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2001年4月掲載 |
アジア各国のIT戦略 アジアのインターネット利用者数を見ると、新興工業経済群(NIES)、東南アジア諸国連合(ASEAN)主要国、中国を合わせたアジア9カ国・地域の世界におけるシェアは、1999年時点で10%と大きくない。しかし、近年の伸び率は世界平均を上回っている。(図1参照)。こうした急速な普及はインターネットのインフラである電話回線がある程度整備されていたことに加え、政府による情報化構想とそれに基づく施策が奏功したためといえよう。今回の「Hyper Asia」は、アジア各国のIT化へ向けた取組みについてまとめる。
■伸びるインターネット利用者数アジア全体の牽引役となっているのが、NIESの各国・地域である。1999年時点ではNIESのインターネット普及率は日本を上回っている(図2参照)。特にNIESでは高速インターネット接続利用者が増加している。デジタル加入者線(DSL)技術やケーブルモデムを利用すれば、既存のインフラでも高速インターネットを利用できるようになったためである(高速とは通常500Kbps以上を指す)。政府機関の統計から2000年6〜8月の同利用者数を見ると、韓国の227万が最も多く、日本の33万、香港・シンガポールの20万と続く(表1参照)。普及率では、日本が5カ国・地域中、最下位となっている。 表1:アジア各国・地域の高速ネット普及状況
■各国政府の取組状況韓国やシンガポールで高速インターネット接続サービスをはじめとする通信インフラの整備や料金の引下げが、普及率向上に寄与している。この背景には、IT関連企業への政策的な融資や規制緩和などを通じた政府の支援がある。各国・地域とも、使い勝手が良く、しかも安く利用できる通信インフラを早急に整備することが、産業全般の競争力強化に欠かせないとの認識を深めており、外資誘致でも有利になると見ている。(1)韓国 朝日(2000.10.25)は、「韓国の経済成長率は98年のマイナス6.7%から、99年はプラス10.7%に急回復しており、IT分野が国内総生産の約1割を占めるなど、経済再生の原動力になっている」としている。 日経(2000.8.26)によれば、パソコンの普及も国が後押ししている。1999年秋には、韓国政府が定めた標準仕様に基づき、メーカーや接続業者10数社がそれぞれ開発した低価格の「インターネット・パソコン」の販売が始まった。企業側は、国のお墨付きを得る見返りに、従来の製品より価格を2割前後引下げ、接続料金を割引く仕組みを取っている。 韓国では高速インターネット通信サービスの加入者が2000年8月末に220万を超えた。99年末は33万に過ぎなかったが、2000年に入り、急増している。加入者のうち、約半分の120万がADSL方式を利用、その他がCATV、衛星インターネットなどである。 高速のネット通信サービスを最初に手がけたのは、97年に誕生した市内通信の「ハナロ通信」。サムソン、LGなど大手財閥が出資している。99年4月にサービス開始した後、韓国通信やベンチャー企業など参入が相次ぎ、現在14社が高速サービスを提供している。 各社は赤字覚悟の低価格で販売競争を展開しており、収益をどう確保するかなど課題も残る。政府は、高速通信網を公共資源として有効活用する考えであり、各社が過剰投資、重複投資に陥るのを防ぐため、交通整理に乗り出す構えである。(日本経済 2000.9.29) (2)シンガポール 政府分野では、税金申告や入札の電子化など「e政府計画」に15億シンガポール・ドル(約900億円)を投入するほか、企業分野では、電子商取引の振興や中小企業のIT化を資金・人材育成面で支援する。国民各層には学校への高速ネット導入や公立図書館でのネット講習会などを実施している。(日経 2000.9.29) (3)マレーシア サイバージャヤは内外のIT関連企業を誘致、研究開発の一大拠点にする計画である。進出を表明し、MSCステータスを取得した企業には、法人税の免除や外国人雇用の自由などの特典が与えられる。NTTなどが既に拠点を設け、テレコム・マレーシアが支援するマルチメディア大学も開校した。 日経(2000.9.29)によれば、MSCステータスを取得した企業は内外300社を超えるが、サイバージャヤを本格拠点とする外資大手はNTTだけである。公共交通機関などの整備が遅れているためでもあるが、深刻なのは、「技術者を十分確保できない点」であるとしている。 (4)香港 家庭向けにも、HFC*またはADSLを利用して、80%の家庭に高速ネットワーク・サービスの提供が可能となっている。ビデオ・オン・デマンド(VOD)が世界で最も普及している地域で、「通信と放送の融合」が、世界的に先駆けて実践されている。(日本工業 2000.7.21) ■アジアのIT格差を防ぐのは日本の役割2001年1月11日の日経の社説は、アジア各国のIT格差の拡大を懸念している。 アジア経済といえば、「日本−NIES−東南アジア諸国・中国」が雁の群れのごとく隊列をなして発展していく成長パターンが典型的だった。ところが、1997年に起きた通貨・金融危機に直面し、その後「IT革命」と「グローバリゼーション」の嵐が吹き荒れ、様相を一変してしまった。雁行型成長パターンの時代にはアジアの古い体質をある程度温存していても発展は可能だったが、21世紀の新しい成長パターンではそうはいかない。徹底的に構造改革を進めないと生き残れない、IT革命に少しでも乗り遅れれば、先行組との差は一気に広がってしまう。 だが、あまりに格差が広がれば、社会不安・地域対立などの原因にもなりかねない。それを防ぐには先行組がリーダーシップを発揮して、遅れてしまった国・地域に支援の手を差し伸べねばなるまい。新しい成長パターンの利点を最大限に生かすとともに、マイナスの面をできるだけ少なくしていかなければならない。こうした難しい作業をリードできるのは日本においてほかない。 対等著しい中国、インドにしても「グローバリゼーション」では苦戦を免れない。世界貿易機関(WTO)への加盟は中国にこれまで以上の改革を強いる。経済の舵取りを間違えれば、国際収支の赤字や失業者の増大に苦しむ場面も出てこよう。インドは国内の「官僚的な風土」が改革を阻む可能性がある。 日経(2001.1.11)は、「日本はアジア諸国から激しい追い上げを受けようが、それでも『兄貴分』としての自覚と責任を忘れてはなるまい」と結んでいる。朝日(2000.9.14)は、「日本は、自力で基盤整備ができない後発国へのハードとソフト両面での支援を強化して、アジア域内の一層のネット化を支援すべきである」として、さらに、「国内の『規制緩和』を進め、民間の『創意工夫』を引出し、域内のネット先進国と協力しつつ、新しいネット社会のモデルを示すことが重要だ」としている。 今回の原稿には、「アジア、NIES、高速インターネット急速に普及」(日本工業 2000年7月21日)、「アジア、ITインフラ整備加速、政府積極的に後押し」(日本経済 2000年8月26日)、「アジアのIT革命」(朝日 2000年9月14日)、「IT化のうねり、全世界に拡大」(日本経済 2000年9月29日)、「IT化急進展の韓国」(朝日 2000年10月25日)、「情報通信が切り開くアジア新時代2」(2000年11月1日)、「アジアのIT格差拡大を防げ」(日本経済 2001年1月11日)を参考にしている。 |
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<寄稿> 武川 恵美 編集室宛 nl@icr.co.jp |
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