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Global Perspective 2013
2013年8月26日掲載

ラテンアメリカ市場で「Windows Phone」がシェア2位

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年8月21日、マイクロソフトは同社が提供するスマートフォン向けOS「Windows Phone」が2013年第2四半期においてラテンアメリカ市場で2位になったことを発表した(※1)。メキシコでは2期連続の1位で、コロンビア、ペルーでシェアが2位になった。コロンビアではシェアが25.6%になった。ラテンアメリカ市場で第1四半期から12%成長した。シェア1位は圧倒的にAndroid OSである。他市場ではiPhoneのiOSが2位であることが多い。

(表1)2013年Q2スマートフォンOS別出荷・シェア

(出典:ガートナー発表資料を元に筆者作成)

ローエンド端末Nokia「Lumia520」が牽引〜それでもAndroidの足元にも及ばない

世界のスマートフォンOS市場では圧倒的にAndroidとiOSが強い。マイクロソフトは2011年にNokiaと提携してWindows Phone搭載のスマートフォンを販売してきた。Windows Phoneのスマートフォン端末はほぼNokiaから提供されている。

今回ラテンアメリカ市場でシェア2位まで牽引したのは2013年2月にNokiaが発表したローエンド向けのWindows Phone 搭載のスマートフォン「Lumia 520」である。それまで最安値だった「Lumia 620」よりさらに下位に位置付けられる500番台としてローエンド向けWindows Phoneとして市場投入された。150〜200ドル程度であることから、iPhoneやサムスンのGalaxyシリーズと比すると安い。しかし地場メーカーのAndroid OSスマートフォンと比すると決して安価とは言えない。

また、AndroidとiOSの端末は2013年第2四半期に合計約2億台出荷されており、Windows Phoneは全世界で740万台程度と3%程度である。ラテンアメリカでWindows Phoneのシェアが2位になっても、世界ではAndroid、iOSの背中はまだまだ遠い。

(表2)Windows Phone8デバイスの比率

(出典:adduplexを元に筆者作成)

(図1)Nokia「Lumia 520」

(出典:Nokia)

ラテンアメリカでのスマートフォンOSシェア争奪戦:そのカギは「端末コスト」

マイクロソフトのWindows Phoneがラテンアメリカで健闘しているのも、Nokiaの販売網がラテンアメリカで強かったからであろう。Nokiaはスマートフォンが普及する前のフィーチャーフォンの時代から同市場では強かった。かつてラテンアメリカでは携帯電話はNokiaが主流だった。今でも中古品も含めてNokia端末の人気は高い。ラテンアメリカの20か国以上でNokiaの端末はローエンドからハイエンドまで入手可能である。

ラテンアメリカでは今後5年間で1億5,000万台のスマートフォン需要が予測されている(※2)。2014年には4,800万台の出荷を見込んでいる。4,800万台でも全体の携帯電話出荷台数の30%程度である。まだまだスマートフォンの需要が高い地域である。
その中南米市場にはスペインの通信事業者Telefonicaが自社が事業展開するコロンビアとベネズエラに「Firefox OS」搭載のスマートフォンを約100ドルで2013年7月から投入した。同社のラテンアメリカでのスマートフォン比率はまだ14%程度である(参考レポート)。

まだまだ成長の余地が大きいラテンアメリカ市場には「Windows Phone」や「Firefox OS」以外にも、様々なメーカーがそれぞれのOSを搭載したスマートフォンを投入してくるだろう。今回Nokiaの「Windows Phone」がラテンアメリカ市場でシェア2位になった要因は「端末コスト」であろう。ラテンアメリカ市場だけでなく新興国の多くにとって端末選択の重要な要因は「端末コスト」である。OSの競争においてスマートフォン上でサービスや利用するアプリの観点から差別化は難しくなってきている。例えば、メッセンジャーアプリ、動画、ソーシャルメディア、ゲームなど、どうしても利用したいサービスやアプリがそのOS、端末上で動作すれば、それで良いのである。利用者の立場からすればスマートフォンのOS何が何でもAndoroidやiOSである必要はない。つまりメーカー側はどれだけ安くて高品質、高機能なスマートフォン端末をラテンアメリカを中心とした新興市場に供給できるかが重要である。もちろんそのバックアップとして、それら端末を大量に市場で販売できる販売網を持っていることも大切であるのは言うまでもない。

マイクロソフトはこれからもラテンアメリカで成長できるのか

これからも多くの低価格スマートフォンがラテンアメリカ市場で流通することだろう。そうなるとマイクロソフトとNokiaは決して優位なポジションにはいない。マイクロソフトとNokiaは、いかに安くて高品質な端末を同市場において供給できるのかが、ラテンアメリカ市場でのスマートフォンOS競争でAndroidを制することができるかどうかを決定するだろう。またWindows Phoneのライセンサーであるマイクロソフトは、Nokia以外にどれだけ多くの端末メーカーが安価で高品質なWindows Phoneを開発してくれるかも重要である。そのためには現在Windows Phone開発と販売でネックになっている問題を見直す必要がある。新興国の地場メーカーがAndroidでスマートフォンを開発することの大きな要因の1つがWindows Phoneと異なりライセンス費用が不要だからである。ところがマイクロソフトにとってはこのライセンス費用こそが最大の収入源であるから、現在の仕組みを直ぐに変更することは難しいだろう(※3)。

マイクロソフトは2013年8月23日、スティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)が1年以内に退任すると発表した。バルマー氏が在任中にWindows Phoneの今後の道筋をつけていけるのだろうか、重ねて注目である。

*本情報は2013年8月25日時点のものである。

※1 Microsoft(2013)Aug 21, 2013, “Windows Phone, Latin America’s second most widely used mobile platform”
http://www.microsoft.com/en-us/news/Press/2013/Aug13/08-21WPLATAMPR.aspx

※2 R Newswire(2013) Jul 2, 2013 “Latin America's Smartphone Market to Grow to 150 Million Handset Units through 2014, says Pyramid”
http://www.prnewswire.com/news-releases/latin-americas-smartphone-market-to-grow-to-150-million-handset-units-through-2014-says-pyramid-62103672.html

※3 以下の記事によると、1台あたり23〜30ドルとのことであるとZTEの英国担当者が述べている。
“ZTE reveals $20 to $30 cost of Windows Phone license “(2012年1月)
http://www.theverge.com/microsoft/2012/1/19/2718209/windows-phone-license-cost-ZTE

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