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Global Perspective 2013
2013年9月12日掲載

インド市場で台頭している地場の携帯電話メーカー:iPhoneを迎え撃つ「100ドルスマホ」

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年9月10日、アメリカAppleはiPhoneの新機種を発表した。日本でもNTTドコモが取り扱うとのことからメディアでも取り上げられている。それらの詳細な報道は別のメディアで多数報じられているので、それらに譲る。今回注目の1つが「iPhone 5c」をアメリカでの2年契約時の価格は16GBが99ドル、32GBが199ドルとなる。現在(2013年9月11日)、他の国ではいくらで販売されるのか不明であるが、本稿ではiPhone(アップル)が今後狙っていく新興国市場の中からインドにおける地場メーカーの「100ドルスマホ」について見ていきたい。

各国の買いたい・利用したいブランドランキング:圧倒的なアップル人気

2013年9月6日の日本経済新聞(朝刊)でアジアブランド調査を報告していた。それによると、インド、中国、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムの6ヶ国において「スマホ・携帯電話」部門では中国を除いた5カ国でアップルが1位で、「タブレット・パソコン」部門では全6ヶ国でアップルが1位だった。「買いたい・利用したい」のランキングで1位になるということは、裏を返すと現在は所有していない、利用していないから「欲しい」ものなのだろう。スマートフォンやタブレット分野でのアジア諸国でのアップルの人気の高さ、憧れのブランドであることが伺える。

(表1)各国の買いたい・利用したいブランド首位(ICT関連のみを抽出)

(表1)各国の買いたい・利用したいブランド首位(ICT関連のみを抽出)

(出典:日本経済新聞(2013年9月6日朝刊)を元に筆者作成)

インドで台頭する地場メーカーの「100ドルスマホ」

携帯電話の加入者数が8億7,000万を突破したインド市場ではスマートフォンの人気も高いが、今でもフィーチャーフォンも根強い人気がある。携帯電話販売台数が2013年第1位四半期(3カ月)で約6,073万台、そのうちスマートフォンは約611万台と10%程度である。携帯電話はまだNokiaのようなレガシーなメーカーが強いが、スマートフォンでは地場メーカーのMicromaxとKarbonnがランクインしている(この2社は携帯電話の販売でもランクインしている)。

インドのような新興国ではこのように地場メーカーが安価だがスペック、デザインともにグローバルメーカーの端末と見劣りしない端末を市場に投入してくる。いわゆる「100ドルスマホ」と言われる約1万円程度の端末である。日本では全く馴染みのない会社や端末だが、インドでは広告やポスターなどをあちこちで見かけ、人気の高さを伺える。これらの端末は地場で開発、製造、販売しているので輸出入コストがかからない。インドではさらに中国のメーカーのスマートフォンも人気がある。それらはHuaweiやZTEのようなグローバルメーカーではない。そして新興国の地場メーカーは研究開発費用もほとんどかけていないので、人件費も浮くので安価なコストで端末を提供することができる。

「100ドルスマホ」のライバルは「中古端末」である。新興国では「中古端末」の人気が非常に高い。2007年〜08年頃に販売されたiPhoneやAndroidの初期のスマートフォン端末の多くは現在、「中古端末」として多くの市場で流通している。

(表2)2013年Q1にインドで販売された携帯電話 メーカー別台数とシェア

(表2)2013年Q1にインドで販売された携帯電話 メーカー別台数とシェア

(出典:IDC情報を元に筆者作成)

(表3)2013年Q1にインドで販売されたスマートフォンメーカー別台数とシェア

(表3)2013年Q1にインドで販売されたスマートフォンメーカー別台数とシェア

(出典:IDC情報を元に筆者作成)

「100ドルスマホ」に対抗するグローバルメーカー

Mobile Indiaの調査によると2013年9月の「10,000ルピー以下(約15,000円)」のスマートフォンでは、サムスンやソニーといったグローバルメーカーも「100ドルスマホ」に相当する端末を投入し、地場メーカーに対抗している。

(表4)インドでの10,000ルピー以下のAndroid スマートフォントップ5

(表4)インドでの10,000ルピー以下のAndroid スマートフォントップ5

(出典:Mobile Indiaを元に筆者作成)

(表5)インドでの20,000ルピー以下のAndroid スマートフォントップ5

(表5)インドでの20,000ルピー以下のAndroid スマートフォントップ5

(出典:Mobile Indiaを元に筆者作成)

(図1)インドで販売されている10,000ルピー以下のスマートフォン
左から、Xolo Q600、Xperia E、Galaxy S Duos、Canvas Doodle、Titanium S5
見た目のデザインではどの端末であっても遜色はない。

(図1)インドで販売されている10,000ルピー以下のスマートフォン<br>左から、Xolo Q600、Xperia E、Galaxy S Duos、Canvas Doodle、Titanium S5<br>見た目のデザインではどの端末であっても遜色はない。

(出典:Mobile India)

パナソニックもインドでスマートフォン販売

2013年5月16日、同社はインドでスマートフォン「P51」を2013年5月23日から販売すると発表した。 「P51」はインド市場向けに開発された機種で、販売価格は26,990ルピー(約5万円)といったハイエンド端末であり都市部の若年層を中心に売り込む方針だそうだ。「P51」の廉価版のような製品で、「P11」が2013年7月末より16,90ルピー(約28,000円)で発売、「T11」は10,000ルピー(約16,800円)で発売された。これらの端末は現地のメディア、新聞でも多く報じられていた。実質価格では「P51」は20,000ルピー程度で販売されていた。

【参考動画】
インドでのパナソニック「P51」について語るインドの俳優Varun Dhawan氏

「P51」について語るインドの俳優Varun Dhawan氏

「100ドルスマホ」は決して高い端末ではない

Mobile Indiaの調査によると2013年9月の「10,000ルピー以下(約15,000円)」のスマートフォンでは、サムスンやソニーといったグローバルメーカーも「100ドルスマホ」に相以下に参考としてインドの労働者の平均賃金(月収)を記載する。都市部でのマネージャークラスの職種であれば「100ドルスマホ」は決して高い端末ではない。また、エンジニアやスタッフでも買えない価格ではない。地場メーカーはどこよりも自国のローカルマーケットを熟知しているから、決してインド人が購入できないような高い値段の端末を投入することはない。利益が出るような値段設定で出荷している。「憧れのiPhone」には手が届かないけど、同程度の機能とデザインを提供してくれる地場の「100ドルスマホ」を持つのである。そしてクールな宣伝を繰り返すことによって、それら地場メーカーの「100ドルスマホ」はローカルマーケットでブランドを構築し、市場で受け入れられていく。

(表6)インドの平均賃金(月給)

(表6)インドの平均賃金(月給)

(出典:JETROなどの公開情報を元に筆者作成)

スマートフォンはコモディティ化しており、メーカーにとってローエンド端末の利幅は小さい。アップルがインドのような新興国でどのように販売してくるのか、そしてアップルを迎え撃つ地場メーカーの「100ドルスマホ」はどのように対抗するのか。まだまだ注目である。

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