トップページ > レポート > マンスリーフォーカス > Please Road This Image.

世界の通信企業の戦略提携図(2001年5月8日現在)

64. ボーダフォン・グループ(VOD)の日本テレコム(JT)株取得

ボーダフォン・グループ(VOD)は2001年5月2 日にブリティッシュ・テレコム(BT)が保有する日本テレコム(JT)とJ-フォン(JPC)の全株式を37億ポンド(53億ドル)で買収すると発表した。

 VODは2000年12月にJR西日本とJR東海に25億ドル支払ってそれぞれが保有するJT株式10.2%と7.6%から合計が15%になる範囲の株式を取得することとし、2001年2月にはAT&Tが保有するJT株式10%を15億ドルで買収して、JTの筆頭株主JR東日本(15.1%)に迫ってきたが、今回の買収によりJT株式の45%を保有する筆頭株主になり、JPC株式ついてはJTの54%に次ぐ株式保有率46%にとどまるが、JT経由を考慮したJPC株保有率60%はVODがJPCの実質的所有者となったことを示す。

 VODは、同時発表のスペイン携帯電話会社エアテル(Airtel)保有のBT株式17.8%買収資金11億ポンド(16億ドル)を含め、買収資金を新株30億ポンド(43億ドル)発行と手持ち18億ポンド(26億ドル)でまかなう。

 VODのJT/JPC株取得は日本国内では「狙われた日本テレコム」「JR各社の変節」「日本テレコム誤算」と言った新聞見出しが示すように、『上手の手から水がこぼれた』『カネは欲しいが経営権は渡さない日本的枠組みが狂った』との視点になり、アジアの視点も『日本よ確り』になろうが、グローバルに見れば、最大の要因はBTの経営ミス、失速の余波となる。

 世界の情報通信サービスプロバイダーTOP20を今(2001.4.30.現在)、半年前(2000.10.31.現在)、i年前(2000.4.28.現在)の比較で見ると、時価総額が下がっているのは少数で、一般的経済変動、インターネット/ITバブル、通信産業の盛衰に関わらず番付順位は意外と変わってない感じである。

表:世界の情報通信サービスプロバイダーTop20(2001年4月30日現在)参照

 表の外も想起すると、BTの最高値は1999年12月31日現在の株価1株245ドル、時価総額1,631億ドルで、今の80.9ドル、526億ドルはそのほぼ1/3である。AT&Tも同様で最高値は2000年3月29日現在の61ドル、1,918億ドルで、今の22.48ドル、848億ドルはその半値である。

 時価総額による順位付けは、キャッシュフローを重視する欧米経営において企業の買収に当たって「キャッシュ(資金)の流出を伴う費用だけを差引いた利益、つまり利払い・税金・償却前利益、EBIDA」が企業の価値を測るのによく使われる。株価が1株当たりEBIDAの何倍かで比較判断するのである。

 尺度はそれとして、未公開ベンチャーの企業価値が信じられないほど暴騰していたのは、IPO(株式公開)直後または自社株売却直後の企業価値をイメージして今はそれに対してどの程度進捗しているかを判断し、この2要素を掛算して算定するなかで有望で然るべき実現性ありと判断されたからであった。

 企業は永続するにしても経営判断は期間計算で、当たれば大儲け、外れたら「会社を清算する」か「企業価値を再設定して改めて資金を調達し、やり直す」のである。

 これは「必要不可欠なサービスを広くあまねく継続して提供する」と言う伝統的、固定系キャリアー経営にはなかったた見方である。だからこそ、コンピュータ企業の成功者がAT&TのCEOとなり、目覚ましい変革をやって株価を上げたが、CATV伝送路の新鋭ディッジタル網転換につまづき株価低迷と過重負債に苦しむことになった時、その打開策は未公開ベンチャーの失敗時とあまり変わらない。負債の整理、コスト・カッティングそして新規ベンチャーへの挑戦である。AT&Tは2001年4月24日に第1四半期決算を発表したが、前年同期17.4億ドルの利益が転じて赤字3.66億ドルになり、再編成のため年間見通しはまだ立たないので、年初に4セグメント別に出したの展望のまま承知して欲しいと述べた。

 グローバルに積極投資を展開したBTも、それが実らないうちに国内外の値下げ競争と過重債務に苦しみ、打開策を講じたものの追い付かないまま、5月17日予定の2000年度決算発表を前に、株主圧力によるCEO任期前交代が5月1日に行われた。2000年11月9日発表の経営改善策ではアジア開発途上国の投資は売却するが日本への投資は残すとしていたが、300億ポンド(436億ドル)の債務を背負ったクリストファー・ブランド新BT会長はJT/JPCにAirtelを添えたVODの良い値付けに抗し難かった。

 2001年4月第4週にロンドンで行われた投資銀行専門家によるM&Aセミナーでは、西欧通信市場で近い将来M&Aが行われようが、2001年第1四半期のM&A実績が1,110億ドルで年間8,110億ドルの2000年ベースより低調なので、大型合併は少ないとされた。西欧キャリアーがEBITDAの9倍程度なのに対し米国RBOCはEBITDAの6.5倍前後で取り引きされており、米国無線キャリアーがEBITDAの9倍に対して西欧の無線キャリアーはEBITDAの12倍程度である。従って米国の投資家は高値の西欧を避ける。西欧のなかでは次世代携帯電話市場の発足を控え比較的弱い無線キャリアーが淘汰sれると見る向きが多い。

 いずれにせよ、情報通信企業は『選択と集中』が誤らなければ伸びるが、常に旨く行く道は本来ない。今有卦に入ってる移動系キャリアーと云えども先は分からない。

 これまでのところ先達でない方が無事で来たようだが、さりとてIT革命の時代に無為に過ごす訳には行かない。今は最も難しい時期である。

65. メディア産業再編成の胎動

 超大型複合企業ヴィヴァンディ・ユニバーサル(Vivendi Universal: UV)と総合メディア企業ニューズ・コーポレーション(News Corp.)は2001年4月24日にUV傘下のイタリア有料TVテレピュー(Telepiu)とNews Corp.傘下のCATV番組ネットのストリーム(Stream)の統合で合意した。10年前設立のTelepiuは映画・スポーツ主体の有料衛星TV番組ネットワークを180万加入者に提供しているが、高額なサッカー試合独占放送権料もあり2000年決算で1.93億ドルの赤字で、Streamもテレコム・イタリア(TelItal)開設のCATV番組ネットで80万加入を集めたのを1年前にNews Corp.が買収したが、採算の見通しが立っていない。

 TelepiuとStreamを統合した新衛星TV会社Telepiuの資本構成はUVが2/3でNews Corp.が1/3だが、業界ではルパート・マードックがイタリア市場への橋頭堡を簡単に放棄する筈がないとする。確かにライバル意識に潜むとてつもなく大きなエゴと云うメディア王(Mogal)に対する一般的イメージからすると、一代で水道会社(コンパーニュ・ジェネラル・デ・ゾー、Compagne General des Eaux)をメガ・メディアを含むコングロマリット(*)に変えたジャン=マリー・メシエUV会長とグローバル衛星TVネットワークの創造を10年以上追求してきたルパート・マードックの二人のメディア王が仲良く共存することは想像し難い。

(注)マンスリー・フォーカスNo.12、「35.ビベンディのシーグラム買収」参照。なお、今回からUVの呼称をフランス後読みに変更した。

 EUの承認を得て2000年12月8日に合併を完了したUVは、同12月20日にスピリッツ/ワイン醸造部門を81.5億ドルでディアジオ・ペルノリカール社(Diageo and PernodRicard SA)に売却し、通信/環境サービス/建設・不動産三本柱のコングロマリットが誕生した。単純合算(pro forma)のUV2000年決算は418億ユーロ(368億ドル)で、合併合意時の推定値496億ユーロ(436億ドル)を下回ったが、計算上の誤差が多いと思われる。496億ユーロの内訳は、環境サービス/建設・不動産250億ユーロ、メディア・通信246億ユーロで、メディア・通信部門の細分は音楽66、映画46、TV40、出版35、通信58である。

 全体に占める通信の比重は比較的小さいが、合併前の2000年5月17日にCanal PlusとVIvendiのジョイント・ベンチャーVivendiNetとVODが設立したヨーロッパ向けマルチアクセス・インターネット・ポータルVIZZANIのような高成長期待のサービス・プロバイダーを含んでいる。

 UVは2001年4月25日に始めての四半期決算を発表した。2001年第1四半期のメディア・通信部門の利益は8.36億ドルで、年間推定は51.4億ドルと黒字基調である。 その点6月決算のNews Corp.の2000年12月中間決算は売上高67.7億ドルに対し2.52億ドルの損失となっている。永年に亘り資金を調達して有望企業を買収し、成長基調になると株式公開、上場差益で債務を減らして又借りて買収作戦というサイクルを廻して来たNews Corp.なので、中間決算赤字は必ずしも珍しいことではない。

 米国で第4放送番組フォックスネットワークを確立し、英国で衛星放送ネットワークBSkyBを成功させたマードックは、永らく米国衛星放送市場を狙って来たが、ついにそのチャンスが到来した。ゼネラル・モータース(GM)取締役会が2001年5月1日に衛星放送ネットワークDirecTVを保有する子会社ヒューズ・エレクトロニクス(Hughes Electronics: HE)にNews Corp.との合併交渉を認めたのである。

 HEの2001年第1四半期決算が4月28日に発表されたが、DirecTVの稼ぎを衛星通信サービス事業者パナムサット(PanAmSat)が吸収して1億ドルの赤字であった。

 GMはHE株を事業収益連動株(tracking stock)として上場し現在発行済株式の30%を保有しておりHEを手放すことに消極的だったが、NewsCorp.が合併後の出資構成について当初要求の35%から引き下げ30%以上を求めないことを確約したので、交渉を承認したと云われる。

 現在News Corp.の持株比率は、フォックスネットワークを運営するFox Entertainment Group,Inc.の98%、Britsh Sky Broadcasting Group plc.のの38%であるが、HEとの合弁会社スカイ・グローバル・ネットワーク(Sky Global Networks Inc.: SGN)への出資比率は、見え隠れしてきた他の出資希望者マイクロソフト(MS)やリバティー・メディア(LM)との関係でも検討されるだろう。

 通信業界はもともと儲からないインンフラ事業と新サービスを創始するベンチャーの集合体だが、メディア業界は遥かに複雑である。衛星TV、放送ディジタル化、インターネットが次第に重なり出し、娯楽コンテンツの制作者・ディストリビューター、端末/セット・トップ・ボックス(STB)/ミドルウエアなどプラットフォーム・プロバイダーなどは、流動するメディア再編の渦のなかにチャンスを求めリスクをとろうと乗り出している。

 前掲の「世界の情報通信サービスプロバイダーTOP20(2001年4月30日現在)」にUVをはめ込むとNo.13.Qwest Comm. Int'lとNo.14.Telefonicaの間に時価総額651億ドルのVevindi Universalが入るが、AOL Time Wanerと違って通信の比重がまだ低いので今回は見合わせた。

66. ヨーロッパ衛星会社(SES)のGEアメリコム買収

 ヨーロッパ衛星会社(Societe Europeenne des Satellites: SES)とGEアメリコム(GE American Communications: GE Americom)は2001年3月28日に新会社SESグローバル(SES Global S.A.)の設立について合意した。

 合意の内容はSESグローバルが現金27億ドルと株式1,540万を支払ってGEアメリコムの株式その他全資産を取得し、GE キャピタル(GEの金融子会社、General E lectric Capital Corporation: GE Capital)はSESグローバルの株式資産(時価総額125.9億ドル)の25.1%、議決権株式の20.1%を取得するものである。5%の差はSESの株式が議決権付きA 株と議決権無しB株に分れ、A 株は筆頭株主ドイツ・テレコム(DT、全株式中の比率20.83%)以下で保有され、B株(全株式中の比率16.66%)は2金融機関を通じてルクセンブルグ大公国により保有されているからである。

 1985年設立のSESは、アストラ(Astra)衛星11個を保有してヨーロッパの8,700万世帯に直接(DTH:Direct To the Home)またCATV経由で1000Ch以上のTV・ラジオ番組を放送し、マルチメディア・サービスを提供してきたのが、運営体SES Astraになり、GE アメリコムは21衛星を運営するSES Americomになる。SESはアジアではAsiaSatにより、北欧ではNSAB(Nordic Satellite Company)のSirius衛星によって、中南米ではスターワン(Star One、Embratel衛星部門の改称)のBrasilsat衛星により放送番組を送り、Astraと合わせて世界3/4の家庭をカバーしてきた。従ってSESグローバルはSES Astra、SES AmeiricomおよびSES Multimediaの各株式の100%を保有するほか、Asia Satellite Telekommの34.1%、NSABの50%、スターワンの19.99%の各株式保有を継承する。

 GE アメリコムは、1972年設立のRCAアメリコムが1986年のGEによるRCA買収に伴い再編・改称されたもので、米国衛星史上最長の経験と最高の技術力を持ち、RCA Satcom→GE衛星13個を打ち上げ・運用するほか、NSABのSirius2号衛星のトランスポンダー16本を購入してGE-1Eとし(1995年)、アルゼンティンのナウエルサット(Nahuelsat)社に出資してN2号を取得し(1999年11月打ち上げ、GE-4と改称)、コロンビア・コミュニケーションズ社を買収(2000年9月完了)してTDRS-5、同6、515衛星を取得し、ジブラルタル政府の軌道位置を借りロッキード・マーティン社との合弁企業Americom-Asia Pacificで販売する衛星を打ち上げ(2000年10月、GE-1A)、使用してきた。

 こうして統合後のSESグローバルはAstra11個、GEアメリコムなど16個、Asiasat・Sirius・Brasilsatなど13個、合計40個の通信衛星を保有し、2001年7月民営化予定のインテルサットの21衛星、パンナムサットの19衛星を大きく引き離す世界最大規模の衛星通信サービス事業者となる。2000年決算は、SESでは売上高7.61億ドル、利払い・税金・償却前利益(Earnings beforeInterest,Tax,Depreciation&Amortization:EBITDA)6.45億ドル、キャッシュ利益率84.76%、GE Americomでは売上高5.22億ドル、EBITDA4.28億ドル、利益率81.99%、合算では(pro forma)、売上高12.83億ドル、EBITDA10.73億ドル、利益率83.63%と、超優良である。

 この1年間、衛星産業界はインターネット・ITバブル崩壊よりも早く、イリジュムの破産に伴うサービス停止(2000年3月17日)、ICOの破産に伴う計画変更=ICO-Teledesic(2000年5月)、オーブコム(Orbcomm)の破産(2000年9月)など非運、憂鬱な事件を見て来たが、先んじて憂う者は先んじて楽しむかのように、SESのGEアメリコム買収は明るい未来への動きの始まりとみられる。

 現在のSES、GE アメリコムはともに放送・娯楽系サービス中心で、企業通信分野は僅か新製品紹介・広告関係のビジネスTVに利用されているだけで、売上高に占めるビジネスの比率はSESが8%、GE Americomが4%に過ぎない。今後の課題は企業通信分野の双方向サービスである。

 ユーロコンサルタントは2000年の衛星産業市場規模を約430億ドルと推定し、現在50社程度の衛星産業で今後SESのGEアメリコム買収に続くEビジネス指向の小規模M&Aが起こるとする。

 破産したイリジュムの残存衛星資産50億ドル相当を2,500万ドルで取得した新イリジュム社(Iridium Satellite LLC)は、軌道上の衛星66個と予備7個および協力する地上系事業者13社により2000年3月28日に開業した。新会社はサービスに万全を期するため2002年までに衛星7個を打ち上げて軌道予備を14個に増やすとしている。

 ヨーロッパの焦点はインテルサットと同じ2001年7月民営化予定のユーテルサット(EUTELSAT European Telecommunications Satellite Org.、欧州通信衛星機構)の動きである。ユーテルサットの2000年売上高は45%伸びて6.15億ドルを記録し、2001年3月8日のユーロバード(EUROBIRD)打ち上げで衛星総数19個を運用する大規模衛星通信サービス事業者として、データ通信指向の新サービス開発に余念がない。


元関西大学総合情報学部教授 高橋洋文
(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2001.5)

このページの最初へ


InfoComニューズレター[トップページ]