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Global Perspective 2013
2013年4月10日掲載

グローバル化の観点から見るスペインでの「LINE」人気

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁
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2013年4月3日、LINE株式会社はメッセンジャーアプリ「LINE」がスペインで登録ユーザーが1,000万人を突破したことを発表した(※1)。日本以外で1,000万を突破したのは、台湾、タイといったアジア圏に続き、欧州ではスペインが初めてとなる。

ファミリーブランドの総合力で勝負する「LINE」

今回のスペインでの1,000万突破のリリース時にLINE株式会社の森川社長は、その要因について「スマートフォンだけでなく、PCからもアクセス可能でコミュニケーションがシームレスに行える点、またLINE自体はもちろん、カメラやゲームなどの様々な連携サービスを無料で提供している点が受け入れられた要因ではないか」とコメントしている。

スペインを始めとした欧州、全世界でメッセンジャーアプリとして人気があるのは「WhatsApp」である。森川氏が指摘するように「LINE」には「LINE camera」や「LINE POP」といったゲームのような「LINE」のファミリーブランドが充実している。これらの幅広いサービス提供がユーザーに支持され、LINEの1,000万突破のきっかけとなったのだろう。このような様々なサービス提供は、メッセンジャー機能に特化している「WhatsApp」にはない「LINE」の強みである。メッセンジャーアプリは「WhatsApp」や「LINE」以外にも「Skype」、「Viber」、「カカオトーク」、「WeChat」など世界中に多数あり、メッセンジャー機能だけでは差別化が難しくなってきている。

中南米でも人気がある「LINE」

スペインで登録ユーザーが1,000万人を突破したが、2012年11月には中南米でも「LINE」ユーザーが急増し、数カ国でAppStore無料総合ランキングやソーシャルネットワークカテゴリの無料ランキングで1位を獲得したことが明らかにされた(※2)。以下の表に掲載されている国は全てスペイン語圏である。中南米ではスペイン語が公用語として用いられている。現在、世界中で約4億2,000万人がスペイン語を利用しており、国連の公用語にもなっている。
16世紀から17世紀にかけてスペイン人がアメリカ大陸の先住民を征服して植民地化した際にスペイン語を普及させたため、今でもスペイン語が公用語として用いられている。現在ではスペインをはじめ中南米を中心に20カ国でスペイン語が公用語である。さらにアメリカでも多数のヒスパニック系住民が住んでおり、街中にスペイン語学校がある。

(表1)2012年11月14日時点のLINEのダウンロード

(出典:LINE公式ブログ)

スペインの労働市場

さらにスペインは、かつては移民を送り出す貧しい国だったが、現在ではスペインに入国する外国人が増えており、EU圏内と歴史や言語で結びつきの強い中南米と地理的に近い北アフリカ諸国以外にも中国やパキスタン、インド、フィリピンからの労働者が増加している。2007年10月には外国人登録者数が総人口の10%を超えている。たしかにスペインでは多くのラテン系以外の外国人労働者を見かける。

グローバルな情報流通を支えるコミュニケーションツールの役割

スペインで「LINE」が1,000万突破した背景にはスペイン語という世界中で広く利用されている言語とスペイン国内の労働環境要因も寄与しているのではないだろうか。「LINE」にせよ「WhatsApp」にせよ、メッセンジャーアプリは「コミュニケーションのツール」であり、「プラットフォーム」である。当たり前のことだが、それらは利用する人々がいるから普及する。日常のコミュニケーションツールであるため、基本的には同じ言語、価値観を共有した人同士で利用する。たとえば日本人が突然メッセンジャーアプリを利用して、スワヒリ語で見知らぬケニア人と会話をすることはほぼないだろう。

中南米で昨年末に「LINE」の人気が出てきて、数カ月後にスペインで1,000万を突破した。グローバル化が進んだ現代社会は「人、物、金、情報」が簡単に国境を超えていく。そして「人」が動くことによって「情報」も動く。情報には些細な日常の会話、コミュニケーションも多く含まれている。そして国境を越えたコミュニケーションを支えているのが、「LINE」のようなメッセンジャーアプリであろう。これからますますグローバル化が進展していき、「人」の往来も活発になるに伴って、コミュニケーションツールの果たす役割は重要になる。
 人々が日常のコミュニケーションツールとして利用するメッセンジャーアプリに難しい技術などは不要であろう。「便利、簡単、かわいい、楽しい、安い(無料)」というシンプルなものが求められる。「安い(無料)」は外国人労働者にとって、母国の家族、友人との国際電話、SMSの費用をいかに抑えるかという点から非常に重要である。

2013年3月に「LINE」はフランス語版とブラジルポルトガル語版をリリースしたと報じられた(※3)。フランス語はアフリカを中心に世界約50の国、地域で話されており、スペイン語よりも多く使用されている言語である。スペイン語圏に次いで、フランス語圏、ポルトガル語圏での「LINE」普及が期待される。またアメリカには約4,000万のスペイン語を話す人々が暮らしている。彼らをトリガーとして、アメリカにおける「LINE」普及も重ねて期待される。

【参考動画】
スペインでのLINEの広告(2013年3月から放送されている)
「LINEを使うと人生はもっと楽しくなる」というコンセプト

(参考文献) 碇順治 編著『ヨーロッパ読本 スペイン』(河出書房新社 2008年)

*本情報は2013年4月8日時点のものである。

※1 LINE株式会社(2013) 『「LINE」、スペインの登録ユーザー数がヨーロッパ圏で初めて1,000万人を突破』(2013年4月3日)
http://linecorp.com/press/2013/0403537

※1 LINE公式ブログ(2012)『LINE登録ユーザー数、世界7,500万人を突破!スペインと南米のユーザー急増でAppStoreランキング1位を獲得』(2012年11月16日)
http://lineblog.naver.jp/archives/20218658.html

※1 TechCrunch Japan(2013)『Lineがフランス語とブラジルポルトガル語に対応, 合衆国と南米で市場拡大をねらう』(2013年3月23日)
http://jp.techcrunch.com/2013/03/23/20130322line-adds-french-brazilian-portugeuese/

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