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Global Perspective 2012
2012年9月18日掲載

フィリピンでBPO産業が発展していくと、フィリピン人の海外出稼ぎ労働者はどうなるか

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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フィリピンが世界中からBPO(Business Process Outsourcing:ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のセンターとして地位を確立したのは2000年代後半からである。アメリカやアジアを中心とした様々な業種の企業がフィリピンをBPO先として各種のアウトソーシングを行っている。コールセンター、トランスクリプション、ソフトウェアやコンテンツの開発など多種多様である。
 2012年5月にはNTTコミュニケーションズがBPO事業者向けのシステム構築を提供しているDTSI(Diversified Technology Solutions International, Inc)グループと資本提携を行った。また同月、丸紅グループのテレマーケティング ジャパンはフィリピンのBPOのソリューションプロバイダーPacificHu社とサービス提携を行ったりと、最近は日本企業からもフィリピンのBPO産業は注目されている。

フィリピンでのBPO産業

フィリピンでのBPO産業は順調に伸びており、2009年のBPO産業の売上高が72億ドル、2010年が90億ドル、2011年は110億ドルと右肩上がりである。それでも全GDPの約5%程度(2011年)なので、これからさらに成長していくことが期待されている分野である。
フィリピンでは人々が英語を話し、識字率も高く毎年大学卒業者が毎年約40万人いる。そしてフィリピン人はホスピタリティがありコールセンター業務などに向いており、さらに安価で豊富な労働力があることから、アウトソーシング先として適しているということでフィリピンが注目されてきた2000年代後半から言われ続けてきたことである。
よくインドとフィリピンがBPO先で比較されることがあるが、それぞれ国や企業によって対応業務に得意分野があるから、単純にインドとフィリピンのBPO産業を横並びに比較することはできない。インドのBPO企業にしかできないことはインド企業に依頼すればよいだけのことである。

フィリピンでの主要BPO業種と概要
フィリピンでの主要BPO業種と概要
(筆者作成)

フィリピンの海外出稼ぎ労働者

フィリピン経済は昔から海外に出稼ぎに出ている移民労働者によって成立している。アメリカ、中東(サウジアラビア、UAE、カタール)やアジア(香港、シンガポール)への出稼ぎ労働者と彼らからの送金は重要な国家の収入源である。いわゆるOFW(Overseas Filipino Worker)やGlobal Filipinoと呼ばれる人々である。フィリピン経済にも大きく貢献しており、OFWからの送金は、2010 年は前年から8.2%増の過去最高となる187億6,300 万ドルを記録した。フィリピン国内のBPO産業よりもはるかに大きな規模である。送金元は全体の41.9%を占めたアメリカ、カナダ(10.8%)、サウジアラビア(8.2%)、イギリス(4.7%)、日本(4.7%)などである。現在、全世界に約1,250万人のOFWがいる。日本には約21万人のフィリピン人が生活している(外務省)。

彼らは出稼ぎに出て行った現地に住み着いて生活している人もいるが、出稼ぎに行ってクリスマスなどのホリデーシーズンにはフィリピンに帰郷することが多い。フィリピン人は家族を大切にするから出稼ぎに行っても母国フィリピンとのコミュニケーションは活発に行われている。そのためFacebookやLINE、Skypeも新たなコミュニケーションツールとして注目されている。フィリピン人のFacebook利用者は約2,860万人(人口普及率約30%)と世界で8番目に多い。

フィリピンでBPO産業が発展し海外に出稼ぎ労働に行かなくなったら

海外に出稼ぎ労働に行った方が給料はよいかもしれないが、その国に永住しないのであれば、いずれは母国フィリピンに帰ることになる。フィリピンで生活していくためにはフィリピンで仕事を見つける必要がある。海外での労働は給料が良いとはいえ、見知らぬ国で働くことは精神的にも肉体的にも容易なことではない。フィリピンに残る両親にしても子供が海外に出稼ぎに行くことでお金は送金されてくるかもしれないが、いろいろと不安である。
BPOを行う企業は特に女性から人気がある。フィリピンでは就職が厳しく大学を卒業しても海外に出稼ぎをしてメイドをしていることがある。大学進学率が約30%のフィリピンではこれからも大学へ進学する若者が増えるだろう。フィリピンのBPO産業が発展し、現在の出稼ぎ労働者が送金してくる費用に匹敵する程度の規模になれば、海外へ出稼ぎに出ていくフィリピン人労働者も減少しフィリピンで就業することが可能になることも想定される。フィリピン国内で海外出稼ぎに行った場合と同じだけの給料を稼げるようになったとき、それでも海外に出稼ぎに行くのであろうか。

人とお金の流れはグローバリゼーションの特徴であり、フィリピン人の出稼ぎ労働者と彼らの送金はグローバリゼーションの象徴として取り上げられることがあった。

今後、フィリピンでBPO産業が発展し、フィリピン人が海外に出稼ぎ労働に行かなくなったとき、今度はフィリピン人に代わって誰が今までフィリピン人が従事していた業務を実施していくのか、グローバル社会は考えていかなくてはならない。
そしてその時、フィリピンでのBPO産業が現在と同じクオリティとコストで提供されているだろうか。フィリピンのBPO産業もこれからは新興国に追われる立場になってくる。これはグローバル経済において簡単な問題ではない。

【参考動画】フィリピンのBPOについて紹介している動画

*本情報は2012年9月17日時点のものである。

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