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ハイパーアジア
2001年11月掲載

アジアのマイライン
−韓国、マレーシアの優先接続導入状況―

 日本では「マイライン」と呼ばれる優先接続(電話会社事前登録)制が2001年5月から始まった。2000年12月に郵政省(現総務省)が出した「優先接続導入に関する研究会」報告書によれば、優先接続は、既に米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、ドイツ等で導入されている。アジアでは、韓国以外に、マレーシアが導入を検討していたが、見送られている。

■韓国は1997年に導入

 韓国では1997年10月に、固定網の市外通信のみに優先接続が導入された(市内、国際は対象外)。既存キャリアである韓国通信は「081」、新規参入のDACOMが「082」、オンセ通信が「083」の事業者コードを保有しているが、ユーザは、事前登録をすることで、これらのコードをダイヤルする必要がなくなった。登録は、加入者が優先接続を希望する事業者に、郵便または電話で申込む投票方式である。登録の変更は自由で、登録費用に関して、加入者の負担はない。(KDD総研R&A 2000年5月号)

 優先接続制度の導入にあたっては、ACR(Automatic Call Router)が関係している。DACOMは1996年1月の市外通信参入当初から、「082」を自動的にダイヤルするACRを顧客に無料で配布した。1997年半ば頃から、ACRを巡るDACOMと韓国通信との争いが本格化、情報通信部(韓国の規制機関)は、両社の争いを仲裁し、ACRの追加配布を中止する代わりに、優先接続の早期実施を約束した(優先登録実施後、ACRは撤去)。情報通信部は同年11月には優先接続のための第1回投票を実施している。驚くべき早さである。日本で、長距離系NCCが参入した1985年に一旦、導入が検討されたものの、先送りされ、本格的に検討が開始されたのは1998年3月。2回の研究会が開催され、導入に至ったのは2001年5月である。

 第1回の投票は、約2,000万の加入者を、1997年5月から3ヶ月間の利用状況により、韓国通信グループとDACOMグループに分け、DACOMグループ(約200万)に対して郵便により行われた。DACOMグループでそのままDACOMへの登録を希望する場合、投票用紙を送るか、無回答。韓国通信グループでDACOMへの加入を希望する場合はコールセンターに電話をする。第1回投票はDACOMには不満足な結果に終った。導入後、4年が経過したが、韓国通信が非常に優勢、DACOM、オンセが劣位に立っている。1999年11月に、交換機更改に伴って、江陵電話局管内で実施された市外通信の事前選択投票でも、韓国通信が圧倒的な強みを示し、98.26%(26,113加入中、25,658加入)を獲得した。(KDD総研R&A 2000年5月号)

 韓国通信の高いシェアは、登録したい加入者のみが投票する方式で全加入者が対象でないことが原因の1つと考えられる。DACOMは、電話番号の前に「082」をダイヤルして、韓国通信を迂回(ダイヤルアラウンド)するよう求める広告を再開するなどして対抗している。

■マレーシアはコール・バイ・コールのイコールアクセス

 通話を行う際、既存の通信事業者と新規参入事業者とが、ダイヤルする場合に公平さを確保させる「イコールアクセス」には、次の2つの方式がある。加入者の便利さから、優先接続方式を採用する国が大半となっている。

  1. 「コール・バイ・コール」(call-by-call equal access)方式:既存の事業者も含めて、通話を行う度に、付与された事業者コードを回す方法 、ACRはこの手順を省くために設置
  2. 「優先接続登録」(equal access by pre-selection)方式:市外局番からダイヤルすると、事前に加入者が登録した事業者に自動的に接続される方法(事業者事前選択とも呼ばれる)

 マレーシアでは、1999年1月よりコール・バイ・コールのイコールアクセスが導入されている。コール・バイ・コール方式の導入で、事業者には3桁の事業者コードが付与された。その1年後、2000年1月から優先接続へ移行し、2000年末までに完了する予定であった。新規参入事業者は、コール・バイ・コール下の競争が、優先接続への移行により一層激しさを増すと期待していた。優先接続の導入により、マレーシアの約450万回線のうち、上位12万回線が、テレコム・マレーシアから競争相手の事業者へ以降すると見ているアナリストもいた。(APTA 1999.12.8) マレーシア通信・マルチメディア委員会(CMC)が、2001年3月、優先接続によるイコールアクセスの導入については十分な検討がなされていないとして、現在のイコールアクセスが当面維持されることとなった(KDD総研R&A 2001年8月号)。

■その他のアジアの国・地域

 幾つかの文献を調べたが、優先接続制の導入が検討されているアジアの国・地域はないようである。

 EUでは、加盟国に対して、1998年1月1日までにコール・バイ・コールの事業者選択の導入を、2000年1月1日までに事業者の優先登録制の導入を義務づけている。しかし、導入の方法や進捗状況は国毎に異なっており、2000年1月1日までに各国が優先登録制の導入を完了したとは言えない状況である。英国のように正式に期限延長を求めている国もあれば、オランダのように導入したものの技術的トラブルにより十分に機能していないケースもある。(情報通信ハンドブック2001年版)

 アジアでも、次第に競争が導入され、複数の事業者がサービスを提供している。しかし市内・長距離市場において、実質的な競争状態になっているとは言いがたい。優先接続の論議が出てくるのは当分先のことだろうか。

<寄稿> 武川 恵美
編集室宛 nl@icr.co.jp
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