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Global Perspective 2013
2013年7月5日掲載

アメリカ軍サイバー部隊を4,000人増強

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年6月27日、米国防省デンプシー統合参謀本部議長(制服組トップ)はサイバー攻撃への防衛能力を強化する方針を発表した(※1)。その概要を見ていきたい。

4年で4,000人増員、230億ドル投資

デンプシー議長によると米国防省では今後4年間でサイバー部隊の要員を4,000人増加する。サイバー部隊の要員は現在900人。4年間で5倍以上に増えることになる。 サイバーセキュリティ対策に230億ドル(約2兆3,000億円)を投資する。アメリカでは国防予算が削減されているが、サイバーセキュリティを国防の最優先課題のひとつとして重点配分する。サイバー部隊はアメリカ本土のネットワーク防衛の他、世界中のネットワーク防衛など3つのチームに分かれる。現在では20か国以上が軍のサイバー部隊を持ち、サイバースペースの防衛はアメリカだけでなく世界各国で急務である。

今回、デンプシー議長はサイバーセキュリティ対策に230億ドルを投資することを指摘した。米国防総省は2013年4月10日、2014会計年度(2013年10月〜2014年9月)の国防予算案を発表した(※2)。人件費や調達費などの基本予算(一般経費)は、要求ベースで前年度比約0.2%増とほぼ横ばいの5,266億ドルで、財政難の中でも、アジアや中東での抑止力を維持する姿勢を示した。その時、サイバーセキュリティの予算は47億ドルだった。4年間で230億ドルだから、年間予算としては同程度の予算が来年以降も続くであろう。

サイバー攻撃は2011年の17倍

デンプシー議長は「サイバー攻撃は国家の安全保障にとって明らかに最も深刻な脅威となった。」とコメントし、2011年以降アメリカの重要インフラに対するサイバー攻撃が17倍に増加したと指摘し、対策の必要性を訴えた。今回7年ぶりにサイバースペースでの交戦規定の改定を進め、サイバー部隊の指揮系統を強化しているとコメントした。軍部のネットワーク(“dot-mil” domain)の安全確保が最優先課題であるが、政府や民間のネットワークの防衛も重要であることを指摘している。現在、アメリカだけでなく世界中のほとんどの国家で安全保障に関わるのは軍だけではない。電力、通信、金融など民間の重要インフラを活用して、それらを基盤として軍の業務は成り立っていることから、そこがサイバー攻撃の対象となることは軍(安全保障)にとっても困ることが多い。

さらに議長は2014年には国防総省内で安全性の高い独自の4G携帯電話網を整備する計画も明らかにした。具体的にどのような構成にするのかは不明である(※3)。

またヘーゲル国防長官も2013年6月20日にネブラスカ大学での講演会において、サイバースペースの登場は人々の生活を大きく変えたが、国家としての脅威の在り方も大きく変えた。アメリカ軍はもっと機敏にならないといけない、と指摘し国土防衛におけるサイバーセキュリティの重要性を訴えた(※4)。

サイバーセキュリティで重要な人材育成:サイバー戦争はプログラミング戦争

今回アメリカ軍はサイバー部隊を900人から今後4年で4,000人増加し、230億ドルを投資することを明らかにした。サイバーセキュリティにおいて一番重要なのは人材育成である。安全保障だけでなく経済、社会、生活が依拠しているサイバースペースは情報通信技術というシステムの結合体である。それらサイバースペースを構成するシステムは「人」が造った人工物である。つまり「人」がプログラミング、コーディングを行い開発したものである。そのため100%完璧なシステムは存在しない。何かしらの脆弱性は存在している。そのシステムの脆弱性を突いてサイバー攻撃を仕掛けて情報窃取やシステム破壊を行うのがサイバー攻撃である。それらは自然環境の世界のように勝手に行われることはない。「人」が何らかの操作をして行っているものである。そして防衛側もシステムに脆弱性がないか常に検出し、早急にソフトウェアの修正を行い、システムをバージョンアップさせる必要がある。サイバースペースは山や海を防衛するのとは違う。

サイバースペースを作り利用するのも「人」なら、攻撃するのも、防衛するのも「人」である。そのため、いかに優秀な人材(プログラマー、システムおよびネットワークエンジニア、プロジェクトマネージャーなど)を囲い込み、育てるかが重要になってくる。サイバー戦争とはプログラミング戦争なのだ。

一方でアメリカの情報収集手口をメディアに告発し問題になっている元CIA職員スノーデン氏のように、内部事情を暴露してしまうのも「人」である。現在アメリカは「人」の扱いについて新たな問題に直面している。

【参考動画】

*本情報は2013年7月3日時点のものである。

※1 DoD(2013) Jun 27,2013, “DOD Must Stay Ahead of Cyber Threat, Dempsey Says”
http://www.defense.gov/news/newsarticle.aspx?id=120379

※2 DoD(2013) Apr 10, 2013, “DOD Releases Fiscal Year 2014 Budget Proposal”
http://www.defense.gov/news/2014budget.pdf
新戦略に深く関わる装備の開発に関わる代表的な調達予算としてはミサイル防衛(MD)に92億ドル、ステルス戦闘機F35の開発に84億ドル、新型空母建造に109億ドルなどを計上していた。

※3 “As part of this new Joint Information Environment, we’re building a secure 4G wireless network that will get iPads, iPhones and Android devices online in 2014,” the chairman said. “With tools like this, the smartphone generation joining our military will help us pioneer a new era of mobile command and control.”

※4 DoD(2013) Jun 20, 2013 “Hagel Vows to Prioritize Cyber, Nuclear Capabilities”
http://www.defense.gov/news/newsarticle.aspx?id=120339

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