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Global Perspective 2012
2012年11月6日掲載

長期的将来を見据えたシニア市場開拓に向けて

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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2012年10月、ソフトバンクがアメリカ通信事業者Sprintの買収を発表したことが話題になった。そのアメリカの通信事業者AT&T、Sprintがシニア向けのサービスを10月に立て続けに発表した。将来を見据えたシニア市場の形成を人口ピラミッドの観点を見ていきたい。

通信事業者のシニア市場への参入

2012年10月16日、アメリカ通信事業者Sprintはシニアを対象にしたAndroid向けアプリ「Active Senior ID pack」の提供を発表した。
 Sprintが推奨するシニア向けアプリとして以下のようなものが挙げられている。

  • Audible: Slacker Radioやオーディオブックで好きな曲が聴ける。
  • AARP、WebMD、USA Today、Yahoo Finance、Accuweather、Stock Quoteの最新情報が入手できる。
  • MedsTimer:大切な服薬時間を忘れないように知らせる。
  • Fall Detector、ICE (In Case of Emergency):転倒検出アプリ、緊急対応アプリ。
  • Wireless CapTel:電話にかかってきた相手の音声をテキストに変換する。
  • Crossword Light、Senior Match:シニア向けエンターテイメントアプリ。
  • Facebook、FlickrなどのSNSアプリ。

2012年10月17日には、アメリカ通信事業者AT&TはEmbedded Wireless社と提携して、Zilant Wellness Remote Monitoring Platform(福祉向け遠隔モニタリング・プラットフォーム)およびmPERS(mobile personal emergency response system)をシニア向けに提供することを発表した。
 Zilantは家庭に設置してある様々なモニタリング機器や環境センサーをZigBeeやBluetooth通信を活用し、高齢者や慢性疾患の管理を行う。mPERSはペンダント型デバイスを装着し、シニアの活動や位置情報をモニターする。転倒検出時には事前に登録してある家族や介護者へ連絡が送信される仕組みである。

このようにシニア向けのサービス提供に向けてアメリカの通信事業者が積極的に進出している。

2050年を見据えたシニア市場

AT&Tはリリースの中で、アメリカには65歳以上人口が3,500万人以上おり、20年後には2倍になると述べている。85歳以上人口は急増していくとのこと。
アメリカの平均寿命は平均79歳(男性76歳、女性81歳)である(WHO 2009)。平均年齢は37.1歳(男性35.8歳、女性38.5歳)である(CIA 2012)。

続いてアメリカの人口ピラミッドを見てみよう。2050年にアメリカの人口は4億を超えると予測されている。そして4人に1人が60歳以上となり、80歳以上の人口が女性で2,000万人を超え、男性も約1,500万人に達する見込みである。

(表1)アメリカの人口ピラミッド推移:2010年・2020年・2050年

(アメリカ:2010年)
(表1)アメリカの人口ピラミッド推移:2010年

(アメリカ:2020年)
(表1)アメリカの人口ピラミッド推移:2020年

(アメリカ:2050年)
(表1)アメリカの人口ピラミッド推移:2050年

(出所:アメリカ統計局 国際データベース)

人口ピラミッドで見る市場予測

将来を長期的に見渡した際に、どの年齢層にどのくらいの人数がいるかを把握しておくと、そこにどの程度の市場規模が形成されるか試算ができる。
 2050年に60歳に達する世代は1990年に生まれた世代である。冷戦が終結し幼少期からインターネットに親しんだ世代である。2050年に70代、80代となる世代は現在の30代、40代である。パソコンや情報通信デバイスの操作は難なく行える世代である。その世代が高齢化したときにどのような市場が形成されるのか予測することが必要になる。

技術やサービスは物凄いスピードで進化していき、次から次に新しいサービスが登場してくる。2050年には、現在の我々が想像できないようなサービスが登場してくることだろう。40年前の1970年初期にはインターネットやパソコンがここまで一般人にまで普及することは想定していなかっただろう。冷戦が終結することも予測できなかったのではないだろうか。

(日本の人口ピラミッド)
 日本の人口ピラミッドはどのように推移していくだろうか。日本の人口は減少傾向であり、高齢化がますます進んでいく。人口規模ではアメリカの4分の1なので、人数だけで単純比較はできないが、2020年、2050年と将来にわたっても80歳以上の人口が圧倒的多数を占めるようになることがわかる。

(表2)日本の人口ピラミッド推移:2010年・2020年・2050年

(日本:2010年)
(表2)日本の人口ピラミッド推移:2010年

(日本:2020年)
(表2)日本の人口ピラミッド推移:2020年

(日本:2050年)
(表2)日本の人口ピラミッド推移:2050年

(出所:アメリカ統計局 国際データベース)

長期的将来を見据えて

本稿ではアメリカの通信事業者が開始したシニア向けサービスを切り口としたが、将来の高齢化を見据えた市場進出は、全世界のあらゆる業界で対応が迫られてくる。
長期的将来を検討する際には年代と年齢の相関を見る。例えば上述のように2050年に60歳に達しているのは1990年生まれの世代だから、どのような年代を過ごしていたか把握しながら、彼らが60歳になってできること、できないことを考えながら、どのようなサービスや製品なら受け入れられるかを考えていく必要がある。
 現実を直視しながらも10年先の中期的将来、40年先の長期的将来を悲観することなく、大きなビジネスチャンスとして捉え、今から何ができるかを考えていく必要がある。

*本情報は2012年11月1日時点のものである。

(参考)日本の平均寿命は83歳(WHO 2009)、平均年齢は45.4歳(CIA 2012)。

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