4.移動通信の特性と、IP化へのステップ
有線通信を前提に仕様策定されてきたTCP/IP通信方式を移動通信に適応させるには、移動通信の特性を十分に考慮して、様々な技術を駆使する必要があり、非常に困難な問題が数多く存在する。
- 移動通信であるがゆえの特性と現状 移動通信は、「無線リンクの性質」および「モビリティ」という大きな二つの特性を持つ。
(1)無線リンクの性質移動性を実現する無線通信は、通信する空間の環境に大きく影響を受ける。有線通信では1,000,000bitの送信に対して誤りが1bit以下であるのに対し、無線通信では100bit〜1,000bitに1回は誤りが発生する。このように移動通信の伝送品質は有線通信に比べて劣悪である。
(2)モビリティ有線通信では、コネクションは絶えず固定されているが、移動通信ではユーザーのアクセス・ポイントは絶えず変化する可能性があり、また場合によっては瞬断することもあり、これらに対応する必要がある。
これらの特性のため、現状の移動体データ通信においては、移動通信に特化したプロトコルスタックを用いている。具体的なパケット伝送プロセスは以下のようになる。まず携帯電話から送出されるパケットは基地局〜サービス制御局ポート間を無線パケット通信専用プロトコルにより伝送され、そのままパケット網内をルーティングされることになる。よって現在はIP網(インターネット)に接続する際、「ゲートウェイ」を設置して、インターネット対応プロトコルに変換を行っている(図表5(1))。

- IP技術との融合に必要な技術 これらの「移動通信」の特性を維持したままTCP/IP通信を行うため、現状のインターネットに考慮されていない「モビリティ」をTCP/IPに組み込んだ無線TCPや無線QoS、Mobile IPなどの技術が盛んに検討されている。また、爆発的に増加する携帯電話ユーザーの携帯電話1台1台がエンド―エンドで通信を行うために必要なIPアドレスは、現状のIPv4では足りなくなる可能性がり、IPv6の導入も検討されている。
- IP化のためのアプローチ 現在、移動通信網とIP網とを接続するためには、IPではカバーできないモビリティや無線通信品質への対応は、全て移動通信専用の方式を用いている。例えば、モビリティ制御は移動通信専用モビリティ制御方式を持ち、パケットも無線通信に対応した無線専用パケットをルーティングしている(図表5(1))。早期にIP化を実現するためには、IPへの組み込みが難しいモビリティ制御は既存の移動通信専用方式に任せ、無線パケット・ルーティングをIPパケット・ルーティングに変更するほうが容易かつ肝要である(図表5(2))。つまり移動通信網において無線アクセス網以外をIPで通信を行う試みである。これこそが、今回取り上げた移動通信基幹インフラのIP化であり、今まさにこのバックボーンIP化が実用化に近づいている。基幹ネットワークだけをIP化するだけでも、固定系インターネット・サービスとの融合や親和性が確保できるなど事業者メリットは大きい。ここにさらに音声通信のIP通信化が実現すれば、データと音声の区別無くIPパケット量のみを考慮した効率的なインフラ・システム設計が可能となるため、今後の移動通信インフラ投資・運営コストを大幅に減少させることが可能となる。冒頭の日本テレコムは、この音声をIP通信で行うVoIPの実験において世界で初めて実験に成功したのである。このことが今後の移動通信インフラ開発において非常に大きな影響をもたらすことは間違いない。
|