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ハイパーアジア
2003年11月掲載

アジア通信市場における外資の出資状況−フィリピン

 今月号から数回にわたり、アジアの通信市場における外資の出資状況の変化を把握する。今回は、2003年10月にフィリピン第2位の携帯通信会社グローブ・テレコムの株式を買い増すことが報じられたシンガポール・テレコム(シングテル)を中心に取り上げる。

■フィリピンの通信事業者

 フィリピンには、PLDTを筆頭に2000年に固定電話77社、携帯電話5社、国際11社等、多数の通信事業者が参入している。1995年に国際通信事業者、携帯電話事業者に固定回線事業を義務づけるサービス・エリア・スキーム(SAS)*により固定回線の敷設が進んだが(2000年末に690万回線)、料金が国民の生活水準に比べて高いことなどから、加入数は2001年末で339万回線と半分程度に留まっている。固定電話事業者は固定回線の過剰設備をかかえ経営危機に直面しており、PLDTを含めた統合の動きが見られる。PLDTはPhiltel に40%出資しているほか、2000年3月にSmartを取得しており、グローブは、2001年6月に携帯電話事業者のIslacomを完全子会社化している。

* SAS:1993年の大統領令109号に基づき、1995年に開始、固定電話のユニバーサル・サービスの観点から国際電話、携帯電話への参入と引換えに、新規参入事業者に担当エリアにおける一定量の回線敷設を義務付けた。

フィリピン通信大手2社の加入者数(2003年3月末)

 フィリピンの通信事業者に対する外資の出資比率は上限40%となっており、PLDTには香港の投資会社ファースト・パシフィックが24.4%、NTTコミュニケーションズが15%出資している。筆頭株主であるファースト・パシフィック自身もアジア通貨・経済危機前に多額の投資を行ったために、多額の負債をかかえている。2002年6月、フィリピン財閥ゴコンウェイ・グループがファースト・パシフィックからPLDTの経営権を取得するため、実質的な株式売却を定める合意覚書を締結した。しかしPLDT社長を始めとするマネジメント層が反対し、交渉は同年9月の期限までにまとまらず、取得を断念している。

 グローブ・テレコムは、フィリピン大手財閥アヤラが株式を保有しており、新規参入組では最も成功している。株主に財政的に健全なシングテルがいるのも安定感を与えている。シングテルは、ドイツ・テレコムが放出するグローブ株の一部を取得する予定で、出資比率は約43%、フィリピン大手財閥アヤラと並ぶ筆頭株主になる。ドイツ・テレコムはかねてから、中長期的に東南アジア全体から撤退すると見られており、既存株主であるシングテルによる買い増しが有力視されていた。今回、ドイツ・テレコムはグローブ株25%をすべて売却する方針で、一部はグローブ自身が自社で引き取り、残りをアヤラとシングテルが買い取る方向である。シングテルは約106億ペソ(約212億円)を支払うと見られている。

主な通信事業者の出資状況

■シンガポール・テレコムの海外戦略

 シングテルが2003年8月に発表した2003年4〜6月期決算によると、売上高は前年同期比20.3%増の29億6,000万シンガポール・ドル(Sドル、約2,040億円)、純利益は217.8%増の11億9,800万Sドル(約830億円)で大幅な増収増益となった。

 この業績に貢献しているのが、オーストラリアのオプタスである。オプタスの同期の売上高は15億豪ドル(約1,200億円)、加入者の順調な伸びに支えられ、携帯電話サービスの売上が23%増となった上に、オーストラリア・ドル高にも支えられ、好業績を達成した。このほか、出資企業からの売上はおおむね増収となっており、シングテル社長は「当社の海外拡大戦略の成功により、シンガポール経済の見通しは厳しいながらも、持続的な成長に向け、非常によい位置にある」とコメントしている。

シンガポール・テレコムの主な海外出資先

<寄稿> 武川 恵美
編集室宛 nl@icr.co.jp
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