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Global Perspective 2012
2012年8月30日掲載

A2M(Animal to Man):ICTは絶滅危機の動物を救えるか

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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2012年6月、世界自然保護基金(WWF)はインドネシア東部パプア州で、餌を食べるために漁網に群がるジンベイザメに保護調査目的とした小型無線機を取り付けたことを発表した。

ジンベイザメにRFIDタグ取付け

ジンベイザメは国際自然保護連合(International Union for the Conservation of Nature、IUCN)によって、絶滅の危険が増大している「絶滅危惧U類」に分類されている。ジンベイザメは、体の模様が「着物の甚兵衛」に似ているためジンベイザメと呼ばれているようだが、 英語では「Whale Shark(鯨鮫)」と言われる程の巨大なサメだが、人間を襲うことはないらしい。
インドネシアのパプア州チェンデラワシ湾近辺に生息するジンベンザメには、漁網の魚を食べようと漁師の網に集まってくるユニークな習性がある。その習性を利用して水面近くにジンベイザメが集まってくるのでRFIDタグ(Radio Frequency IDentification:電波による個体識別タグ)を取り付けることができた。
WWFのプロジェクトチームは漁網に集ったジンベイザメ30匹の皮下に、錠剤程度の小さなRFIDタグを埋め込むことに成功した。今後、ジンベイザメごとの生態をモニターしていく予定である。

動物の保護や追跡に活用されるIT技術

WWFではネパールで、密漁と人間による生息域への進出が原因で絶滅危機に瀕しているトラ、サイなどを密猟者から守るため、動物や密猟者を監視する無人機を導入している。最高高度200メートルで45分間の飛行が可能である。2012年6月、ネパール南部チトワン国立公園で2機の飛行試験に成功した。無人機はカメラとGPSを使って監視活動を行っている。

日本でも、WWFジャパンとNPO法人四国自然史科学研究センターは、共同で実施する「四国地方ツキノワグマ地域個体群絶滅回避のための総合調査」において、GPSを用いたツキノワグマの追跡調査を開始したことを2012年8月に発表した。このように情報通信技術は動物の監視分野では使われている。GPSでは高価だが、今回のようなRFIDタグであれば1枚、数ドル程度で入手できる。様々なセンサー技術の発展も著しい。

動植物とのコミュニケーション:A2M

当然ながら動物にとって国境はない。国境は人間が策定したものであり動物には関係ない。今回のジンベイザメもたまたまインドネシア近辺の海域にいただけである。情報通信技術を用いて動物の保護や監視というのは今後も大きく成長していくだろう。地球上には、870万種(陸上に約650万種、海中に約220万種)の生物がいるとのことだ。さらに陸上の86%、海中の91%の生物種が未発見とのこと(Science Daily 2011.8.24)。

2012年8月28日、日本でも特別天然記念物で「絶滅危惧種」に指定されていたニホンカワウソがついに「絶滅種」に指定された。絶滅の危機に瀕している生物・動植物は全世界でも非常に多い。絶滅してしまった種を再生するのは不可能に近い。情報通信技術が絶滅に瀕する動植物を危機から救うことに貢献できることを期待している。

機械間の通信をM2M(Machine to Machine)と称することがあるが、今後は動物と人間の通信でA2M(Animal to Man)の市場には注目である。但し、動植物には最大の配慮が必要であることも忘れてはならない。

【参考動画】漁網に来るジンベイザメ

【参考動画】WWFネパールの動物保護の活動

*本情報は2012年8月29日時点のものである。

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