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Global Perspective 2013
2013年6月11日掲載

中東:広がる教育分野でのタブレット利用

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年6月4日、米調査会社IDCは中東アフリカ地域でのタブレットの販売が2013年第1四半期において前年比184%増加の225万台の出荷があったと発表した(※1)。中東アフリカ地域(MEA region)とあるが、ほとんどが中東地域であろう。中東地域でのタブレットについて見ていきたい。

中東地域でのタブレット

IDCによると中東地域における家庭での利用とビジネスでのタブレットの利用が急増したことがその背景にある。また従来PCを製造・販売していたメーカーが続々とAndroid OSのタブレット製造を開始していることもタブレット増加の後押しになるだろう。2013年にはLenovoやAcerといったグローバルPCメーカーや地場のメーカーからのAndroid OSを基盤にしたタブレットの登場が期待されている。特に100ドル以下のAndroidタブレットが今後急増していくことだろう。もはやタブレットもコモディティ化している。Androidのタブレットに勢いがあり、iPadは押されつつあるがiPad Miniの需要は高いとIDCは推測している。 また、IDCでは同地域において画面サイズ7〜9インチの小型タブレットが増加していくことを予測している。これは世界的に共通していることだろう。

また、タブレットの勢いは中東だけではない。2013年5月28日にIDCが発表したレポートによると、世界全体でのタブレット出荷台数が2013年にノートPC全体の出荷台数を超え、2015年までにPC全体の出荷台数を上回る見込みだという。タブレット出荷台数は2013年に59%増加の2億2,930万台になると予測。その台数は、ノートPC出荷予測台数よりも多い。さらに2015年にはタブレット出荷台数が、ノートPCとデスクトップPCの合計出荷台数を上回る見込みだと予測している。

中東地域におけるタブレット普及のもう1つの要因としての「教育市場」

もう1つ中東地域においてタブレットが増加する要因として期待されているのが、教育市場である。日本や先進国の多くでは学校を中心とした教育市場ではタブレットがだいぶ普及してきている。その傾向が中東地域にもやってきている。中東でのタブレットを活用した教育への取組みについて見ていこう。

●トルコ「FAITH Project」
 トルコでは“Movement of Enhancing Opportunities and Improving Technology”(機会の拡大と技術向上の運動)のスローガンのもと「Smart Class」としてトルコ全土への教育分野へのIT投資を目指している。2012年2月時点でトルコの42,000の学校の620,000のクラスで最新のIT機器やコンピュータ、タブレットを活用した授業が行われている。1,600万台のタブレットが生徒に配布されている。FAITHプロイジェクトは今後4年で全トルコにおいて30〜40億ドルの投資が行われる予定である。

(図1)FAITH Projectで配布されたタブレットを持つトルコの生徒

(図1)FAITH Projectで配布されたタブレットを持つトルコの生徒

(出典:FAITH)

●カタール「e-bag project」
 カタールのSupreme Education Council's (SEC)が実施する「e-bag project」では、カタールの教師全員と生徒全員にコンピュータ(タブレット)を配布し、それらを通じてe-learningなどを通じて学習をすることを目指している。2013年2月に同プロジェクトの第1フェーズが開始され、10の学校で教師、生徒に配布された。2013年5月には第2フェーズが開始され、30の学校で教師、生徒にタブレットが配布された。第3、第4フェーズでは新たに60の学校でタブレットを配布する予定である。「e-bag project」はカタール政府が目指している「Qatar National Vision 2030」達成に向けた一環である。

●UAE「Smart learning initiative」
 2012年4月、UAEのShaikh Mohammad Bin Rashid Al Maktoum氏(Vice- President and Prime Minister of the UAE and Ruler of Dubai)はUAEにおける学校のIT化に向けて「Smart learning initiative」を立ち上げた。2億7,200万ドルを投資してUAEの学校にタブレットを配布していく計画である。LTE網を活用して高速でアクセスできることも強調している。2012年9月にはZayed大学教育学部など3大学13,000人にiPadが配布された。

(図2)UAEの「Smart learning initiative」を主導するShaikh Mohammad氏と生徒

(図2)UAEの「Smart learning initiative」を主導するShaikh Mohammad氏と生徒

(出典:Gulf News)

石油依存からの脱却に重要な教育

このように現在、中東諸国では、「教育」がタブレット導入の大きなトリガーとなっている。タブレットを利用してe-learningで学習する現在の教育においてタブレットは不可欠なツールの1つである。日本でも多くの学校でタブレットが導入されているが、中東諸国では国家主導で導入されている。
 中東諸国ではいつまでも石油に依存して国家を運営していくわけにはいかない。現在の子供たちが将来大人になった時に、石油に依存しないで経済と国家繁栄を目指していくためにも教育のIT化による人材育成は国家繁栄にとって重要な礎である。トルコのように石油に依拠していない国家でも、教育のIT化による人材育成は将来の国家繁栄にとって重要である。
 これからもタブレット導入による教育のIT化は近隣の中東諸国やアフリカ地域にも波及していくことだろう。教育による人材育成と、教育のIT化の重要性は中東諸国だけに限った話ではない。

*本情報は2013年6月10日時点のものである。

※1 IDC(2013),Jun 4,2013 “Another Remarkable Quarter for Middle East and Africa Tablet Market, says IDC”
http://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prAE24144713

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