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ハイパーアジア
2000年11月掲載

中国移動に、英ボーダフォン出資

今月の「Hyper Asia」は、2000年10月5日の朝日新聞、日本経済新聞、および10月8日の日経産業新聞の記事から、中国の携帯電話市場に貴重な足がかりを築いた英ボーダフォンの戦略について述べる。

■ボーダフォン出資の狙い

世界最大の携帯電話会社、英ボーダフォン・グループが、中国携帯電話の最大手である中国移動(チャイナ・モバイル)の香港法人に25億ドルを出資すると発表。 香港法人は、この資金で、親会社の中国移動から、北京、上海など7市省の携帯電話事業を買い上げる。
(朝日、日本経済(朝刊)2000.10.5)

 中国移動(香港)は、国有企業である中国移動通信集団公司が、資金調達のため、香港とニューヨークで株式上場させた子会社である。広東省、浙江省、江蘇省をはじめ6省で携帯電話事業を行っている。中国の携帯電話加入数を地域別に見た場合、広東省、浙江省、江蘇省はいずれも上位10位に入っている。

 2000年10月4日の発表によると、ボーダフォンは、中国移動(香港)が発行する新株の約4割を現金で買い取る。今回の新株発行の資金を使って、中国移動(香港)は、親会社から、主要7市省(北京市や上海市、天津市や山東、河北省など)における携帯電話事業を購入するのが目的である。購入額は328億ドル。中国移動(香港)の現在の加入者は2,390万に達しており、7市省の加入者数の約1,540万を加えると、買収後は中国市場全体の55%強のシェアを握ることになる。

 ボーダフォンは25億ドルの巨額な資金をつぎ込むが、取得する株式はわずか2%に過ぎない。日経産業(2000.10.8)は、「とてつもなく高い買い物に思える」が、「これには裏がある」としている。つまり、「情報技術(IT)産業の中核となる携帯電話の分野では『計画経済を実施する』と公言している中国政府は、この分野で外資に主導権を渡すつもりは毛頭ない。その中国で2%といえども出資に成功した意味は大きく、人口12億人を超す巨大市場で、政府公認の入場『手形』を手に入れたことになる。さらに両社は、資本提携と同時に、次世代携帯電話を含む技術開発で協力し、人材交流を進めることでも基本合意しており、出資が『手形』なら、この業務上の長期的な提携関係は『裏書』にあたる」と言うわけである。

 ボーダフォンは、中国移動(香港)の資金調達を手助けした格好だが、狙いは「次世代携帯事業の規格採用」である。

 中国移動が提供している現行サービスの大部分は、欧州のデジタル規格であるGSM方式を採用している。ドコモやボーダフォンが採用を決めている次世代技術の「W-CDMA」(日欧方式)なら、GSM方式をそのまま活用できる。中国移動のライバルである中国聯合通信は、現在、米クアルコムが開発したCDMA方式によるサービスを提供中であるため、次世代では「cdma2000」(北米方式)を採用するとの見方が有力である。次世代携帯の技術方式について中国政府は「日進月歩で技術開発が進んでおり、どの方式を採用するか未定」(呉基伝・情報産業相)としている。中国移動が次世代事業でボーダフォンと手を握ることになれば、「携帯市場の世界勢力図は大きく塗り変わることになる」。(日経産業2000.10.8)

 ボーダフォンは、2000年2月にドイツ最大の携帯電話会社マンネスマンを1,830億ドルで買収*1している。2000年9月末時点で同社の加入者は世界中で6,575万に達しており、その規模は日本の携帯電話加入数の6,160万を上回る。今回出資した中国移動(香港)を含めれば、世界の加入者数は1億の大台に乗る。ボーダフォンは2000年2月に仏ビバンディと合弁会社「Vizzavi(ビザビー)」を設立している。ビザビー設立の目的は、携帯電話、パソコン、デジタル・テレビなど、あらゆるデジタル端末に情報を提供するマルチ・プラットフォームの立上げである。本格的なサービス開始は、欧州で次世代携帯電話の実用が始まる2002年秋以降の見込みである。日本では、Jフォン・グループ各社に出資*2している。

■中国の移動体通信市場

 中国の携帯電話事業は、旧郵電部系の中国電信から分離した「中国移動通信集団」と旧電子工業部・鉄道部等が設立した「中国聯合通信」が提供している。聯合通信は1995年からGSMサービスを提供しているが、中国電信の圧倒的な強さを前に、シェアは伸び悩んでいた。2000年4月に中国電信から中国移動が正式に分離した後、競争が本格化した。情報産業省の9月25日発表によると、携帯電話加入数は6,500万に達しており、各社のシェアは、中国移動が81.2%、聯合通信が18.8%となっている。

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NTT西日本 企画部 武川 恵美
編集室宛 nl@icr.co.jp
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