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国内通信業界〜この一ヶ月
2006年6月掲載

市場を拡大する高機能携帯電話

>>2006年5月のネットワーク市場はこちら
(ニュース、各社幹部発言録、数字)

 携帯電話の高機能化が進んでいる。この時期に携帯各社が端末の高機能化に走る背景にあるのが、11月までに導入が予定されている携帯電話の「ナンバーポータビリティ制度」だ。

 携帯電話会社を変えても携帯番号が変わらないため、顧客獲得合戦が激化することが予想されており、各社は端末の高機能化で顧客のつなぎとめを図りたい考え。
ユーザの利便性を高め、移動通信の利用を促進するという光の部分がある一方、携帯電話の製造メーカは高機能化のためにコストが急騰。海外メーカとのアライアンスで世界最適調達の道を探るメーカ、さらには他のメーカと基幹部品を共通化するメーカも出てきている。

 情報通信市場の中で、最も動きが激しい携帯電話。顧客獲得競争を睨んで、最先端では、今一体何が起こっているのだろうか。現状と将来を展望してみた。

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 携帯電話端末とコンテンツの関係で、最初に話題にしなければいけないが音楽配信だろう。つい最近もiPod携帯の製造・販売に関 して、ソフトバンクと米アップルコンピュータ社が提携交渉を行っているという報道があった。ソフトバンクは提携決定を否定しているが、一部報道では大筋合意と報じられている。実はこのニュースは、携帯関係者のみならず音楽配信事業を手がけているコンテンツ事業者にも大きな衝撃を与えたのである。とりわけNTTドコモには大きな脅威として映ったに違いない。
 もしiPod携帯が市場に導入されれば、KDDIに続き、ボーダフォン(ソフトバンクモバイルに改称予定)ユーザもPCと携帯がシームレスにつながる音楽配信サービスが利用できることになる。さらに、iPodといえば携帯音楽プレーヤー市場で圧倒的なシェアをもつブランドであり、そのデザインも支持を集めている。ナンバーポータビリティにより顧客奪取を目指す武器として、必要十分のインパクトを持つと期待されるからである。iPod搭載携帯については、NTTドコモがアップルコンピュータ社と交渉したが、ウイン−ウインの構図を描けなかったので断念した という因縁がある。ソフトバンクが無事に提携にこぎつけられるのかについては予断を許さないが、迎え撃つ事業者は心穏やかでないのは確かだ。

 一方、いち早く「着ウタ」サービスや音楽配信サービス「LISMO」を開始し、音楽に強いというイメージ戦略をとってきたKDDIは、満を持して夏モデルの携帯電話端末に「ウォークマン」ブランドのソニー製端末を発表した。ソニーが誇る「ウォークマン」ブランドを冠することで、音楽に強いイメージをより明確に打ち出す効果も得られるだろう。
「着ウタ」のダウンロード数は今月で5,000万曲を突破しており、この戦略は成功を収めてきたと評価できる。しかし、ソフトバンクのiPod携帯が現実のものとなれば、そのイメージを失いかねない危険性もある。今後もその優位性を守るために、より高性能な音楽機能を備えた端末の投入や、サービス品質の向上が行われることが期待されている。音楽市場を常にリードしてきたKDDIが、どこまでその地位を守れるのか展開は予断を許さない。
 音楽配信では常に後手に回った感があるNTTドコモが、いよいよ反転攻勢に出てきた。夏モデルとして「着ウタフル」対応端末を発売。同時にサービスを始める。「着ウタフル」サービスの提供は他事業者にかなり遅れを取ったが、ナンバーポータビリティの開始には間に合わせた形だ。音楽プログラムが深夜に配信され、日中の好きな 時間に楽しむことができる新サービス「ミュージックチャネル」に対応した高速通信用端末も投入、弱点だった音楽関連機能を大幅に強化した。最大の顧客数を抱えるNTTドコモが音楽配信サービスに本格的に参入したことで、メジャープレイヤーは揃った。今後、音楽市場は今以上に急拡大を遂げそうな勢いだ。

 音楽関連の機能が現在の競争の主戦場であるならば、次の戦場となりうる機能がワンセグ放送受信機能だ。
 ボーダフォンは、満を持して「AQUOSケータイ」を投入、録画機能が搭載された初の端末であり、視聴時間も4時間と長い。AQUOSというシャープの液晶テレビブランドを用いている点は、既存ブランドの知名度を利用できる点でKDDIの「ウォークマンケータイ」と同様である。こうした既存ブランドや技術の応用が進めば、端末買換え需要を喚起する魅力的な端末がさらに生み出されていくだろう。
 KDDIは夏モデルとしてワンセグ放送受信機能を備えた端末を発表したが、NTTドコモが発表した夏モデル端末にはワンセグ放送受信機能を備えたものはない。端末の機能を見ると、ここでもNTTドコモはやや遅れ気味とみえるが、端末以外の面では次の一手を模索しているようだ。これを裏付けるように、NTTドコモとフジテレビは、「ワンセグサービス」と「おサイフケータイ」を連携させたサービス検証を6月の番組から共同で実施する。単にユーザが携帯電話でワンセグ放送をみるだけならば、端末の買い換え以外に新たな市場を開拓することにはならないが、このような連携サービスが新たな市場を開拓することができれば大きな意味を持つことになる。

 最後に注目するのは、NTTドコモが最も力を注いでいる「おサイフケータイ機能」及び「クレジット機能」だ。NTTドコモは、「おサイフケータイ機能」を利用したクレジットサービス「DCMX」の入会受付を26日より開始し、いよいよ低額決済の取り込みに向けて本格始動といったところだろう。他事業者では、KDDIも「おサイフケータイ」での利用が可能なクレジットカード「KDDI THE CARD」の発行を6月1日より開始。携帯でクレジットサービスを使う生活スタイルの浸透にまで一役買えば、市場に与えるインパクトは大きい。
 特にNTTドコモの「DCMXmini」は上限金額が月額1万円と小さいが、中学生からの利用が可能なので、中学生の時期からクレジットサービスに馴染むことになれば、こうした生活スタイルへの影響もありうる話だろう。
 以上でみたように、携帯電話端末機能競争は市場の拡大や新規市場の開拓に結びついているが、こうした動きは今後も続いていくだろう。一方、高機能ブームに沸く端末市場を支える端末製造メーカは、開発コストの増大に頭を抱えている。現在、一つの端末を開発するのに数百億円がかかるとも言われている。さらに、決済機能、音楽配信機能、ワンセグ・・など続々機能が付加されていくたびに、そのコストは膨大なものになっていく。
既に端末メーカのうち、NECと松下は端末の基幹部分の開発共通化することや、通信用半導体を海外の有力メーカと共同開発することで、コスト低減を図り始めている。
 今後、携帯電話会社が描く高機能端末を実現していくためコストをどうして行くのか、国内外の端末製造メーカを巻き込んだ総力戦の様相を呈し始めた。

 端末高機能化のトリガーとも言われるナンバーポータビリティ。携帯事業者にとって悩ましいのは、これが一時のものではなく、機能の魅力で負ければとたんに顧客を奪われかねないという状況が継続していく点である。加入者数の増加が頭打ちとなってきており、事業者にとって通信料以外の収入確保が重要になっていることも影響している。今後もより魅力的な機能やサービスの出現が期待されるところだ。

山本悠介
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