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「直感的に操作可能なモバイル情報端末が登場」

 日立製作所は2001年6月8日、ウォータースケープ(Waterscape)と呼ばれる、一切の入力キーを端末外表面から排除した、コンテンツ閲覧用のモバイル情報端末を試作したと発表した。このように入力キー操作などを必要とせず、ユーザーが情報端末などのコンピューター機器を直感的に操作するためのインターフェースは、一般的にパーセプティブ・ユーザー・インターフェース(Perceptive User Interface:PUI)と呼ばれる。本稿では、コンピューター機器と人間の関わり合いを一変させる可能性を秘めたPUIとはどのようなものであるのかを探ってみたい。

 日立製作所が開発したこの試作機は、手のひらに載せたまま傾けたり、揺り動かしたりすることにより、コンテンツを閲覧することができる。楕円形の画面上には、水の中に漂い、傾けることにより浮き上がってくる泡が表示される。この泡は「情報泡」と呼ばれ、コンテンツの表題が表示されている。表示させたい情報泡が最前面に浮かび上がったとき、端末を水平にすることにより、泡がはじけてコンテンツが表示される仕組みだ。さらに端末をシェイク(素早く左右に振る)することにより、コンテンツの表示を終了させることができる。これは流れてくる情報と受動的に接することを楽しむための端末であり、PUIを搭載した未来のモバイル端末を予見させるユニークな試みであると言える。

 PUIをモバイル端末に搭載する試みは、他にも少なからぬ事例が存在する。2000年11月5〜8日に米カリフォルニア州サン・ディエゴで開催された、ユーザー・インターフェースとテクノロジーに関するシンポジウム(The 13th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology)の最優秀論文賞を受賞した、マイクロソフト・リサーチ社の研究者による“Sensing Techniques for Mobile Interaction”という論文には、カシオ製のPDAに各種センサーを取り付けた試作機を用い、ユーザーのジェスチャー(動作)によりPDAを操作する実験が報告されている。ジェスチャーで操作できる機能としては、端末を携帯電話のように頭部に近づけた時に音声メモを録音する、端末の持ち方により画面表示モードを変える、端末を取り上げた時に自動的に電源を入れる、端末を傾けることにより画面をスクロールさせる、などが含まれる。これらの機能は、端末上の適切な部位に配置された、赤外線近接センサー、触覚センサー、加速度センサーなどにより実現される。

 人間がコンピューター機器と関わる方法は、ここ20年近くキーボードとマウスに代表される指示デバイスなどに限定されてきた。しかし、ここで紹介したような端末が実際に商品化されれば、それが一変することは誰の目にも明らかである。近年の技術革新により携帯電話やPDAとして軽薄短小化されたコンピューター機器は、それがコンピューターであることなど意識せずに誰もが利用できる「モノ」へと変容した。ウエアラブル・コンピューターやユビキタス社会の到来といったことが叫ばれる今日であるが、PUIの実現はそれらに欠かせない要素である。ただし、PUIを実装した端末が普及するためには、ユーザビリティーの向上が欠かせない。マイクロソフト・リサーチの研究者も、PUI機能へのユーザー・アクセプタンスと、誤動作の改善が必要だとしている。今年も上述のシンポジウムが、2001年11月11〜14日に米フロリダ州オーランド市で開催される予定だ。その後1年間でPUIがどのような進化を遂げているのか、期待が寄せられる。

松尾 拓也(入稿:2001.7)


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