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2002年3月掲載 |
マレーシアは事業再編で業績好転マレーシアの支配的事業者であるテレコム・マレーシア(TM)が事業再編を進めている。音声からデータ、固定から携帯へと通信の世界的潮流に乗るのが狙い。2001年度業績は増収増益となったが、TMが旧独占時代の「官業体質」から脱皮するにはなお時間がかかりそうだ。次世代携帯電話免許の発給動向と合わせて、TMの戦略を考察する。 ■2001年の業績TMが2002年2月26日に発表した2001年度の連結売上高は、96億7,320万リンギ(1リンギ=約35円)で、前年同期比9.7%増となった(図表1)。税引き後利益は18億3,580万リンギで同156.9%増となり、1997年の通貨・経済危機前の利益水準まで回復した。図表2の収益構造を見ると、固定電話収入が全体の65%を割り、代わって携帯電話(17.8%)やインターネット関連(10.0%)が台頭してきた。 好業績の背景には、携帯電話サービスを提供する子会社Telekom Malaysia CellularとMobikomの赤字幅縮小がある。2社合計の損失は4億990万リンギと前年同期の5億8,560万リンギから大幅に縮小した。利益こそまだ出ていないが、携帯電話が今後の主力サービスとなる。2001年12月末の固定電話加入者が前年同期比0.5%増の465万9,000にとどまったのに対して、携帯電話は136万2,000と同42.9%伸びた。携帯サービスへの期待は投資額からもうかがえる。TMの2001年の投資総額は23億1,300万リンギで、前年(22億8,900万リンギ)とほとんど変わらない。そのうち固定網への投資が12億3,700万リンギで前年同期比21.9%減少したのに対し、携帯向け投資は6億8,500万リンギと同121.7%増えた。 インターネット接続サービスへの収益への寄与度は1.6%、データ通信は1.9%、専用線が6.5%で、インターネット関連収入が収益全体に占める割合は1割であるが、TMの提供するインターネット接続サービス「TMNet」の契約者数は2001年末で127万に達している。 ■携帯重視の事業再編モハマド・キールTM社長は「電話、携帯、マルチメディアの各事業に同じ経営手法は通用しない。事業毎の経営モデルが必要だ」と述べ、再編を機に外部の人材を積極的に採用するなど、社長就任から約半年で、大胆な改革方針を打出した(日経産業2002.2.27)。2001年1月に、3ユニット(TelCo、ServiceCo、TM Multimedia)に分けていた本体事業を、電話事業、携帯、ネット関連など独立採算の5事業部門に再編した。5つの事業部門とは、TM本体(固定網系)、TM Mobile(携帯系)、TM Multimedia(インターネット関連)、TM ServiceCo(通信支援系、非通信系)、TM International Ventures(海外事業、国際提携)である。これらが本体内のCorporate Center(=事業展開等の戦略、マーケティング、人材、財務の観点から横断的に機能)を介して有機的に活動する(KDD総研R&A 2001年8月号)。 2001年は、特に携帯分野の強化が図られた。TMグループの2001年6月末のシェアは約17%で、トップのMaxis(27.8%)に水をあけられている。赤字幅の大幅に縮小したものの、各社がサービス開始当初からデジタル方式に一本化したのに対して、TMにはアナログ方式も一部残っており、設備利用効率は悪い。「2002年末までの黒字転換」(TM社長)という目標達成には一層のコスト削減が必要だ。 <参考>マレーシアの通信事情 図表3:加入者数の推移(2002年1月現在) ■3G免許動向マレーシアでは、図表4に示すように、現在5社が携帯電話サービスを提供している。人口2,400万の小さい市場にプレーヤーが多すぎるとの批判は以前からあり、TRIやTime Engineeringなどは、通貨経済危機の後遺症に苦しんでいる。このため、行政主導で業界再編の動きが何度か噂されたが、実現には至らなかった。
図表4:マレーシアの携帯事業者
規制機関のマレーシア通信マルチメディア委員会(MCMC)は、2001年11月、第3世代携帯電話の免許数を「3」に決定したと発表した。既存事業者以外でも免許申請することは可能だが、基本的には大規模な重複投資を避けたい考えであり、3という数字で設備レベルの健全な競争状況が十分確保されると判断した。通信マルチメディア法(CMA)では、3G携帯電話サービスに関して、ビジネス活動ベース(activies-based)の免許が与えられる。免許のカテゴリーは、(1)ネットワーク設備提供(インフラ・サービス)、(2)ネットワーク・サービス提供、(3)アプリケーション・サービス提供、(4)コンテンツ・サービス提供のための4免許ある。今回免許数が示されたのは(1)のレベルである。正式な申請者向け情報パッケージ(Applicant Information Package:AIP)が2002年2月に発出された。比較審査を経て、事業主体が選定された後の周波数割当予定は2002年7月、3Gサービスの開始自体は2003年後半が予定されている。
■政治がらみの事業戦略トップダウンの事業再編は、2001年のTMの業績にプラスに働いたと言える。しかし、TMの持つ旧独占時代からの「官業体質」が経営改革にブレーキをかける可能性がある。 TMは、2002年1月末「携帯電話会社Celcomを傘下に持つTRIの買収を検討している」との答弁書を、クアラルンプール証券取引所宛に提出した。CelcomはMaxisに次ぐ携帯電話会社で、買収が実現すればTMは一挙に携帯首位に躍り出る。3G免許発給を前に、Celcom買収はTMの携帯分野強化の戦略に沿っているかに見える。 しかし、実状は複雑だ(日経産業2002.2.27)。TRIはマハティール政権与党との関係が深い財界人が会長を務めているが、現在、経営難に陥っていると言われている。政府としては、TRIの経営の受け皿探しに躍起と見られており、マハティール首相もTMによる買収を認める発言をしているが、「Celcomの加入者が200万といっても、買収すれば、TMが重い負担を背負い込むのは確実」との指摘もある。 TRIの処理と並行するように、政府は2002年2月に、固定電話料金の見直しを発表した。国際・国内長距離を値下げする一方、市内通話料を上げる「リバランシング」で、市内電話の赤字を割高な国際・長距離料金で補填するのを防ぎ、TMと新電電各社間の競争を促すというのが公式理由であるが、3月以降の新料金体系は圧倒的にTMに有利と言われている。加入者線の9割以上を保有するTMが、市内通話の値上げを最も享受できるためである。
図表5:TMのタリフ・リバランシング
新電電からは「今回のリバランシングはTRI救済に対するTMへの見返りかもしれない」との声があるように、政府が6割以上の株式を保有するTMは、政治の要請に縛られつつ、政治によって保護されていると言えそうだ。TMは「官業体質」から当分抜けきれそうにない。 |
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<寄稿> 武川 恵美 編集室宛 nl@icr.co.jp |
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