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Global Perspective 2014
2014年2月25日掲載

韓国:サイバー兵器は核に対する抑止力になりうるのか?

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
副主任研究員 佐藤 仁

2014年2月、韓国当局がサイバー攻撃を行うためにStuxnet級クラスの強力マルウェアを開発していると報じられた(※1)。韓国の標的は明らかに北朝鮮であろう。北朝鮮では2006年10月に初めて地下核実験を行った。

強力マルウェアStuxnet

Stuxnetはアメリカとイスラエルが開発し、2010年にイランの核施設を標的として攻撃を行った強力マルウェアである(参考レポート)。ブッシュ政権下の2006年に「オリンピック・ゲーム」というコードネームで開始され、コンピューターウイルスでイランの核開発を妨害することを決め、2008年から、このマルウェアを使ってイラン中部ナタンズにある核施設へのサイバー攻撃を始め、核施設5,000基の遠心分離機のうち1,000基を制御不能に陥らせ、イランの核開発を2〜3年遅らせることに成功したと報じている(※2)。Stuxnet は2010年夏にプログラミングエラーが原因でイラン核施設から流出し、インターネットを通じて世界に出回ってしまい一躍有名になった。アメリカもイスラエルも現時点でもStuxnetの開発とイランへの攻撃を公式には認めていない。

サイバー兵器は核に対する抑止力になりうるのか?

北朝鮮の核施設やミサイルへの物理的なダメージを与えるための強力マルウェアの開発は、2010年に始まった戦略の第2段階である。なお第1段階は現在も続いているオンラインプロパガンダである。国防部関係者は「今後、サイバー司令部があらゆるサイバー戦の任務を遂行できる能力を備えることに力を入れる方針だ」と述べた。

北朝鮮の核施設やミサイルもサイバースペースに依拠している。サイバースペースを構成しているシステムを破壊、遅延することは北朝鮮の核開発に影響を与えることができる。アメリカとイスラエルがイランの核施設を標的としてStuxnetを仕掛けたように。

韓国と北朝鮮はサイバー攻撃について今までも多数報道されているが、頻繁に行われている情報摂取やサイト改ざん、DoS攻撃とは異なり、強力マルウェアによるサイバー攻撃は成功する確率は低いうえに、攻撃においてのリスクも高い。リスク要因がものすごくたくさんあり、最悪のシナリオは言うまでもなく核の誤発による大惨事であろう。

韓国としては北朝鮮の核に対して、サイバー兵器で対抗しようとしているのだろう。サイバー兵器は核に対して抑止力を働かせることができるのだろうか。

いざという時には、サイバースペースから核を阻止することができることを相手に伝えることはできるが、現時点ではまだサイバー兵器が核兵器の抑止にはならないだろう。強力マルウェアは開発したからといって、本当に核施設のシステムを破壊や遅延できるとは限らない。むしろ成功しない確率の方が高い。また成功したとしても、アメリカとイスラエルによるイランの核施設をStuxnetで攻撃したときのように、開発の遅延くらいである。核に対する抑止としてのサイバー兵器はまだ時期尚早かもしれない。

【参考動画】

*本情報は2014年2月23日時点のものである。

※1 BBC(2014), 21 Feb 2014, “South Korea to develop Stuxnet-like cyberweapons”
http://www.bbc.co.uk/news/technology-26287527

“South Korea green lights Stuxnet-like code weapons to nark NORKS”
http://www.theregister.co.uk/2014/02/21/south_korea_new_stuxnet/

※2 New York Times(2012)1 Jun, 2012, ”Obama Order Sped Up Wave of Cyberattacks Against Iran”
http://www.nytimes.com/2012/06/01/world/middleeast/obama-ordered-wave-of-cyberattacks-against-iran.html?_r=0

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