ホーム > Global Perspective 2013 >
Global Perspective 2013
2013年8月14日掲載

メッセンジャーアプリでボイス(音声)メッセージは受け入れられるのか?

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年8月7日、世界中で多くの人が利用しているメッセンジャーアプリ「WhatsApp」が「ボイス・メッセンジャー・サービス」の提供を開始した。「WhatsApp」は月間アクティブユーザが全世界で3億に達し、毎日110億のメッセージが送信、200億のメッセージが受信されている世界最大級のメッセンジャーアプリである。日本では「LINE」が有名だが、欧米では「WhatsApp」が日常的に利用されている。ドイツ、メキシコ、インド、スペインでは月間アクティブユーザが2,000万を超えているとCEOのJan Koum氏は述べている(※1)。

あまり利用されていない「Push to Talk(PTT)」

「WhatsApp」が開始した「ボイス・メッセンジャー・サービス」とはユーザがコメントを録音して、それを友人やチャットグループに送信する。受信者側はその録音されたメッセージ(音声)を聞くことができる。非常にシンプルなサービスである。グループ向けに録音した音声を一斉送信することから、欧米で利用されている「Push to Talk(PTT)」、「Push-to-Talk over Cellular(PoC)」に似ている。
「Push to Talk(PTT)」とは、事前に登録した通話相手、登録グループへの一斉同報通信ができる。通話相手を変更しない限りダイヤル操作が不要で、専用ボタンを押すのみで通話できるため、自動車運転中の危険も比較的少ないとされるため、主にタクシーやトラックのドライバーなどを中心に業務向けに利用されている。一般の人で利用している人はあまり見かけない。アメリカでは、ネクステル・コミュニケーションズが2002年に、スプリントPCS、ベライゾン・ワイヤレスなどが2003年に「Push to Talk(PTT)」サービスを開始した。また、オレンジが2004年にイギリスで開始した。

日本でも2005年11月にNTTドコモが「プッシュトーク」というサービスを提供開始された。当時アイドルグループ「KAT-TUN」がテレビ広告で宣伝していたので、記憶にある人もいるだろう。しかし、市場ではほとんど利用されることなく2010年9月末をもってサービス終了した。

「Push to Talk(PTT)」は欧米でも一般の人にそれ程受け入れられているサービスではない。日本と同じである。突然録音されたメッセージ(音声)が送信されてくるのである。受信側も「Push to Talk(PTT)」を受信しても、常に返信できる状態である訳ではないから、どう対応したら良いかわからないだろう。

「Push to Talk(PTT)」というよりも「一斉送信が可能な留守番電話」

今回、世界でも多くの人が利用しているメッセンジャーアプリ「WhatsApp」に「ボイス・メッセンジャー・サービス」が提供された。友人やチャットグループに送信されたメッセージは「Push to Talk(PTT)」と異なり、いつ聞いても良い。また海外では日本のように常時インターネットに接続されている訳ではない。Wi-Fi接続可能なエリアに行ってインターネットにアクセスすることも多いから、日本のようにすぐにメッセージが既読になることは少ない。そのためメッセンジャーアプリでは、いつ相手やグループのメンバーが音声メッセージを聞くかわからない。どちらかというと「Push to Talk(PTT)」というよりも「一斉送信が可能な留守番電話」に近いサービスかもしれない。

メッセンジャーアプリでボイス(音声)メッセージは受け入れられるのか?

メッセンジャーアプリではテキストや音声通話でコミュニケーションが可能である。音声通話はリアルタイムでの通話である。今回「WhatsApp」では「録音された音声」も友人やグループに送信できるようになった。テキストだけでは伝えられないことやリアルタイムでの音声通話では伝えられないことを録音して相手やグループに送信することができる。「Push to Talk(PTT)」や「留守番電話機能」のようなサービスである。メッセンジャーアプリは通信事業者が従来提供していたサービスを無料で提供するようになってきた。

ところで、「Push to Talk(PTT)」や「留守番電話機能」のようなサービスはメッセンジャーアプリで受け入れられるだろうか。例えば誕生日の「おめでとうメッセージ」のように、テキストやリアルタイムの音声通話で伝えられないことを録音して送信することはできる。しかし、どれ程のニーズが市場にあるのだろうか。
 メッセンジャーアプリで音声通話(電話)をして相手が出なければ、テキストでメッセージを送信すればよい。わざわざ録音して相手やグループに送信する必要があるのだろうか。また「Push to Talk(PTT)」のようにボタン一つでグループに一斉送信が出来るほど、操作性は良くない。

メッセンジャーアプリにおいて「録音した音声」を相手やグループに送信するとサービスは従来、市場であまり受け入れらなかったサービスがメッセンジャーアプリというプラットフォームで提供されることによって受け入れられるのか。「WhatsApp」という世界で毎月3億のアクティブユーザが存在する最大級メッセンジャーアプリにおいてボイス(音声)メッセージが提供されることは、メッセンジャーアプリというプラットフォームでのボイス(音声)サービスの試金石となりうるだろう。
 そしてそれらのコミュニケーションツールの提供で「WhatsApp」がどのようにして収益を上げていくのかが注目される。

【参考動画】

*本情報は2013年8月12日時点のものである。

※1 Mobile World Live(2013), Aug 7,2013, “WhatsApp adds voice, passes 300M users”
http://www.mobileworldlive.com/whatsapp-adds-voice-as-passes-300m-users

このエントリーをはてなブックマークに追加
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。