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Global Perspective 2013
2013年2月28日掲載

LINEとNokiaの提携:新興国市場におけるメッセンジャーアプリ

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁
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2013年2月26日、NHN Japanは、フィンランドの携帯端末メーカーNokiaと戦略的業務提携を結び、Nokiaの低価格機種「Asha」向けに「LINE」を提供することを発表した。「LINE」のグローバル展開拡大を目的としている。本稿では新興国市場におけるメッセンジャーアプリの可能性について論じていきたい。

LINEとNokiaの戦略的提携

フィンランドの携帯端末メーカーNokiaは、かつて世界一の出荷台数、シェアを誇っていたメーカーだった。しかし、スマートフォンで乗り遅れて、現在では韓国サムスンやAppleなどに後塵を拝している(※1)。携帯電話端末のコモディティ化が進み、新興国でも地場メーカーが多く登場し、低価格で高機能な端末も多く登場してきている。それでも新興国ではまだNokiaのブランド力はある。多くのNokiaの中古端末も流通している。「Asha」は全世界で年間2億台以上販売されているNokiaの低価格機種のブランドである。

今回、両社の提携により、LINEは「Asha」の注力市場であるAPAC13カ国(中国、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、ラオス、カンボジア、台湾、香港、シンガポール、ニュージランド、オーストラリア)、中南米、中東、アフリカ等の新規市場に本格的に参入する。また、各国のNokia Storeや店舗で様々なマーケティングを行うことにより、その国におけるLINEの認知度を高める予定。2013年3月中にNokia Storeで公開する予定の「Asha」版LINEでは、1:1トークはもちろん、グループトークやスタンプ(ムーン、コニー、ブラウン、ジェームズの基本4種)機能を利用することが可能となる。さらに継続的に機能を追加していく予定だ。

新興国のコミュニケーションの中心は「プリペイドの電話(音声)テキスト(SMS)」

スマートフォンや高機能な携帯電話が普及してない新興国では、まだ携帯電話のコミュニケーション手段として活躍しているのは音声通話とショートメッセージ(SMS)である。
SMSはどのような携帯電話でも搭載されている機能なので、貧富や老若男女問わずに誰もが頻繁にSMSを送信している。新興国では日本のようなポストペイド方式ではなく、プリペイド方式でSIMカードを購入するのが主流である。東南アジアや中南米では90%以上がプリペイド方式である国がほとんどである。使いたい時にSIMカードを購入し、残料金が無くなったら必要に応じてチャージをしていく。そのため、1人で複数枚のSIMカードを持っている人が多いので、携帯電話の人口普及率は100%を超えている国がほとんどである。1人で1つの会社のSIMカードを複数持っていることも珍しくない。人々は携帯電話会社に対して愛着や固執は全くない。長期利用者割引のようなものが少ないため、常に新しいキャンペーンを行っていると「キャンペーン対象のSIMカード」を購入して通信費用を少しでも安く済ませる。キャンペーン期間が終了してしまったら、そのSIMカードは使われなくなることも多い。携帯電話会社も年中あらゆるキャンペーンを行って顧客獲得に躍起になっている。町の至る場所でSIMカードを販売している。

(図1)新興国の町でのSIM販売

(図1)新興国の町でのSIM販売(図1)新興国の町でのSIM販売

(筆者撮影)

どうして新興国でメッセンジャーアプリなのか

若者を中心にメッセンジャーアプリの利用も人気が出てきた。新興国では「WhatsApp」というメッセンジャーアプリの人気が高い。その背景を見ていこう。

(1) 電話番号の氾濫による混乱の回避

上述のようなプリペイドSIMカードの乱売も要因の1つである。プリペイドのSIMカードを頻繁に買い替えている人が多いということは、その都度電話番号が変わっているのである。電話番号が変わると相手にSMSを送付しても、相手はその番号をもう利用していないということになる。1人で複数枚SIMを利用している場合、そのSIMの電話番号にメッセージを送付しても携帯電話に挿入してない、ということも多くある。  
 プリペイドSIMカードの料金プランは携帯電話会社によって異なるが30日単位が多いので、30日毎にSIMカードを買い替えることが多い(買い替え時にお得なキャンペーンをやっていないとチャージする)。
新しいSIMカードにした時に仲が良い友人にはすぐに通知するだろうが、頻繁にSIMカードを買い替えていくうちに、通知するのも面倒になってくることがある。もはや電話番号に基づいたメッセージのやり取りが面倒になってしまう。

メッセンジャーアプリであれば、SIMカードを買い替える度に電話番号が変わったとしても、IDで管理されているから、SIMカード(電話番号)を変えても自分であることが認識されるメッセージサービスの方が使い勝手が良い。SIMカードが変わって電話番号が変わったとしても、相手に新しい電話番号を通知して自分であることを認識してもらう必要はないから利便性が高い。このようにして電話番号だけでのSMSのやり取りは遠くなってしまう。さらに新興国では海外の出稼ぎに行っている友人、家族とのコミュニケーション手段としてSMSを利用する際は国際SMS料金が発生する。出稼ぎ先の国でも同じメッセンジャーアプリをインストールしていれば無料で通信ができるメッセンジャーアプリの方が人気が出てくる。

携帯電話会社がキャンペーンをやればやるほど(SIMが売れれば売れるほど)、電話番号は「おまけ」になってしまい、SMSの利用は遠くなっていくのではないだろうか。最近ではデータ通信に特化したプランのSIMカードやプランも多く見かけることから、メッセンジャーアプリにとっては追い風である。

(2) Wi-Fiスポットの増加

データ通信もプリぺイドで行うことが多い新興国だが、最近ではファーストフードやコンビニなどで無料または低価格でWi-Fiの利用ができる店舗が多くなってきた。東南アジアのコンビニでは店舗で購入したものを店舗内で食べることが可能でテーブルも用意されていることが多い。そこではWi-Fiも利用できるため、若者を中心にスマホやラップトップを出している。ファーストフードでもWi-Fiを無料で利用できる店舗も非常に多く、涼しい店内で長時間に渡ってスマホやラップトップを触っている。有料の個所もあるが決して高くはない。店員に利用したい旨を伝えると「パスワード」の書いた紙をくれるので、それでWi-Fiにアクセスしている。
また、ビジネスマンや大学生などはWi-Fiルータを持っていて、それで通信を行っていることも多い。

このようなWi-Fiスポットでメッセンジャーアプリを利用して、かわいいスタンプや写真を送ったりしている。(もちろん、メッセンジャーアプリ以外にもFacebookなどのSNSや動画を楽しんでいる人も多い)

プリペイドで残りの料金が気になるSMSやデータ通信プランよりも、無料または低価格なWi-Fiスポットを利用することによって、通信費を安く抑えることできる。新興国ではデータ通信プランに加入していても、日本のように全国津々浦々で3Gネットワークが完備されているということはないため、通信速度が遅いこともしばしある。

(図2)新興国のコーヒーショップでWi-Fiを活用してラップトップやスマホを楽しむ

(図2)新興国のコーヒーショップでWi-Fiを活用してラップトップやスマホを楽しむ(図2)新興国のコーヒーショップでWi-Fiを活用してラップトップやスマホを楽しむ

(図2)新興国のコーヒーショップでWi-Fiを活用してラップトップやスマホを楽しむ(図2)新興国のコーヒーショップでWi-Fiを活用してラップトップやスマホを楽しむ

(筆者撮影)

(3) かわいいスタンプや写真の送付

SMSはショートメッセージサービスであり、「テキスト」の送受信を行うサービスである。一方、LINEに代表されるメッセージアプリの多くは写真や音声、「かわいいスタンプ」の送信もできる。日本では以前から絵文字やデコメール、写真添付のメールが当たり前だったが、海外で白黒のテキスト(SMS)のみを送付していた人からすると、「かわいいスタンプ」で感情を表すコミュニケーションは画期的なことである。

まだまだ市場開拓余地のあるメッセンジャーアプリ

音声通話とSMSは全世界のほぼ全ての携帯電話端末で利用が可能である。メッセンジャーアプリを利用できる端末はまだ限定されている。その点からSMSが急速に減少するということは考えにくい。

LINEは2013年1月に全世界で1億ユーザを突破した。そのうち日本が約4,100万で、タイ、台湾がそれぞれ1,200万である。この3ヶ国で約6,500万だから、半数以上である。つまり、残りの地域では1ヶ国で見ていくと、まだまだ普及していく余地は多いに残っている。

もちろん、新興国と言っても国や地域によって市場、経済、通信の環境は大きく異なるので一概には言い難いが、上述のような市場環境で、Wi-Fiのネットワーク環境も整いだしてきた。メッセンジャーアプリが急速に普及していく素地は新興国にあるだろう。

現在LINE以外にも既に人気があるWhatsAppやWeChat、Viber、Go SMS Proなど様々なメッセンジャーアプリが乱立している。それぞれのサービスで機能間の大きな差異はあまりない。今後はこれらメッセンジャーアプリ間での競争になっていくだろう。ユーザは移り気である。新しくて便利なサービスが登場したら、すぐにそちらに移ってしまう。
 NHN Japanが今回、Nokiaと提携してLINEを普及していくことは一歩リードした可能性はあるが、これらメッセンジャーアプリの競争は「一寸先は闇」の状態である。

新興国の新たなコミュニケーション手段として台頭しつつあるメッセンジャーアプリの動向は今後も注目である。

*本情報は2013年2月27日時点のものである。

※1 NokiaはAndroid搭載のスマートフォンは販売してない。2011年2月にマイクロソフトと提携を行いWindows Phoneを搭載したスマートフォンを提供している。但し、低価格端末はWindows Phoneではない端末も多数ある。「Asha」については以下を参照(Nokia Indiaサイト:http://www.nokia.com/in-en/products/asha/

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