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Global Perspective 2013
2013年6月7日掲載

ヘーゲル米国防長官「サイバーが最も脅威かもしれない」

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年5月31日、ハワイを訪れたアメリカのヘーゲル国防長官はサイバーセキュリティについて言及した(※1)。また6月1日には、シンガポールで開催されているアジア安全保障会議で講演し、米国の政府・企業を標的にしたサイバー攻撃について「中国政府・軍が関与しているとみられる攻撃がある」と中国をけん制した。

「サイバーが最も脅威かもしれない」

ヘーゲル国防長官も前任のパネッタ氏同様にサイバーセキュリティの分野には積極的に関わっている。ヘーゲル国防長官はシンガポールで開かれたアジア安全保障会議に出席する前に立ち寄ったハワイでサイバーセキュリティについて言及した。

まずヘーゲル国防長官はサイバーセキュリティに関しては他の分野と異なって予算を大幅に増加したことを強調し、それによって国防省としてもアメリカのネットワークと情報を守るためにリソースを注ぎ込んで専念することができると述べた。そしてサイバーセキュリティは自国や一組織だけで対応できる問題ではないと述べ、協力、連携や同盟の重要性を訴えた。さらにサイバーセキュリティに対する脅威を以下のように表現した。

『サイバー攻撃は従来のリアルな攻撃と根本的に異なる脅威であると想定している。その理由として、従来のように銃弾で撃たれるわけではないのだが、その代わりに公共インフラ、銀行、民間企業、そして軍事ネットワークを混乱させる恐れがあり、さらにそのサイバー攻撃を仕掛けてきた攻撃元の国家や機関を追跡することが困難である。

サイバー攻撃は見えないうちにやってきて、被害に遭うと致命的であり、非常に狡猾な攻撃手法である。サイバー攻撃は海軍、陸軍、空軍とは異なる。しかし、この問題は非常に難しく、リアルに危険な問題であり脅威で、アメリカにとってサイバー攻撃が最も重要なプライオリティである』

アジア安全保障会議でのサイバーセキュリティ

2013年6月1日にヘーゲル国防長官はシンガポールで開かれたアジア安全保障会議で演説を行った。アメリカの戦略の重心をアジアに移すリバランス政策を継続していく方針が強調された内容だったが、サイバーセキュリティについても語られた。

ヘーゲル国防長官は中国政府、人民解放軍と思われるサイバー攻撃を受けているとアメリカの懸念を表明し、中国を牽制した(※2)。両国は多くの分野で共通の利益と懸念を共有しており、サイバースペースにおける国際規範の策定へ向け、両国間に作業部会を設置しに向けて中国との対話を呼びかけた(※3)。また、サイバースペースにおける問題は全ての国の問題なので、同盟国間での協力も強調した。

米中でのサイバースペース安定に向けて

米中の二大国間でサイバーセキュリティをめぐって安定していることは国際社会でのサイバースペースが安定するためには重要な基底となる。国際社会において規範(norm)を構築するのは容易ではない。しかもサイバースペースにおけるサイバー攻撃はヘーゲル国防長官も指摘しているように可視化することができない。また国家間で規範が策定されたとしても、個人でもサイバー攻撃を仕掛けることができる。

ヘーゲル国防長官が指摘するように「サイバーが最も脅威かもしれない」(“Cyber May Be Biggest Threat”)と表現するのも、サイバースペースには、先が見通せずどうなるのかわからない、国家として踏み込めないなど従来の国際政治とは異なる手法が求められているのかもしれない。また技術的にも次々と新しいバージョンが登場し、それにともなって新たな脆弱性も発見され、そこを突いたサイバー攻撃が後を絶たない。一方で、ここまで個人の生活、経済社会、軍事施設がサイバースペースに依拠するようになっている。特にアメリカでは生活の隅々までサイバースペースに依拠している。そして今からサイバースペースのない世界に後戻りはできない。

サイバースペースにおいてどのような枠組みを形成し、解決策を模索すればよいのか不明なことから、アメリカにとってサイバーが最も脅威と言わしめるのではないだろうか。

とはいえ、サイバースペースにおいても国家間での何かしらの規範なり協力関係を基盤とした安定が求められる。まずは国家間でサイバースペースが強固に安定した関係であることが重要である。引き続き注目する必要がある。

*本情報は2013年6月3日時点のものである。

【参考動画】

※1 DoD(2013) May, 31, 2013, “Cyber May Be Biggest Threat, Hagel Tells Troops”
http://www.defense.gov/news/newsarticle.aspx?id=120178

※2 原文:We are also clear-eyed about the challenges in cyber. The United States has expressed our concerns about the growing threat of cyber intrusions, some of which appear to be tied to the Chinese government and military.

※3 原文:As the world’s two largest economies, the U.S. and China have many areas of common interest and concern, and the establishment of a cyber working group is a positive step in fostering U.S.-China dialogue on cyber.  We are determined to work more vigorously with China and other partners to establish international norms of responsible behavior in cyberspace.
https://www.iiss.org/en/events/shangri%20la%20dialogue/archive/shangri-la-dialogue-2013-c890/first-plenary-session-ee9e/chuck-hagel-862d

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