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Global Perspective 2013
2013年2月13日掲載

マイクロソフトが狙うアフリカ市場

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁
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マイクロソフトは2013年2月4日、アフリカにおいて2016年までにスマートデバイスの普及、ICTのインフラ整備、利用促進を図るとした経済開発イニシアティブ「4Afrika Initiative」を発表した(※1)。マイクロソフトのアフリカでの活動を見ていきたい。

マイクロソフト「4Afrika Initiative」

マイクロソフトは「4Afrika Initiative」のプロジェクトを通じて、2016年までに数千万人の若者がスマートデバイスを利用できる環境を作ること、100万社以上の中小企業がオンラインに接続できるようにすること、10万人の従業員のITスキル向上、新卒者10万人のITスキル向上と就職斡旋を目指している。
「4Afrika Initiative」のプログラムは以下の通りである。

(1) HuaweiのWindows Phone 8スマートフォン「Huawei 4Afrika」
中国メーカHuaweiと提携し、Windows Phone 8を搭載したスマートフォン「Huawei 4Afrika」を開発する。2013年2月後半よりアンゴラ、エジプト、コートジボワール、モロッコ、ケニア、南アフリカ、ナイジェリアの7カ国で提供を開始、その後、他アフリカ諸国に拡大していく。 価格は150ドル以下と推測されている。Huaweiは1999年からアフリカ市場に進出しており、アフリカの多くの国で通信設備や端末を納入しており、アフリカにおいて一定のブランド力を築いている。
(2) ケニアでの高速インターネット提供パイロットプロジェクト「Mawingu」
ケニアICT省、ケニアのインターネットプロバイダーIndigo Telecomと提携し、ケニアで無線基地局展開に向けたパイロットプロジェクトを行う。スワヒリ語で雲(cloud)を意味する「Mawingu」がプロジェクト名である。無線基地局のパイロットプロジェクトで、Microsoft Researchで一部開発した技術を活用する。テレビのホワイトスペース(空き周波数帯)を使った高速インターネット回線のための基地局で、電力の行き届かない地域では太陽光発電で稼働する。高速なインターネットを提供することによってビジネス、教育、ヘルスケア、政府の活動やサービスをネット上で提供していくことを目指している。マイクロソフトは同様のプロジェクトをアフリカ東部、南部の国々で行う予定。
(3) 中小企業向けサービス「SME Online Hub」
アフリカの中小企業が現地でビジネスを提供するにあたって必要なネットでのサービスを無料で提供する「SME Online Hub」を2013年4月に南アフリカ、モロッコで提供する。中小企業がホームページを開設する際のツールを無料で提供したり、ドメイン登録が1年間無料でできる。
(4) 教育機関「Afrika Academy」
ビジネスに必要なITスキルを向上させることによって就職や起業支援を目的とした教育機関「Afrika Academy」を開設する。数カ月以内にコートジボワールで立ち上げる。大学生、ビジネスリーダー、マイクロソフトのパートナー企業が対象。オンラインでの学習ツールも提供する予定。
(5) 学生によるアプリ開発「AppFactory」
南アフリカとエジプトで、WindowsおよびWindows Phone向けアプリケーションを開発するプロジェクト「AppFactory」を開設。30人の学生アルバイトが働いて、1カ月に約90の新しいアプリが開発されている。
(6) Nokiaと提携したWindows Phoneの販売促進
ケニアとナイジェリアではフィンランドのメーカNokia、現地の通信事業者(ケニアではSafaricom、ナイジェリアではBharti Airtel)と提携し、Nokiaの携帯電話販売店内でトレーニングプログラムを実施しWindows Phone「Lumia 510」「Lumia620」の販売促進を図っている。なおナイジェリアでは販売されている携帯電話のうち95%がフィーチャーフォンである。
(7) 女性のITスキル向上を目指したポータルサイト「MasrWorks」
北アフリカでは女性のITスキル向上による雇用、起業を促進するためのポータルサイト「MasrWorks」を現地NGO「Silatech」と提携して2013年3月から提供開始する予定。

マイクロソフトが狙うアフリカ市場

マイクロソフトは20年に渡ってアフリカでビジネスを行っており、10,000以上のパートナー企業がアフリカにある。

マイクロソフトが提供するモバイルOSのWindows PhoneはノキアからLumiaシリーズが出ているものの、世界的にはiPhoneやAndroidの端末と比較すると出荷台数もシェアは非常に小さい(※2)。さらにアフリカでは地場メーカや中国系のメーカがAndroid端末を現地で開発、販売を開始している。今回マイクロソフトと提携したHuaweiはAndroid端末「IDEOS」がケニアを中心に非常に人気がある(参考レポート)。
 マイクロソフトとしてもAndroidがアフリカ全土に行き渡る前に早急な対策が必要である。そのためにはアフリカでブランド力があるHuaweiとの提携はマイクロソフトにとって重要である。

毎日PCを利用している先進国の人にとって、多くのPCのOSはWindowsである。そのためマイクロソフトは毎日接する馴染みある会社である。一方でアフリカではPCに接続してインターネットを利用する人はまだ限られている。多くのアフリカ諸国でPCでのインターネット接続率は10%以下である。つまりマイクロソフトに対して親近感がない人や知らない人がアフリカには多い。

ところがアフリカでは携帯電話は至る所まで普及している。中古端末も大量に流通しており、プリペイドのSIMカードもあらゆる所で販売されていることから、多くの国で携帯電話普及率は100%を超えている。但し、アフリカでの携帯電話の使い勝手は圧倒的にSMS(ショートメッセージ)と電話である。インターネット接続をモバイルから利用する割合は非常に少ない。販売されている携帯電話の95%がフィーチャーフォンである。スマートフォン市場の開拓余地は大きい。世界を席捲しているAndroid(グーグル)にとってもアフリカは「これからの市場」だ。

アフリカで流通している中古端末の多くはNokiaのため、マイクロソフトは知らなくともNokiaは知っている。NokiaのWindows Phoneを促進していくことはアフリカのスマートフォン市場でのマイクロソフトの進出の足掛かりになる可能性が大きい。

今回の「4Afrika Initiative」では現地の政府やパートナー企業、NGOなどと提携して、インフラから端末、コンテンツまで幅広く様々なプロジェクトを提供する予定である。喫緊で儲けが出るプロジェクトは少ない。しかし将来大きく花開いた時にビジネスとして収益を上げ、マイクロソフトのアフリカでの事業展開に寄与する可能性が大きいものばかりである。

さらにアフリカの多くの人々がモバイルであれPCであれインターネットに接続し、国内外の様々な情報に接することによる「デジタル・デバイド」の解消やITスキルを身につけることはアフリカ諸国の発展に繋がる。そのような大きな投資を行える企業は世界でも限られていることからマイクロソフトが果たす役割は大きいだろう。

アフリカ市場で標準を取れるか

アフリカでのITの動きは世界の他の国々と同様に非常に速い。そしてアフリカのITではまだ標準(デファクト・スタンダード)を取っている企業が限られている。これからでも標準を取ることが可能な市場ではないだろうか。マイクロソフトがアフリカへ注力することはアフリカ市場での標準を目指した布石とも考えられる。

PCの分野ではWindowsが世界を席捲している。全世界で共通のOSを利用した方が相互接続が可能で利便性が高いことからアフリカにおいてもマイクロソフトが優位になりうる。しかし携帯電話、スマートフォンではAndroidやiPhoneが世界を席捲してしまっている。今から世界のスマートフォン市場においてWindows Phoneで逆転を図るのは容易ではない。しかし、アフリカではまだスマートフォンが普及していないことから、マイクロソフトが標準を取れる可能性は残っている。

かつてアフリカでは携帯電話ではノキアが標準だった。中古端末もほとんどがノキアだった。ノキアの端末はローエンドからミドルまでユーザ・インターフェースが統一されていたため買い替え時もノキアを選択する利用者が多かった。さらに充電器の形状が同じことから中古端末を購入する際に端末だけ購入して、充電器を購入する必要がなかったことから新興国で受け入れられていた。現在では地場メーカや中国系メーカが進出し市場も変わってきている。

マイクロソフトはアフリカ市場を制することができるのだろうか。 これからも注目である。

(表1)アフリカのIT事情とマイクロソフトの戦略

(表1)アフリカのIT事情とマイクロソフトの戦略

(筆者作成)

(図1)マイクロソフトのアフリカでの活動と貢献

(図1)マイクロソフトのアフリカでの活動と貢献

(出典:マイクロソフト)

(参考) 4Afrika Initiative

【参考動画】マイクロソフト 4Afrika Initiative

【参考動画】

*本情報は2013年2月8日時点のものである。

※1 Microsoft(2013), “Microsoft Introduces the 4Afrika Initiative to Help Improve the Continent’s Global Competitiveness,” Feb 4,2013 http://www.microsoft.com/en-us/news/Press/2013/Feb13/02-04AfrikaPR.aspx

※2 米国の調査会社IDCは2012年11月、2012年Q3の世界におけるスマートフォンの出荷台数に関する調査によると、2012年Q3でAndroid端末の出荷台数が1億3,600万(シェア75%)、iPhoneが2,690万台(同14.9%)に対して、Widows Phoneの出荷台数は360万台(シェア2%)である。

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