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風見鶏―”オールド”リサーチャーの耳目
2014年5月1日掲載

利用者目線の市場競争を望む
―多様な選択肢とイノベーション―

(株)情報通信総合研究所
相談役 平田正之

3月に続き再び、情報通信審議会特別部会基本政策委員会(主査:山内弘隆一橋大学大学院商学研究科教授)の論議模様について感じていることをまとめてみます。基本政策委員会では、4月から事業者・団体など関係者からのヒアリングが開始されています。新聞報道等によると、主たる話題はNTTグループの事業活動の規制緩和問題であり、規制緩和反対・独占回帰反対と主張する声の大合唱と報じられています。個別利害からすると当然誰しも競合相手が強力になるようなことは望まず、規制であれ何であれこれを緩めることは反対することになると思います。

情報通信事業の場合、産業構造上歴史的経緯からNTTグループの市場シェアが高いレベルにあったので、競争育成(促進)の立場から政策的に固定と携帯の統合型サービスの禁止や非差別取扱いを定める事前規制(他方、事後規制はNTTグループ以外の事業者にも適用)、他の通信事業者への接続義務と約款届出義務といった厳しい制約をNTTグループに課して、市場競争の活発化(具体的にはNTTグループのシェア低下となって現れる)が進められてきました。1985年の通信事業への競争導入以来30年近くが経ち、NTTグループ以外の事業者も成長発展して今日を迎えていますが、競争当事者からするとNTTグループ各社の市場シェアがまだ高いとして、規制を緩めて競合相手が強力化することには先ず反対となるのだと思います。

“2020年代に向けた情報通信政策の在り方”という総務大臣の諮問の趣旨からすると、さらに今日から10年以上先まで(1985年から数えると40年以上に及ぶ長期間)NTTグループを規制し続けて市場競争を促進すべしと主張しているように見受けられます。私は、NTTグループと競合事業者間の競争の現状評価をここで取り上げるつもりはありません。それは総務省当局が毎年競争評価を行っているからです。問題は競争導入開始から今日まで既に30年近くが経って現在の市場が形成されていることを政策的にどう受け止めるかにかかっていると思います。現状、競争導入前に普及していたメタル回線をベースとしたいわゆる黒電話(この用語ももはや死語?)、即ちISDNを含めたNTTの加入電話はピークであった1997年11月末の6,322万契約から直近2013年12月末の2,669万契約へと、その市場シェアは引き続き87%と圧倒的であるものの契約数自体を約6割減と大きく数を減らしていて既に本格的な衰退に向かっています。他方、この間に市場が立ち上った固定ブロードバンドやモバイル通信分野ではNTTグループの市場シェアは競合地域別の動向や参入事業者数を勘案すると相当変化(低下)していることが分ります。即ち、電力系やCATV系の固定ブロードバンド事業者が参入している県域ではNTTグループの固定ブロードバンド市場シェアは既に50%を下回っているところが存在するし、最大シェア事業者でなくなっている地域も出現しています。また、モバイル通信事業は実質3社に統合されており、3社間のシェアの差は10〜12%にまで縮小しています。つまり個々の市場の内訳まで見ると市場競争は競合事業者の取り組み方によって成熟の域に達していると言ってよいと考えます。

こうなると通信事業者、即ちサービス提供者の立場からは、顧客の奪い合い・囲い込みが企業戦略の中核となり、競合相手の行動こそ最大の関心事となりますが、他方の利用者目線からは、どれだけ多くの選択肢があるのか、サービスのイノベーション(新サービス)が生まれるのかが興味となります。普及期には人より早く手に入れる努力が需要のポイントであるのに対し、成熟期には価格を含めたサービスの多様化と革新性に関心が移行するものです。この点、先月の特別部会基本政策委員会のヒアリングでMVNO事業者の1人から、携帯電話各社に対して「接続義務は維持しつつ、多様なサービスに対応する契約形態を検討してほしい。」(2014年4月9日産経新聞記事)との要望が出されたとの報道がありましたが、誠に注目に値する発言だと思っています。まさに利用者目線からするサービスの多様化を追求する姿勢と理解できるからです。
再度言いたいのですが、私は2020年代の情報通信がどうなるのか、どうすべきなのかという議論が聞きたいのです。もちろん日本国内だけの問題でなく、国境のないICTサービスであるだけにグローバルな視点から2020年代を考えてもらいたいと願っています。少なくとも、誰が、どの事業者が提供するにせよ、利用者は固定と携帯の統合サービスを求めていますし、さまざまなサービスプロバイダーと連携した(通信事業者は裏方であって目立たなくても)多様で革新的なサービスを求めています。それも価格的に選択肢の多いことを期待しています。

2020年代はますますグローバル化が進む時代、サービスプロバイダーの国籍は問わず、利用者の安心・安全意識やセキュリティ感覚に見合った事業者が選ばれるようになる政策的取り組みこそ必要ではないかと考えます。セキュリティポリシーやパーソナルデータの管理基準の扱いや評価を事前に情報開示する、利用者保護と自己責任のバランスの理解を促進するなど情報通信事業者間の利害を離れた、利用者目線からの情報通信政策の議論が進むことを期待して止みません。

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