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ハイパーアジア
1997年5月掲載

シンガポール・ワン

シンガポール

[基礎データ]
人口:300万(1995.6)
1人当たりのGDP:23,360ドル(1994)
電話回線数:1,429,900回線(普及率:47.7%)(1995.12)
セルラー電話加入数:29万(96.1)

[電気通信市場の自由化]
 基本電話サービスおよびセルラー電話についてはこれまで、シンガポール・テレコム(ST)の独占であったが、1997年4月1日から、モービル・ワンがセルラー電話サービスを開始しており(STのセルラー電話は100%子会社のモービル・リンクが提供)、2000年4月1日には基本電話サービスにも競争が導入される。
 STの基本電話サービスの独占は当初2007年3月末に失効することになっていたが、シンガポール政府が1996年5月に新たな提案を行い、2000年に競争が導入されることとなった。
 規制機関であるシンガポール電気通信庁(TAS)は、外国企業を含む2社程度に新たな公衆基本通信サービス(Public Basic Telecommunications Services)免許を付与するが、入札は2段階で行われ、事前審査の第1段階は、期限が1997年5月31日、通過者は9月1日に発表される予定である。1998年1月31日までに最終候補者による2回目の入札が行われ、その結果は1998年2月1日に発表される。落札者は、専用線、データ・システム、音声電話サービスならびに国際通信、市内通信でSTと競争することになるが、98年半ばに免許が付与され、2000年4月1日に商用サービスを開始することになる。
 すでにBTおよびNTTと現地の電気・ガス会社シンガポール・パワー等から成るコンソーシアムや、現地鉄道会社MRTおよびセンバワンから成るコンソーシアムなどが参加を表明している。
 STは基本電気通信サービスの前倒しの補償として1997年5月までに15億シンガポール・ドル(1シンガポール・ドル=約87円)を受取ることになっている。

[外資規制]
 1995年6月末時点でST株式の約12%が市場で取引されており、残りの約88%がTemasak Holdingsにより所有されている。Temasak Holdingsはシンガポール政府保有の投資会社であるため、STが完全に民営化されているとは言い難い。STに対する外資規制については何ら公表されていないが、1994年10月時点のデータをもとに試算すると、STの総株式数152.5億株のうち約6.5億株が外国人資家を対象に入札にかけられているので、STの外資所有比率は約4%である。1998年に新たに免許が付与される予定の事業者に対する外資の上限は49%である。
 セルラー電話事業者に対する外資上限は49%であるが、1997年4月からセルラー電話市場に新規するモービル・ワンについては外資所有比率は30%である。グレート・イースタン・テレコミュニケーションズ社がモービル・ワンの30%を保有している。なお、グレート・イースタン・テレコミュニケーションズ社はC&W(51%)と香港テレコミュニケーションズ(49%)の合弁会社であり、実質的にはC&Wの所有である。

シンガポール・ワン
(Singapore One:One Network For Everyone)

 シンガポール政府は、1991年8月に、2005年頃までに、全土にわたって企業、学校、研究機関、家庭を光ファイバー網で接続するという「IT2000」構想を打出して、情報インフラの整備を進めている。シンガポールを国際ビジネスセンターとして機能させる上で加入者伝送路の光ファイバー化は不可欠であり、目的達成に向けて政府が関連企業を支援している。
 1996年6月にはIT2000実現に向けた中間的な構想として、「シンガポール・ワン」が発表された。同国内のインターネット・プロバイダー3社(シングネット、パシフィック・インターネット、サイバーウェイ)の接続拠点に政府、政府系企業を始め、学校、病院等の公的機関と高速光ファイバー網や専用線を使って接続するもので、1997年春にも着手される。
  • サービスを提供するプロバイダーがATM交換機と光ファイバーで相互接続され、加入者がネットワークにアクセスすれば、どのプロバイダーのサービスも容易に利用できる。

  • 政府機関であるTAS、NCB、NSTB(国家科学技術局)が共同で資金を拠出して、3機関主導の下、実務を担当するコンソーシアムを設立する予定である。STとCATV会社のSCV (Singapore Cable Vision)等、5〜10社の民間企業がコンソーシアムに参加する。

  • 構想は2段階で実施。
    フェーズ1(1996〜2001)
    • 投資額3,200万シンガポール・ドル(約28億円)
    • 電子的に種々の政府サービスが受けられるインタラクティブ・キオスク(仮想政府窓口)の設置
    • 1996年末あるいは97年初めまでに300世帯を対象に高速インターネットの提供と電子図書館との接続
    • 1998年までに実験網を完成
    フェーズ2(1999〜)
    • 投資額5,000万シンガポール・ドル(約44億円)
    • 対話型アプリケーション・サービスの追加

「シンガポール・ワン」実現にかかる全体の通信インフラ・コストは明らかにされていないが、約20億シンガポール・ドル(約1,700億円)規模に達すると推定される。シンガポールはこれまで官主導で高度経済成長を続けてきたが、今回のネットワーク構想も、高度情報社会に向けて、2000年をにらんだ政府主導の通信インフラ構築の一環である。同ネットワーク構築の背景には、インターネットの利用が急速に拡大し、同国のインターネット人口が全人口約300万の2、3%にも及んでいることがある。今後もインターネットの利用が膨らむとの見通しの中、シンガポール・ワンの構築で、家庭のパソコンからインターネットへのダイヤルアップ接続により自由かつ高速にインターネット網に接続できるようになる。
 新たに付与される基本電話サービス免許も、「シンガポール・ワン」のビジョンにかなうマルチメディア技術を持つ事業者かどうかが選定の重要な基準となる。

武川 恵美
編集室宛 nl@icr.co.jp
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