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2013年8月28日掲載 |
2013年8月19日、ヘーゲル米国防長官と中国の常万全国防相と、ワシントン郊外の国防総省で会談した。2013年6月にアメリカ政府による個人情報収集活動やサイバー攻撃を暴露した米中央情報局(CIA)の元職員スノーデン氏の問題が世界中で報道されてから初めての米中国防相会談だった。毎回のことながら米中間ではサイバー攻撃が話題になっていた。 2013年8月の米中国防相会談におけるサイバーセキュリティヘーゲル長官が米中間にサイバーセキュリティに関する作業部会が設置されたことを評価し、中国発のアメリカ企業を狙ったサイバー攻撃について中国側のさらなる対応を促した。また常国防相は「中国はサイバー攻撃の被害者だ」と従来の中国の主張を繰り返し、「中国軍はいかなるサイバー攻撃も支援したことはない」と否定した。さらに「技術的な優位によってサイバースペースにおける他国の主権を弱めることに反対する。」と主張、「中国はアメリカの『二重基準(ダブルスタンダード)』は認めない」と述べてアメリカ側を牽制した(※1)。相変わらずサイバーセキュリティをめぐっては米中双方の隔たりが改めて浮き彫りになった。 中国はアメリカのサイバーセキュリティにおける「二重基準(ダブルスタンダード)」を牽制した。つまり、アメリカ自身がサイバー攻撃を行っていながらも、他国に対してサイバー攻撃をするな、と主張していること。アメリカ自身が「PRISM」と呼ばれる極秘プログラムを通じてアメリカの主要インターネット企業9社のサーバに直接アクセスし、音声、動画、写真、電子メール、文書、接続履歴を含む膨大な量のデータを収集していると報じられているが、一方で中国での言論統制や情報管理に対して批判を行っている。中国から見るとこのようなアメリカの態度には不信感を表すことも仕方がないだろう。 サイバーセキュリティと「ダブルスタンダード」米中会談を見ているとアメリカのサイバーセキュリティに対する「二重基準(ダブルスタンダード)」が批判されているが、このような「二重基準(ダブルスタンダード)」は国際政治や国際経済、環境問題など国際関係においてはよくあることだ。例えば、冷戦期から冷戦後に自国では核兵器の開発を推進しながらも、他国に対しては核兵器開発を中止するように訴えたり、拡散をさせないようにしている。またGDPで欧州諸国を抜いても、環境問題で自国の都合が悪くなると、まだ新興国であることを主張して国際社会からの規制を受けない努力をするなど。このような事例は枚挙に暇がない。サイバースペースをめぐるサイバーセキュリティ問題だけが特別な問題ではない。 国際政治学者の山本吉宣氏はクーパーのポストモダン、モダン、プレモダンの理論を引用して「ダブルスタンダード」について以下のように述べている(※2)。 『帝国なり中心圏の国々からすると、圏内の国々に対する行動のスタンダードと圏外の国々に対する行動とは異なるスタンダードを持たなければならない。クーパーはこれをダブル・スタンダードと呼んだ。(略)中心圏の国は、その対外政策においてダブル・スタンダードをとる。すなわち、圏内の国々に対しては、相互に武力を用いず透明性をベースにした政策を展開し、他の圏に対しては、勢力均衡とか、あるいは人道的介入という異なる政策を展開する。』 情報通信技術を元に構成されたサイバースペースでは、中国が主張するように圧倒的にアメリカが技術的には優位である。アメリカと中国および他の諸国は情報通信技術力に差がある、すなわちサイバースペースにおけるポジションが異なるのだ。つまり「中心圏の国であるアメリカは圏内の国々(サイバースペースにおいては該当国無し)に対する行動のスタンダードと圏外の国々に対する行動とは異なるスタンダードを持たなければならない」のだからアメリカがサイバースペースの問題において国際関係の中で「ダブルスタンダード」を取るのも必然であろう。サイバースペースは新しい問題ではあるが、基本的には既存の国際関係の延長線上にある。そして米中両国だけの問題ではなく、国際社会全体の問題である。 *本情報は2013年8月21日時点のものである。 ※1 US News(2013) Aug 19,2013 “Chinese General Denies Cyber Attacks on U.S.” ※2 山本吉宣『「帝国」の国際政治学:冷戦後の国際システムとアメリカ』(東信堂、2006年)pp208-209,315 |
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