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Global Perspective 2014
2014年9月11日掲載

楽天による米国Ebatesの買収:これで本当に海外戦略は加速するのか?

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
副主任研究員 佐藤 仁

楽天は2014年9月9日、米国Ebatesを買収することを発表した。買収額は総額約10億ドル(約1050億円)。Ebatesは主要ネット通販を組み、消費者に購入資金の一部を返す特典で人気を集めている。楽天は2010年5月に米国Buy.comを買収して「Rakuten.com」として事業展開を行っている。今後は、Ebatesと連携させ、海外市場を本格開拓することが狙いである。

Ebatesは1999年創業されたECサイトで、会員がEbatesのサイトを経由して2,600以上の外部ECサイトで買い物すると、キャッシュバックやポイント還元などが受けられる仕組みである。外部ECサイトについて、三木谷社長は「全米の魅力的なサイトがすべて入っている」とは紹介している。Ebatesは1,000万人以上の登録会員(250万のアクティブユーザーがいる)を抱える全米最大の現金還元サービスを手掛ける会員制サイトを運営している。韓国や中国、ロシアでもサービスを展開し、2013年度の売上高は1億7,000万ドル、営業利益は1,367万ドル。ネット通販の総販売額を示す流通総額は22億ドルだった。

楽天としては、今回のEbates買収を機に、同社の海外展開を加速していきたいという思いがある。流通総額の海外比率はこれまで6%だったが、Ebates買収によってこれが16%になる。「2020年過ぎたころまでには50%に持っていきたい」と三木谷社長は述べている。楽天は日本でこそ誰でも知っているECサイトであるが、海外での知名度は低い。2010年に米国Buy.comを買収して「Rakuten.com」にして事業を展開しているがアメリカでの知名度は決して高くない。また他にもイギリス、フランス、スペイン、ドイツなど欧州でも現地のEC事業者を買収して事業を展開、アジアでは台湾やタイ、インドネシア、マレーシアで事業展開を行っている。なお中国には2010年に進出するが、2012年には撤退している。

このように13の国と地域で事業展開をしているが、楽天全体のうち海外に占める比率は6%しかない。つまり、それだけ楽天が日本市場に依拠しているということである。楽天は公用語を英語にして、グローバル化の加速を急いでいるが、Ebatesを買収後も海外比率は16%にしか達しない。世界規模でECが拡大していく状況の中、2020年までに海外比率50%という目標も、13か国のままで2020年まで行ったとしても、大きいとは言えない。現在の国内と海外の比率が逆転するくらい(日本国内の規模が6%で残りが海外での売上)にならないと、本当の意味でのグローバル企業とは言えないのではないだろうか。

それでも世界最強のECアマゾンには遠く及ばず

アメリカでECと言えば、アマゾンである。アマゾンは「ECの代名詞」になっている。そのアメリカでも小売りの中でECが占める割合は5〜6%であり、これからも多いに成長の余地がある。

Ebatesの2013年度の売上高は1億7,000万ドル、営業利益は1,367万ドルとなっている。ネット通販の総販売額を示す流通総額は22億ドルだった。アマゾンが2014年7月に発表した同年第2四半期(2014年4〜6月)の決算は、売上高が前年同期から23%増加の193億4000万ドルだった。北米がは26%増の119億9,800万ドルと急成長した。海外部門は73億4200万ドルで同18%増加だった。Ebatesが1年間で1億7,000万ドルの売上であるが、アマゾンは3か月間で193億4,000万ドル(北米だけでも119億9,800万ドル)と規模が大きく異ることがわかる。

つまり楽天がEbatesを買収して、アメリカ事業を強化し、世界戦略を加速してもアマゾンの足元にも追い付くことは難しい。楽天がEbates買収によって差別化を行っても、アメリカの消費者が楽天でショッピングを行うようになるに行くとは考えにくい。ECで購入する商品はどこのECサイトで購入しても同じものが多いである。そのようなEC市場ではブランド力と商品の品ぞろえ(出店規模)が重要である。1位のEC事業者がどの国でも強い。特にアメリカは、日本のように「楽天・アマゾン・Yahoo ショッピング」が三つ巴で勝負している市場ではなく、圧倒的にアマゾンが強い。1位以外のECサイトを利用したことがある人は少ない 。「世界で一番高い山の名前は知っているけど、世界で二番目に高い山は知らない」人が多いのと同じで、1番のサイト以外は知らないし、利用したことがない人が多いであろう。

日本では「楽天・アマゾン・Yahoo ショッピング」の三つ巴市場にLINEという新たなプレイヤーライバル企業が進出してくる。非常に競争が厳しい市場である。また海外に目を転じてもアマゾンという巨大なEC企業が存在しており、アマゾンの利用者を楽天に向かせるのは容易なことではない。さらに、ツイッターもアメリカで2014年9月8日に、ユーザーがツイート内から直接商品を購入できる新たな機能を試験的に導入した。同日から米国の一部の小売事業者が実験を開始した。新たな機能では、ツイート内に商品情報や「購入ボタン」を埋め込むことができ、購入者は一度クレジットカード情報や商品の送り先住所などを登録するだけで、次回からはワンクリックでショッピングできるようになる。ツイッターでは、広告に続く新たな収入源としてのECに期待している。

これからも成長が期待されるEC市場を目指して新規参入してくるプレイヤープレーヤーが登場している。英語公用語化でグローバル企業を目指す楽天だが、ECに依拠した海外戦略の前途は多難であることが予想される。

*本情報は2014年9月10日時点のものである。

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