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Global Perspective 2013
2013年3月14日掲載

走りながら対応していくサイバースペースのシステムと人材育成

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁
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米上院は2013年2月26日、パネッタ国防長官の後任にチャック・ヘーゲル元上院議員を充てる人事を58対41の賛成多数で可決、承認した。翌27日に宣誓し、正式に就任した。同日、新たにアメリカ国防長官に就任したヘーゲルはメッセージを発信した 。その中にはサイバーセキュリティも含まれている。今回はサイバーセキュリティにおける人材育成について考察していきたい。

新たなチャレンジとしてのサイバーセキュリティ

ヘーゲル国防長官はメッセージの中で、アメリカとして今後将来の脅威に備えて、アジア太平洋への注力、NATOのような伝統的な同盟関係の再活性化、サイバー分野のような重要で分野への新たな投資の重要性を訴えている(※1)。
 サイバーセキュリティはアメリカだけでなく全世界においても新たなチャレンジである。特にアメリカは国防(安全保障)以外にも個人の生活、社会インフラのあらゆる分野がサイバースペースに依拠しているため、サイバースペースの防衛は国家の維持と直結しているが、現在ではアメリカだけの問題ではなくなってきている。
 そして新たなチャレンジにおいて重要なものは人材育成だろう。

サイバーセキュリティに向けた国防省の学習プログラム

ヘーゲルが国防長官に承認される直前の2013年2月22日、アメリカ国防省は、サイバー攻撃など新しい攻撃から国土を守るための様々なセキュリティ(安全保障)分野の学習プログラム「セキュリティ・プロフェッショナル教育開発プログラム(Security Professional Education Development Program)」を公表した(※2)。従来のような紙ベースでのトレーニングではなくWebで学習できコースが終了すると試験を受けて証明書(certification)が授与される。サイバーセキュリティ以外にも様々なコースが用意されており、国防省の軍人、職員の誰もが受講することが可能である。
 サイバースペースの動向は誰にも止められることができないくらい進化のスピードが早く、サイバー攻撃をされてから事象を学習するのではなく、攻撃される前に予知し防衛できる高度なスキルを持った専門家を育成していく必要がある、と国防省では述べている(※3)。

サイバースペースの防衛は国家の秩序や安定にとって重要になってきている。サイバースペースを構成するシステムの新たな脆弱性を発見し、攻撃されないよう修正プログラムを開発して対応する必要が出てきている。つまり新たな脆弱性の検出と、脆弱性を発見した際に早急な修正ソフトウェアの開発をすることが重要になってくる。常時システムのソフトウェアをアップデートすることによって、敵からのサイバー攻撃に備えることができる。

サイバースペースという人工空間の攻防にとって重要なのは人材

サイバーセキュリティの安全性を確保するうえにおいて一番重要なのは人材育成である。サイバー攻撃は、サイバースペースという人口空間であるシステムの脆弱性を突いた攻撃である。人工空間を防衛するのも攻撃するのも人間である。そして現代社会は個人の生活、経済活動、安全保障も人工空間であるサイバースペースに依拠している。特にアメリカをはじめとした先進国はサイバースペースの依存度が非常に高い。その人工空間をめぐる攻防においては人材育成が重要であることは言うまでもない。今回、アメリカ国防省が提供するようなサイバーセキュリティに関する学習プログラムは人材育成と基礎知識を身につける重要な礎になるだろう。

システムも人材も、走りながら対応していく

一方で、サイバー攻撃は個人のプログラミング能力の競争になることもある。サイバースペースにおいては攻撃、防御ともに平凡なプログラマーが100人いるよりも一騎当千の優秀な開発者が存在すればよいこともあり得る。そして言うまでもなく有能なプログラマーやシステムエンジニアは一朝一夕で育つものではない。
 コンピュータサイエンスを専攻していれば基礎的な理論は習得しているだろう。しかし実践でプログラミングを行い、システムの脆弱性を発見して、それに対応した修正ソフトウェアを開発しテストしてシステムの再統合するためのスキルを身に着けるのは容易なことではない。

とはいえ、次から次へとシステムの新しい脆弱性が発見され、新しい技術が開発されているサイバースペースにおいては「完璧なシステム」も「完璧な人材」も望むことは難しい。システムも人材も両方とも、オンゴーイングなイシューのため、常に走りながら対応していかなければならない。どちらが先でも後でもない。サイバーセキュリティにおける人材育成で重要なのは、既存のシステムを稼働させている状況の中で、常に最新の脆弱性と向きあい、試行錯誤しながら仮説を立てて物事を解決できる人材を育てることではないだろうか。

これからも国際社会はサイバースペースに依拠していかなくてはならない。常に進化し続けるサイバースペースと並走して、それらに対応できる人材も進化していかなくてはならない。これはアメリカだけではなくサイバースペースに依拠している世界では共通の課題である。

(参考)

*本情報は2013年3月8日時点のものである。

※1 DoD(2013), “Message to the Department of Defense from Secretary of Defense Chuck Hagel”, Feb 27, 2013, http://www.defense.gov/releases/release.aspx?releaseid=15837

※2 原文:“As we turn the page on more than a decade of grinding conflict, we must broaden our attention to future threats and challenges.  That means continuing to increase our focus on the Asia-Pacific region, reinvigorating historic alliances like NATO, and making new investments in critical capabilities like cyber.”

※3 DoD(2013), “DOD Expands Role of Security Professionals,” Feb 22, 2013  http://www.defense.gov/news/newsarticle.aspx?id=119360

※4 原文:” Now we have to deal with a cyber environment where information flows faster than you can stop it, and we’ve got to have highly trained professionals capable of addressing these issues to prevent these things from happening -- rather than chasing a security issue after it's already occurred”

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