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Global Perspective 2014
2014年12月9日掲載

ソニー・ピクチャーズへのサイバー攻撃:シグナルとしてのサイバー攻撃

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
副主任研究員 佐藤 仁

北朝鮮が、ソニー傘下の米国法人Sony Pictures Entertainment(SPE)にサイバー攻撃を仕掛けたのではないか、という報道が2014年11月末から12月にかけて、国内外で多く報じられている(※1)。

報道によると、SPEへのサイバー攻撃では、社内のコンピュータが乗っ取られ、赤いどくろが薄笑いを浮かべたイラストと「Hacked By #GOP(GOPが乗っ取った)」の文字が画面に表示された。ハッキング画面には、「要求に応じなければ盗んだSPEの内部データを世界に公開する」との内容が記載されていたとのこと。また少なくとも5本の未公開映画や映画女優のパスポート写しなどの機密情報が流出しているとも報じられている(※2)。SPEでは「システム障害を調査中」との声明を出している。既にFBIが捜査に乗り出しており、SPE側も「今後、捜査当局と協力して調査する」とコメントしている。

今回のサイバー攻撃は、SPEの新作映画「The Interview(ザ・インタビュー)」公開間近のタイミングで行われた。この映画は、北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺計画を題材にしたコメディー映画である。北朝鮮の国営放送はアメリカと同映画を上映する他の国に対して「無慈悲な報復」を予告していたと報じられていたことから、北朝鮮からのサイバー攻撃が疑われている。但し、北朝鮮国連代表部の報道官は「何も知らない」との見解を示している。

「シグナル」としてのサイバー攻撃

今回のサイバー攻撃が本当に北朝鮮からのものかどうかはわからない。サイバー攻撃の特性上、どこの国からかのサイバー攻撃かを完全に断定することは困難だ。そのため米中間でも「サイバー攻撃を受けている」「攻撃していない」の舌戦になってしまっている。

今回のサイバー攻撃も北朝鮮からの攻撃かどうかは不明だが、その周辺状況から北朝鮮からの攻撃ではないかと疑われている報道がされている。もちろん、北朝鮮は否定しており、北朝鮮の国防委員会政策局報道官は2014年12月7日、直接の関与を否定した。「われわれの支持者によるものであることは明かだ。不正義が続く限り、それを踏みつぶす正義の対応はさらに激しくなる」と述べたことを朝鮮中央通信が伝えている(※3)

そして現代社会はSPEだけでなくあらゆる企業の経済活動、社会生活、軍事安全保障がサイバースペースに依拠せざるを得なくなった。今回の攻撃先はSPEというエンターテイメント企業であるが、サイバー攻撃の標的はアメリカの軍事施設や政府機関、重要インフラに向けられることがあるかもしれない。このような組織に対してもサイバー攻撃を仕掛けてシステム内に侵入して、情報摂取やシステム破壊などがされる可能性がないとは言い切れない。

今回のSPEへのサイバー攻撃は「シグナル」のようなものである。つまり、攻撃元がどのような組織であれ、いつでもサイバー攻撃を仕掛けて、情報摂取やWeb改ざん、システム破壊を行う準備が出来ていることを国際社会に対してのアピールだ。現代社会はサイバースペースに依拠せざるを得ない。そのサイバースペースの脆弱性を突いて攻撃を仕掛けてくるのがサイバー攻撃である。今回のサイバー攻撃の真意は不明だが、今後のサイバーセキュリティに大きな課題を残し、インパクトを与えたことは間違いない。

*本情報は2014年12月8日時点のものである。

※1 ロイター(2014年12月2日)など多数の報道あり。
北朝鮮「何も知らず」、ソニー・ピクチャーズのサイバー攻撃
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0JF36320141201

※2 「ソニー・ピクチャーズの映画が流出、北朝鮮の報復説も」
http://www.cnn.co.jp/showbiz/35057306.html

※3 日本経済新聞(2014年12月8日)「北朝鮮、サイバー攻撃への直接関与否定」http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM07H1D_X01C14A2FF8000/?dg=1

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