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2002年5月掲載 |
韓国のネット書店
米国アマゾン・ドット・コムが日本に進出したのが2000年11月。2001年の日本における書籍のインターネット通販市場は推定140億円と市場拡大は進むが、韓国でも、ブロードバンド化に伴って、約300億円の市場となっている。今回は、日韓の書籍流通の違いを踏まえつつ、韓国のネット書店について触れる。
■再編の進む韓国のネット書店韓国のインターネット書籍販売最大手のYES24は、2002年5月13日、第2位のワウブックと同年8月をメドに合併すると発表した。商品調達や物流コストを削減するのが狙いで、合併の結果、2002年の韓国ネット書籍販売に占める新会社のシェアは約6割に達する見通しだ。存続会社はYES24で、合併比率はYESの1株にワウの5株を割り当てる。社長には李康因YES社長が就任する。会員数はYESが130万人でワウが68万人。2002年の売上高はYESが前年比2.7倍の1,300億ウォン(100ウォン=約10.3円)、ワウが同3.2倍の600億ウォンと、ともに大幅な増加を見込んでいる。 韓国の単行本など書籍の販売市場は2兆ウォン程度。両社によると、このうちオンライン取引の割合は2001年の7%から2002年には約16%に拡大し、3,100億ウォン規模になるという。 韓国は政府の規制により、書店での書籍販売に定価制を採用しているが、ネット書籍取引に関しては2001年6月に例外規定が設けられて規制除外商品となった。このためネット書店各社とも1冊当り10〜45%、平均で約2割の値引きを実施している。こうした安価販売に加えて、大型書店の数が限られているため、品揃えが豊富で家庭まで配達するネットによる書籍販売は急速に成長している。地方の中小書店が、オンライン販売で書籍をまとめて購入して、定価販売するケースも増えているという。市場の拡大に伴い、新規参入企業も相次いでいる。過熱気味の市場に対応するため、両社は合併により規模拡大を図り、価格競争値からの面でも優位に立つことを目指す。 ■韓国のブロードバンド化韓国のブロードバンド利用者は800万、世帯普及率は57%である。2002年末には65%に達する見込みである(韓国の世帯数は1,450万)。日本は3月末で400万加入、世帯普及率は8%と遠く及ばない。 最近、「なぜ、韓国でブロードバンド化がこれほど進んだのか?」という質問を頻繁に受ける。アジアネットワーク研究所の会津 泉代表は「風 from ASIA(2002年5月13日)」の中で、その理由として、いくつかの要素を上げている。政府の政策が効果的だったという人もいるが、「最大の要因は国民自らがブロードバンドを熱心に使いこなそうとしたことだ」。まず、ゲームが普及し、子供たちが夢中になった。PCバンという高速ネットが使えるゲームセンターが街頭に急増した。そこで家庭にADSLが引かれる。簡単に高速回線が導入でき、常時接続で料金が定額であることも受けた。 さらに1997年からの経済危機でグローバリゼーションの荒波にもまれ、国民に強い危機意識が生まれたことも大きかった。親たちは「これからの世界では英語とインターネットができなければ生き残れない」と痛感し、子供がネットを使えるようにするのは当然と考えた。韓国のすべての学校が高速インターネットでつながっている。経済危機の中、財閥企業に見切りをつけた人々を中心にベンチャー企業が続々誕生し、米国帰りの技術者たちがこれに加わった。主婦たちが株の売買にネットを使い、無料電話が普及し、通常のテレビ放送がネットでも流されるなど、ブロードバンドを活用できるサービスが増えたことも効果的だった。これらの要因が重なり合って、「好循環を作り出した」と述べている。 世界の通信事業者がうらやむほどの成長を続ける韓国のブロードバンド市場だが、飽和点に近づいているという見方もあり、ポストADSL市場をにらんだ技術投入の動きも始まっている。 ■日本のネット書店日本では、書籍全体の売上に占めるネット販売の割合は2001年で1.4%と市場は小さい。ネット販売のシェアの高い韓国と異なり、通常、勝ち組みと見られる企業でも利益計上までになお距離がある。日本のネット書店市場はアマゾン・ドット・コムの参入で競争が激化した。日本法人のアマゾンジャパンは、シェア拡大を図り、断続的に送料無料キャンペーンを実施。現在までに国内最多の80万人の会員を獲得している。 書籍の再販制度がある中での実質的な値下げといえるアマゾンの攻勢で、競合組の脱落も目立つ。独メディア大手のベルテスルマン傘下のBOLジャパンが2001年10月に事実上撤退、三省堂も同11月にネット販売事業をブックワンに移管した。BOLは書籍のネット通販への期待からテレビCMなど多額の経費をかけたが、売上が低迷。知名度不足のうえ、品揃えは日本出版販売に依存し、他社との違いを打ち出せなかった。三省堂も99年秋に参入、自前でシステムや書籍データベースを整備したが、経費をまかなえる売上が達成できなかった。ブックワンにデータベースや決済の運営を委託し、手数料収入を得るのが得策と判断した。 ネット書店の収益構造はぜい弱なのが実情で、もともと書籍の小売マージンは22%程度。ネット書店は、この中から配送コスト(8%)、こん包作業など出荷コスト(5%)、クレジット決済コスト(2%)などが引かれる。さらにシステム経費・償却費、コンテンツ制作など人件費が上乗せされる。顧客を増やすか、利益率が書籍より高い「その他商品」を売らないと損益分岐点を超えにくい。また、出版社と取次会社の関係が密接な日本では、「中抜き」で卸値を引き下げるのも難しい。その結果、大手アマゾンでも2003年以降の黒字化を目指しているのが現状である。出版科学研究所によると、2001年の日本におけるネット書店市場は140億円。前年の倍だが、9,455億円の書籍市場全体のわずか1.4%。出版市場そのものも5年連続のマイナス成長であり、当面、ネット書店は「黒字化の方程式」を模索して、いっそうの再編や淘汰が必至と見られている。 ■参考文献
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<寄稿> 武川 恵美 編集室宛 nl@icr.co.jp |
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