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InfoCom Law Report
2014年7月3日掲載

米国におけるインターネット青少年保護
〜カリフォルニア州の動向〜

(株)情報通信総合研究所
法制度研究グループ
研究員 中島 美香

1. はじめに

米国では2013年9月23日に未成年者に自らの投稿の削除権を認めるカリフォルニア州法が州知事の署名を受けて承認されている。報道等では「消しゴム法」(Online Eraser Law)などとも呼ばれているこの法律は、2015年1月1日に施行される予定であるため、ウェブサイト事業者等はそれまでに対応を検討しなければならない。このような法律が制定されるのは米国でも初めてのことであり、今後ウェブサイト事業者等に大きな影響を与えることが考えられるため紹介する。カリフォルニア州は、インターネット関連法を他州に先駆けて制定することが多く、インターネット上のプライバシー保護に関して先駆的であることで知られている(※1)。なお、同法案について仮訳しているので、別紙を参照されたい(別紙1)

2.カリフォルニア州法の概要(※2)

カリフォルニア州法第22581条は、第8編「カリフォルニア州企業・職業法」に第22.1章「デジタル世界におけるカリフォルニア州企業・職業法」(第22580条から第22582条まで)が追加された条文のうちの、1つの条文である。

削除等について

第22581条は、未成年者を対象とするインターネットウェブサイト、オンラインサービス、オンラインアプリケーションまたはモバイルアプリケーションのオペレーター、あるいは、未成年者が利用していると現実に知っているインターネットウェブサイト、オンラインサービス、オンラインアプリケーションまたはモバイルアプリケーションのオペレーターは、次のすべてを満たさなければならないとする。

  1. オペレーターは、そのインターネットウェブサイト等の登録ユーザである未成年者に、これら各サイト等にユーザ自身が投稿したコンテンツまたは情報を削除等できるようにする。
  2. 第(1)号の削除等ができる旨を告知しなければならない。
  3. どのように第(1)号の削除等ができるか、その手続について明瞭な説明を行わなければならない。
  4. 第(1)号の削除は、完全な削除を保証するものではない旨を告知しなければならない。

なお、オペレーターは、以下の場合には、本条を遵守するものと推定される。つまり、当該規定によると、本条はオペーレーターのサーバーから当該情報を完全に削除することを求めているわけではなく、他者から見えないようにすればよい、ということのようである(※3)。

  1. たとえコンテンツまたは情報が何らかの形でオペレーターのサーバー上に残っているとしても、オペレーターが未成年者ユーザーが投稿したコンテンツまたは情報を当該サービスのほかのユーザーや大衆には見えないようにする場合。
  2. 未成年者ユーザーの最初の投稿を見えないようにしているにもかかわらず、第三者が当該投稿をコピーしたり、あるいは、当該未成年者が投稿したコンテンツまたは情報をリポストしたりしたために、当該投稿が見えてしまう場合。

削除等が求められない場合

同条は、オペレーターまたは第三者は、下記のいずれかの場合には、コンテンツまたは情報について、削除等をするようには求められないとする。

  1. 他の連邦法または州法の規定がオペーレーターまたは第三者にコンテンツまたは情報を保持するよう求める場合。
  2. コンテンツまたは情報が、未成年者以外の登録ユーザーである第三者によって、オペーレーターのインターネットウェブサイト等に蓄積されるかまたは投稿された場合。
  3. オペレーターが、登録ユーザーである未成年者が投稿したコンテンツまたは情報を匿名化し、これにより当該未成年者が個別に識別されない場合。
  4. 未成年者がオペレーターのインターネットウェブサイト等に投稿されたコンテンツまたは情報の削除について登録ユーザーがどのように申請し実現することができるかについて定めた規定の説明に従わない場合。
  5. 未成年者がコンテンツを提供することについて補償を得ているか、そのほか報酬(約因)を得ている場合。

3.背景

米国では、児童のプライバシーに関しては、現行の連邦法として1998年児童オンライン・プライバシー保護法(Children’s Online Privacy Protection Act of 1998, COPPA)がある(※4)。COPPAとカリフォルニア州法の相違点を大まかにまとめると下記のとおりである。

COPPAとカリフォルニア州法の相違点

カリフォルニア州法に関しては、COPPAとの比較を前提として、アメリカ国内においても、以下のような疑問が生じている(※9)。

  • オンライン消去権は、未成年者にのみ適用されるようである。これらの各サイトやアプリ等は、未成年者の時に投稿したコンテンツを削除したいと望む成人からの申請についてどのように対応すべきであるか。各サイト等は、法令順守の争いを避けるために単にすべてのユーザーにツールを提供すべきということか。
  • オンライン消去権の例外として、「未成年者がコンテンツを提供することについて補償を得ているか、そのほか報酬(約因)を得ている場合」が挙げられているが、具体的にはどのようなことを意味するのか。これは無料の製品、クーポンコードまたは期間限定申込みを含むのか。
  • 同法案によって、サイトのプライバシーポリシーに変更が求められるか。
  • そのほか、COPPAとカリフォルニア州法の保護対象年齢が異なることにより、運用に混乱を生じないか(※10)、等。

4.まとめ

カリフォルニア州法を受けて、早速フェイスブックやツイッターは、同法に対応したサービス提供を開始していると報じられている(※11)。今後、カリフォルニア州法が、COPPAとの関係も含めてどのように運用されていくか注視していくべきである。また、欧州における忘れられる権利判決に対するグーグルの対応や、EUデータ保護規則案における消去権への立法議論への影響なども併せて欧米の動向に注目していきたい。

※1 内閣府「平成25年度 アメリカ・フランス・スウェーデン・韓国における青少年のインターネット環境整備状況等調査」
http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h25/net-syogaikoku/2_16.html

※2 http://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billNavClient.xhtml?bill_id=201320140SB568

※3 http://privacylaw.proskauer.com/2013/10/articles/california/new-california-law-impacts-use-of-information-from-minors-offers-right-to-delete/

※4 http://www.ftc.gov/enforcement/rules/rulemaking-regulatory-reform-proceedings/childrens-online-privacy-protection-rule

※5 小向太郎「米国FTCにおける消費者プライバシー政策の動向」http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/data/research/icp_review/08/08-6komukai2014.pdf

※6 入江晃史「オンライン上の児童のプライバシー保護の在り方について
―米国、EUの動向を踏まえて―」http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/data/research/icp_review/06/irie2013.pdf

※7 前掲注(5)

※8 詳細はよく分からないが、差止命令を求める訴訟において第17200条「カリフォルニア不公正競争法」等に基づいて執行される可能性がある、との意見がある。http://www.socialmedialawupdate.com/2013/11/articles/privacy/rash-california-minors-get-an-online-eraser-button/

※9 前掲注3

※10 http://www.forbes.com/sites/ericgoldman/2013/09/24/californias-new-online-eraser-law-should-be-erased/

※11 http://www.nytimes.com/2013/09/20/technology/bill-provides-reset-button-for-youngsters-online-posts.html?_r=1&

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