(参考動画)Baidu Yi紹介動画(2011年)

【Baidu Cloud Smart Terminal(百度)】
2012年5月、百度はクラウドベースのモバイルプラットフォーム「Baidu Cloud Smart Terminal」を搭載したスマートフォン「Changhong H5018」を台湾Hon Hai Precision Industry(鴻海精密工業)よりリリースすることを発表。
【Aliyun(アリババ)】
2012年に中国eコマース大手アリババの子会社「Alibaba Cloud Computing(AliCloud)」がAndroid OSをベースに開発した独自OS「阿里雲(Aliyun)OS」を搭載したスマートフォン「K-touch W800」を中国ベンダー天語からリリースする予定になっている。なお2011年12月には、日本のDeNAが中国eコマース大手アリババと提携を発表している。

(参考動画)Alibaba Phoneを伝えるニュース(2011年)

(図3)中国のおけるスマートフォンOSのあゆみ
(図3)中国のおけるスマートフォンOSのあゆみS (各種公開情報より筆者作成)

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(図4)中国における各企業の提供するOS
(図4)中国における各企業の提供するOS (筆者作成)

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モバイルへ進出し、ユーザを囲い込みたい各業界の思惑

中国において携帯電話ユーザが10億人を突破したが、まだ成長の余地がある市場である。中国では大都市の若者を中心にスマートフォンは大人気である。そのような「ベースとしての中国市場」があり、そこは市場規模からすると非常に魅力的である。各業界はスマートフォン(モバイル)市場に進出するそれぞれに思惑を持っている。

(図5)各業界の思惑
インターネット業界 通信業界 端末メーカー
PCで提供している自社サービスの展開をモバイルでも行う際に、自社主導でサービス開発、端末の作り込みを推進したい。 自社でOSの主導権を握り、アプリケーション開発を推進したい。アプリストアを経由した課金が容易になるため、アプリおよびユーザの囲い込みにつなげたい。 オープンOSとはいえ、他社のOSよりも自社のOSの方が開発・試験が容易である。将来的には自社OSを他社に展開することによる標準化を狙いたい。

「ベースとしての中国市場」

中国の13億人市場→新興ベンダーやコンテンツプロバイダーには魅力的
通信方式への対応など課題もある。
(筆者作成)

他にも中国版Twitterと呼ばれている「新浪微博(Weibo)」の利用に特化したAndroidスマートフォン「HTC微客C510e」、「HTC One S」(HTC製)などもある。これはユーザがボタンを押すと「新浪微博(Weibo)」にアクセスできるだけだが、今後はインターネット企業向けに、このようなシンプルなカスタマイズをした端末も登場してくる可能性は高い。
「新浪微博(Weibo)」の利用者は2011年末で2億5,000万人いる。

スマートフォンをOSの観点から考察する際は、アメリカばかり見てしまいがちだ。確かに中国でもスマートフォンではiPhoneなど世界的な潮流を追随し人気を博している。しかし、
中国のスマートフォン市場における各業界のOS(モバイルプラットフォーム)への取組みは今後も決して無視できないであろう。

*本情報は2012年5月18日のものである。

(参考)

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